コロナ危機があぶり出したもののひとつとして、「日本は実はデジタル先進国ではなかった」という事実ではないだろうか? 小中高校から大学までのオンライン教育は混乱をきわめ、判子文化は無くならず、会社のテレワーク化は自粛要請の期間のみ。再び早朝のラッシュアワーが戻ってきた。
■田中宇の「新型コロナウイルスの脅威を誇張する戦略」説
田中宇(たなか・さかい)は、1998年以来ずっとインターネットで「田中宇の国際ニュース解説」(https://tanakanews.com/)を発信し続けている。公開されているオシント(OSINT/ open-source intelligence)情報のみからの分析には定評がある。
その田中の2020年6月4日配信記事「新型コロナの脅威を誇張する戦略」が面白い。その要旨をまとめると、次のようになる。
「最近、デンマークでもドイツでもロシアでも、世界的に、コロナの致死率が実際よりはるかに大きな数字として誇張されてきたことが発覚している。各国政府はコロナの危険性を誇張し、悪影響が非常に大きい経済的自滅都市封鎖策を強行した。これは、普通ならば、アメリカ民主党系の軍産複合体が、同盟諸国や国際社会に同じ対策を採らせ、感染症対策を口実に世界政府的な覇権機能を行使・拡大する策だと考えることができる。しかし、今回の都市封鎖は、長期的には世界経済を破壊し、FRBのQE急増からドルの基軸性喪失、アメリカ経済覇権の崩壊につながる。したがって、軍産複合体が犯人とは言えない。
田中のみならず、何らかの理由で今回のコロナ危機脅威が捏造されたものらしいことは多くの人々が指摘している。私自身は、コロナ危機によって急遽もたらされた変化から判断すると、これは世界経済フォーラム(World Economic Forum、WEF/通称ダボス会議)が2016年から打ち出している「第四次産業革命」実現のための大きな布石だと思う。
■「第四次産業革命」確認の前にコロナ危機がもたらした変化を確認
新型コロナウイルス感染拡大を防ぐためには、人間と人間が接しないことしか予防策がない。人間同士が接しないで社会を運営しようと思えば、ICT技術を活用するしかない。
ICT技術で代替できない分野は、今回のコロナ危機で大きな痛手を受けた。飲食店や小売業の閉店や倒産は増えた。観光業や宿泊業に、航空業界や新幹線を始めとする鉄道、バス、タクシー、配車サービス業は利益を激減させた。病院も不要不急の外来患者が減り利益を激減させた。美容院、理髪店、エステ、しかりだ。日本では、直接に身体に触れる整体院、鍼灸院も顧客数を減らした。
業界も対応に知恵を絞り、冠婚葬祭もリモート形式でするサービスを始めた。結婚式のご祝儀や葬式の香典はクラウドファンディングで受け付ける。
言うまでもなく利益を上げたのは、オンライン環境を整備するICT業界とAmazonなどのインターネット通販業界だ。今後、第二波、第三波のコロナ危機が予想される。感染者が減る夏の間に、世界中が、役所も企業も学校もオンライン化、デジタル化を急いで促進しなければならない。
「日本経済新聞」6月5日朝刊の「大機小機」が「今回あぶりだされた問題の一つは、情報通信社会と分断された教育制度である。現在の義務教育は、世界標準のインターネット環境に適応していない」と書いている。確かに、コロナ危機は、小中高校のみならず大学にいたるまでの日本の教育機関のICT後進性を明らかにした。
いまだに小中高校の児童生徒それぞれに1台のPC でさえ無料配布できていない。ICT技術を教える教員も現場に少ない。ICT技術研修を常に現場教員に対して開催する自治体も少ない。
政府や自治体や企業のICT後進性をも明らかになった。この期に及んで役所や企業にはハンコ決済の慣習が残っている。
日本の企業は雇用制度を在宅前提にシフトし始めている。日立製作所は2021年4月から約2万3000人を対象に導入。富士通は2020年度に課長級以上の管理職に導入し、順次拡大する予定だ。資生堂は2021年1月から約8000人のオフィス社員に拡大。AGC(旧旭硝子)は、在宅勤務経費を年12万円まで補助。メルカリは通勤費の定額支給をやめ、在宅勤務経費を半年で6万円補助を決めた(2020年6月8日「日本経済新聞」朝刊より)。
そうなると、経営者側は職務内容を明確にして「職務定義書」(job description)を被雇用者に示し、被雇用者は成果で評価されることになる。これが「ジョブ(job)型評価」だ。「在職場時間」はやたら長いが実質的には何をしているのかわからない類の「勤務先に忠誠心はあるが無能な働き者」は淘汰される。
「職務定義書」(job description)など前もって提示せず、阿吽の呼吸でテキトーに業務遂行を被雇用者にさせるし、こんなものかと被雇用者は受け入れるというのが日本の雇用慣行だった。雇用者もぼんやり。被雇用者もぼんやり。もう、これは通用しなくなりつつある。リモートワークでは、指示内容がぼんやりしていては、仕事のやりようがない。必要な仕事内容を把握し部下に適切に配分できない上司は無用だ。
「日本は先進国」と思っていた私は2011年3月11日の原発事故で、それは私の幻想だったと思い知らされた。しかし、今回のコロナ危機によって、さらにとどめを刺された。
■「第四次産業革命」実現をめざす世界
この政策は中国独自のものではない。2016年にすでに「世界経済フォーラム」(World Economic Forum、WEF/通称ダボス会議)が打ち出した「第四次産業革命」に即したものである。
「世界経済フォーラムは、経済、政治、学究、その他の社会におけるリーダーたちが連携することにより、世界、地域、産業の課題を形成し、世界情勢の改善に取り組むことを目的とした国際機関。1971年に経済学者クラウス・シュワブにより設立された。スイスのコロニーに本部を置き、同国の非営利財団の形態を有している」と、ウィキペディアには書かれている。
この機関を設立した経済学者のクラウス・シュワブ(Klaus Schwab:1938-)はスイスの経済学者で、ドイツ生まれ。貧乏なのが普通の学者なのに、自分の「財団」を持てるのが不思議だが。
クラウス・シュワブは、第四次産業革命について本も書いている。その翻訳も出版されている。『第四次産業革命---ダボス会議が予測する未来』(世界経済フォーラム訳、日本経済新聞出版社、2016)だ。(https://amzn.to/2Av0XfG)
この本の目次を見るだけでも、第四次産業革命が何をめざしているか見当がつく。
「体内埋め込み技術」「デジタルプレゼンス」「視覚が新たなインターフェイスになる」「ウエアラブル・インターネット」「ユビキタス・コンピューター」「ポケットに入るスーパーコンピューター」「コモディティ化するストレージ」「インターネット・オブ・シングスとインターネット・フォー・シングス」「インターネットに接続された住宅」「スマートシティ」「意思決定へのビッグデータ利用」「自動運転車」「AIと意思決定」「AIとホワイトカラーの仕事」「ロボット技術とサービス」「ビットコインとブロックチェーン」「シェアリング経済」「政府とブロックチェーン」「3Dプリンタと製造業」「3Dプリンタと人間の健康」「3Dプリンタと消費財」「デザイナーベビー」「ニュー・テクノロジー」。
できれば2030年くらいには、遅くとも2050年までには、こういう世界を実現しようというのが、「第四次産業革命」だ。「世界経済フォーラム」の共通認識なのだ。
■日本の「ムーンショット目標」は第四次産業革命の日本版
この世界経済フォーラムで決まったことに即して、日本政府もSociety 5.0 実現を目指すことになった。5月27日には急いで「スーパーシティ法案」を通過させた。これは、「岩盤規制」でがんじがらめになっている日本全体をすぐ変えることができないので、「国家戦略特区」を作り、その地区だけ特別に規制を外し、実験的にSociety 5.0的システムを導入させようという法案だ。成功したら、あちこちで導入しようというわけである。
立法府は国会なのだから、「岩盤規制」があるからなどと言っていないで、サッサと規制緩和すればいいと思われる。しかし、「民主国家」の日本はそうは簡単に変化できない。日本の人口はアメリカの半分なのに、日本の国会議員の数はアメリカより多い。2020年現在では709人。アメリカでは531人だ。ちなみに世界で最も国会議員の数が多いのは中国で2975人だ。中国の人口は日本の人口の10倍だが、国会議員の数は10倍じゃない。(https://www.globalnote.jp/post-14480.html)
日本では国会議員の利権構造が頑強であり、そこに関与している官僚たちの利権構造も頑強であり、そこに関与している有権者の利権構造も頑強なので、そこを崩して規制緩和できないようだ。
しかし、世界と歩調を合わせないと、日本の産業が世界に食い込めない。つまり、日本の技術が稼げない。稼げないと、極東の離れ小島の貧乏な後進国になる。
日本政府は、「ムーンショット目標」を掲げて、未来の技術開発研究に潤沢な予算を出すからと、企業や研究機関に名乗りをあげよと檄を飛ばしている(下記引用映像参照)。
ムーンショット(moonshot)というのは、故JFK大統領が発した言葉だ。アポロ計画を開始するきっかけとなった1961年5月25日のスピーチで、「月に向けたロケットの打ち上げ(ムーンショット)」が、その由来だ。「10年以内の1960年代終わりまでにアメリカは人間を月に送り、無事帰還させる」と、ケネディ大統領が言った。つまり「最初にできそうもない目標を掲げておくと、技術がその実現を目指して発展する」という意味だ。
内閣府のサイトには、「ムーンショット目標」について以下のようなことが書かれている。(https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/sub1.html)
1.2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
2.2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
3.2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
4.2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
5.2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
6.2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現
「2050年までに、複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせることによって、大規模で複雑なタスクを実行するための技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する」
「2030年までに、1つのタスクに対して、1人で10体以上のアバターを、アバター1体の場合と同等の速度、精度で操作できる技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する」
「サイバネティック・アバターは、身代わりとしてのロボットや3D映像等を示すアバターに加えて、人の身体的能力、認知能力及び知覚能力を拡張するICT技術やロボット技術を含む概念。Society 5.0時代のサイバー・フィジカル空間で自由自在に活躍するものを目指している」
■デジタル世界でないと未来がない人類
最初、これらを読んだときは、私は冗談かと思った。しかし、世界経済フォーラム(世界連邦政府?)も日本政府も、本気で2050年にはSF映画の世界を実現しようとしている。よく考えると、これしか手がないのかもしれない。
「第四次産業革命」が実現すれば、どこでも増えつつある高齢者人口対策になる。高齢者をサイボーグ化すれば、介護はしなくてすむ。高齢者も社会参加できる。
少子化対策にもなる。先進国では出生率は上がらない。家族神話の洗脳は解けつつある。子育ては理不尽な重荷だと、もうかなりの人々が意識している。家族形成が人生だと思い込んで疑わない人々は減りつつある。少子化でも、サイバネティック・アバターがいれば、労働者人口や消費者人口の減少もカバーできる。
地球の環境汚染は確実に軽減する。人口が減れば、地球への負荷は軽減する。サイバネティック・アバターは、太陽光の電力源は必要だが食料は要らない。排泄しない。資源や水の乱費はしない。環境を汚さない。
地球上にフロンティアは、すでにない。宇宙にコロニーを作るのはもっと先だ。地球内部に空洞があって、そこに異世界があるかもしれないが何キロ掘ればいいのか?地球に残された唯一の未開拓のスペースは、サイバー空間しかない。アニメ『攻殻機動隊』のヒロイン草薙素子少佐が言うごとく、「ネットは広大だわ」だ。
2016年の世界経済フォーラムが掲げた第四次産業革命と、それに応じて2020年2月に日本政府がぶち上げたムーンショット目標は、人類に残された唯一のフロンティアであるサイバー空間に人類を移住させることであるらしい。
■2021年の世界経済フォーラムのテーマはGreat Reset!
ちなみに、2021年の世界経済フォーラム/ダボス会議のテーマは、「グレート・リセット」(Great Reset)である。リセット(reset)はリブート(reboot)とは違う。手順を守りつつ穏やかに電源を落として、しばらくしたら再起動させるのがリブートである。一方、ウンともスンとも動かなくなったコンピュータの電源を落とすのがリセットだ。「強制終了」だ。
たとえばスラムがあるとする。スラムが抱える諸問題をひとつひとつ解決していくには時間も労力もかかる。住民たちの自主的自律的努力も期待できない。ならば、いっそスラムを燃やして焼け野原にして新しいシステムで町づくりをするような方法が「リセット」だ。来年の世界経済フォーラム/ダボス会議のテーマの「グレート・リセット」の実行方法は、どうなるのだろうか。怖い怖い。