緊急事態宣言が全面解除された6月19日。それまで午後8時までしか営業できなかった居酒屋なども、5月26日より午後10時までの営業が認められ、12日からは午前5時~午前0時まで営業できるようになっていた。

緊急事態宣言の解除や自粛警察の監視の目が緩むのに比例するように、街にも人が戻ってきていた。同時に店内利用をする顧客も増え、厳しい状況に追いやられていた飲食店も、上向き始めていた売り上げにほっと胸を撫で下ろしていただろう。
 だが、一方で新型コロナの感染者数は密かに再び増加し始めていた。6月26日以降は毎日50人以上の感染が確認。7月に入ると東京都での新規感染者が200人を超す日が頻発し、いつ東京アラートが発令されるのかと恐れを抱く飲食店オーナーも少なくないのではないだろうか。
 そこで今回、特に厳しい状況に追いやられた飲食店業界の現状について、街金業者のテツクル氏と不動産ブローカーのあくのふどうさん氏に聞いた。



■不動産だけでなく売掛金や車も担保に

 先行きが見えない現状の中では、たとえ街金業者としても貸し付けには慎重にならざるを得ないことは前回の記事でも紹介した。
 とはいえ、街金業者のテツクル氏は、それでも融資を実行ケースがあると話す。
「不動産のほか、クレジットカード売り上げが多い場合にはその売り掛けも担保になります。ある程度、換金性が高い車種であれば車も担保になります」(テツクル氏)
 それらを担保にして、一体どれくらいの金額を借りられるのだろうか。フェラーリなどの高級車を担保にして貸し付けたケースを例に説明してもらおう。
「車を担保に貸す場合は、一度ウチが買い取って、返済時に買い戻してもらうという立て付けにするんです。

万が一、返済がされなかった場合は、その車を売って現金化します。そのため、貸し付けられる金額は、その車の中古車市場の価値ではなく、販売店が買い取ってくれる金額をベースにして算出します。市場価格の半分もいかないので、『少ない』とびっくりする方もいますね。ちなみに中古車市場で2500~3000万円くらいで売られている車種に貸せる金額は、多くても1000万円程度です」(テツクル氏)
 だが、背に腹は変えられない。そのため、車を担保に融資を受ける債務者は常に複数人いて、とある近郊に専用の車庫を借りているそうだ。



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 今回のコロナ禍では、高級クラブにクレジットカードの売り上げを担保に貸し付けたケースもあったという。
「カード売り上げが半月分で約1000万円あったので、担保になり得ました。ただし、これは高級クラブという単価の高いお店だったからできたこと。通常の飲食店の場合、宴会がバンバン入る居酒屋でもない限り、単価が低いのでこんなに売掛が溜まってないんですよね。しかも、決済のスピードが早く、翌日に入金のある決済を導入しているケースも少なくありません。つまり、2週間~4週間に1度の決済で、売り上げがある程度まとまっていないと担保にはならないんですよ」(テツクル氏)
 カードの売り掛けを担保にするのはハードルがかなり高いようだ。だが、今回の新型コロナ騒動では、日本政策金融公庫などによる新型コロナウイルス感染症特別貸付という確実な入金が未来に待っているケースも少なからずあった。


「この緊急融資の審査が甘かったため、通常なら借りられないようなお店でも融資を受けることができました。その入金があるまでの繋ぎ融資の依頼もそこそこありましたね」(テツクル氏)
 テツクル氏にとっては、返済期間が短いため、それほどの稼ぎにならないが、それでも返済が見込めるだけいい。



倒産カウントダウンが始まった!! 生き残れる飲食店、先のない飲食店②【街金:テツクル&不動産:あくのふどうさん】





■もともと経営が苦しいお店も特別貸付を得ている

 実は、この新型コロナウイルス感染症特別貸付による融資を受ける店舗の中には、本来なら借りられない額を借りているケースも少なくないのだ。
「借りるだけ借りて、手持ちの現金を増やして、さて、今後どうしようかと考えている段階だと思いますよ」
と話すのは、あくのふどうさん氏。あくの氏は不動産ブローカーの傍ら飲食店を2店舗経営している。
「今回、まず厳しい状況に追いやられたのが、もともとカツカツな状況で経営している飲食店。それから立ち上げ時の初期費用で多く借金をしているお店です。また、元々の店の所在地が持っている場所の力というものがあります。駅から近いにも関わらず、暗さを感じたり、見栄えが重かったりと、お客さんが定借しずらい物件というものがあるんですよね。それを我々は、『死に筋店舗』と呼んでいるのですが、そういう場所は居抜きなど良い条件で借りられていても、存続は難しいかもしれませんね」(あくの氏)
 そんな、もともと経営が苦しいお店も特別貸付を得ているケースでは、当然ながら債務超過になっている。無利子期間、返済しなくて良い期間はあるものの、借金は借金。いずれ返していく必要がある。

金は借りたもののたいして使わなかったからと、先行きを見通せるようになった時にまとまった額を返済できればいい。しかし、返すこともできない、売り上げもさほどないという店が、大量に生まれてしまう可能性も秘めているのだ。
 そのような店舗は、借金の返済を焦げ付かせながら、じわじわと倒産に向かって進んでいくしかない。日本の飲食業は、低価格で美味しく、従業員の質も高いという定評がこれまであった。それは、現場の従業員の低賃金に支えられているものでもあった。これ以上、劣悪な職場環境になった時、同じ質を維持していけるのだろうか。おそらく、それは厳しいだろう。ファストフードではないのに、「うまい、安い」、そしてなんといっても「スタッフが親切」を実現していたクールジャパンな飲食店から、その長所が消える日も遠い未来ではないのかもしれない。



倒産カウントダウンが始まった!! 生き残れる飲食店、先のない飲食店②【街金:テツクル&不動産:あくのふどうさん】



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