女子アナ30歳定年説。かれこれ30年以上、テレビ業界で言われてきたことだ。
そんななか、三十路に入ってから再浮上を果たしたのが田中みな実(33歳)である。かつてのぶりっこを「あざと可愛い」にアップグレードして、写真集を出したり、女優をやったりしている。また、新井恵理那(30歳)は昨年上半期の「タレント番組出演本数ランキング」女性部門で不動の女王・ハリセンボン近藤春奈を抜き、トップに立った。この春からは「グッド!モーニング」(テレビ朝日系)のメインMCに内部昇格するなど、テレビで顔を見ない日はない状況が続いている。
このふたりに共通するのは「フリーアナ」だということ。じつはここ数年、女子アナの世界では局アナよりフリーアナのほうが元気がいい。そのバロメーターといえるのが、玉の輿率だろう。
いつかファーストレディになるかもしれない滝川クリステルに、夭折したが未来の人間国宝候補と結婚した小林麻央、さらに国民的アイドル・二宮和也や、大リーガーの前田健太や菊池雄星を射止めたのもフリーアナだ。かつて局アナが芸能界やスポーツ界、政界の大物を次々と落としていたことを思うと、すっかり取って代わった感がある。
また、フリーアナには30代後半以上になってもアイドル的人気を保ち続ける人がいる。
これはいったい、どういうことなのか。ひとつには、局アナと比べて、疲弊しにくいという利点がある。局アナの場合、優秀であればあるほど酷使され、使い減りしがちだ。その点、生粋のフリーアナなら、世に出るのも時間がかかるし、出ずっぱり状態にはなかなかならない。ある程度は仕事も自分で選べるから、お天気お姉さんを数年やってから、キャスターへという、新井・皆藤パターンでじっくり攻めてもいける。そのあいだに国民的アイドルや世界的アスリートを籠絡することも可能というわけだ。
それゆえ、キー局の局アナも早めに独立してフリーになるケースが増えた。田中がTBSをやめたのは「定年」3年前の27歳のとき。再ブレイクできるだけの余力を、充分に残していたといえる。
「局アナとして10年後の自分の立ち位置が見えなかった。20代のうちになにかできることはないか」
というのが、独立にあたってのコメントだ。彼女はこの選択により、局アナ時代以上の名声を得た。
そしてもうひとつ、局アナという存在そのものが飽きられたという事情がある。そもそも、局アナがアイドル化したのは80年代末、本家のアイドルが冬の時代を迎えた時期だ。本家が男性ファンに媚びるより、オシャレなCMなどで女性ウケを狙うようになったため、その穴をグラドルとともに埋めたのが、当時「アナドル」などとも呼ばれた局アナだった。
フジテレビ三人娘に日本テレビの三人組DORA。彼女たちはバラエティにも出たし、CDまで出したりした。なかには「スーパーJOCKEY」(日本テレビ系)で熱湯CMをやらされかけた人もいる。「ランク王国」(TBS系)で進藤晶子が披露したセーラームーンコスプレなどもなかなかエグかった。それこそ「芸能人水泳大会」のような文化がすたれるなかで、アイドルが本来持っている「やらされてる感」的なエロスをふりまいたのである。
いや、その魅力はある意味、本家以上だったかもしれない。
ただ、文化になってしまうと、その当事者は自覚的になりがちだ。なかには、どうせ30歳までなのだからと、そのあいだを腰掛けのようにして、婚活目当てで局アナになる人も出てきたりして、局アナのエロスは予定調和なものに変わっていった。
■大石恵にはじまり、皆藤愛子、新井恵理那、岡副麻希や阿部華也子が所属するセント・フォース
そこに、新たな勢力として登場するのがフリーアナである。特にセント・フォースはフリーアナ量産プロダクションとして、大きな流れを作った。お天気お姉さんの育成が得意で、94年に「ニュースステーション」(テレビ朝日系)でデビューした大石恵を皮切りに「めざましテレビ」(フジテレビ系)や「新・情報7daysニュースキャスター」(TBS系)にも多くの人材を提供している。皆藤や新井もここから世に出たわけだ。
また、女子大生部門というべきスプラウトを設けて、のちに子会社化。大学在籍中はスプラウトで、卒業したらセント・フォースにというシステムを確立した。これにより、有望な女子大生を青田買いして、長期的にマネジメントすることができる。新井もそうだし、岡副麻希や阿部華也子もこのシステムを通過したのである。
とまあ、局アナとフリーアナの違いは要するに「所属」のかたちだ。つまり、局アナは会社員でもあるが、フリーアナは純然としたタレントということになる。おかげでフリーアナは、CMや雑誌のグラビアなどにも登場できる。いわば、局アナ以上にアイドルらしい活動が可能だ。
とはいえ、会社員という立場がない分、売れなければ消えるだけである。会社の命令でやりたくない仕事をやることはないかわり、それを自分の意志でこなしたりもする。ちょっとでも上に行き、長く生き残るために。そういう意味では、フリーアナの世界は本家のアイドルのそれに近い。彼女たちの媚びは、会社のためではなく、自分のためなのだ。
そんなフリーアナの世界観をわかりやすく見せてくれているのが、今をときめく新井である。ミス青学から局アナへという王道を目指したものの、最終選考に残れたのはフジのみで、全敗。その悔しさから、フリーアナになった。
3月27日放送の「徹子の部屋」(テレビ朝日系)では、
「今、10年目くらいになるんですが、始めた頃は全然お仕事がなくって、大学4年生のときから仕事をしているんですけれども、まったくなかったので、今、こうしていることが本当に不思議なくらいでして」
と笑顔で語ったが、無職になったときは、降板した番組スタッフからもらった花束を帰宅後、床に投げつけたという。
「我に返って花束を拾うと、自分が情けなく思えてくる。すごく悔しくて、降板した番組は見ませんでした。フリーはいつ仕事がなくなるかわからない。厳しい現実を突きつけられる日々でした」(Yahoo!ニュース 特集編集部)
そこから復活後、下克上的な快進撃が始まるわけだが、テレビに映る彼女からは花束を投げつけるような激しさは伝わってこない。そこを見せずに、あくまで癒し系として安らぎをもたらし続けられるあたりが、世の中から求められる稀有な才能でもあるのだろう。
女子アナの場合、自己主張より自己抑制の能力のほうが重要だ。たとえば、局アナからフリーアナになっても安定した人気を維持する加藤綾子は、そのバランスが抜群だったりする。新井もまたしかりで、バランスのよさを感じさせる。
会社員でもある局アナ以上に、プロの女子アナとしての資質が期待され、競争にもさらされるフリーアナ。コロナ問題も年単位で長引くことが予想されるだけに、強さを内に秘めつつも優しく可憐であり続ける彼女たちは貴重だ。