元祖鉄道アイドル、今は「鉄旅タレント」として鉄道をアツく語る、木村裕子が日本各地の魅力的な路線を紹介する“女子鉄ひとりたび”(『女子鉄ひとりたび』著・木村裕子より)。「滝行」ができる宿坊に泊まったのはいいが、自分以外はそれなりに「わけあり」な事情を抱えた女性ばかりで、肩身の狭い思いをしてしまった彼女。

さあ、いよいよ今日は「滝行」本番の日! この経験は木村裕子の人生にどんな影響を与えるのか?



■こんなところにもコアな鉄道ファンが!?

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 翌朝は5時に起床、神主さんを先頭に山道を30分歩いて、滝を目指す。私語は禁止だ。



 滝の近くにある参加者専用の テントで、着替えをする。女性は下着を全て外して、薄い浴衣のような白装束、男性はふんどし一丁で、恥ずかしそうだ。



 拝礼・歌・雄叫びの儀を終えるといよいよ滝行がスタートした。
 男性は躊躇(ちゅうちょ)する人が多かったのに、女性は震えつつもみな思い切りよく、滝に飛び込んでいく。



 私の順番が 回ってきた。他の女性たちと同様、勢いよく滝に入った……のだが、どうも私は滝行をなめていたようだ。



 罰ゲームで芸人さんがやっているくらいだし、騒いでいるのはリアクション芸の一種で、本当はそこまでではないのだろうと思っていた。



全能感みなぎる体験‼️ 私を滝行(たきぎょう)へ連れてって♡後編【女子鉄ひとりたび】12番線



 実際は全然違う。水は凍えるように冷たく、一瞬で北極に来たかのようで、夏なのに、滝付近では吐く息が白い。強烈な水圧が全身にかかり、必死に踏ん張り続けないと立っていられない。

さらに全身を殴られているような痛みを伴う。とにかく苦しいのだ。



 時間にすると1分にも満たないのに、その時間は相当に長く感じた。心の中で「テレビカメラも回ってないのに、なんで参加してしまったんだろう。義太夫さんの言うとおりだった……!」と後悔してしまった。



 だけどやり終えたとき、これまでに感じたことのない爽快な気分になった。
「今ならどんな苦難も乗り越えられる!」という自信が降臨した感覚だ。



 神主さんによると、
「男性は失神する人もいるけど、女性は大きな声を出すし度胸も肝も据わっていて、その芯の強さにはいつも驚かされるよ」とのこと。



 その言葉は本当だった。女性参加者を見渡すと、滝行直前まで不安でいっぱいの顔だったのに、いまは目に力が宿って、まっすぐ未来を見るかのような視線になっている。私も同じだ。新しい自分に生まれ変わった気がした。



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 宿坊へ戻り、神主さんと談笑していると、
「私も元・鉄っちゃんでSLの部品を持ってるよ」との思いがけない告白。
そして 、奥からC56形(SL)の圧力計と連結フックを持ってきて見せてくれた。たまたま選んだ宿坊に、鉄道好きの神主さんがいたとは。類は友を呼ぶって、こういうことなのだろうか。



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■下山したらヴァージョン・アップした私がいた

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 御岳山を下車して、青梅線の終着駅・奥多摩に向かった。
 ここでのお目当ては東京で唯一残る奥多摩(おくたま)工業の鉱山用トロッコだ。



 駅から歩いて工場の方へ。山道を囲むようにむき出しのパイプが建っていて、SFの世界へ来てしまったかのよう。ガシャンガシャンと大きな音を立てて動く機械は、工場萌えでなくても思わずトキめいてしてしまう。



 森へと続く公道を進むと、今度はセミの鳴き声だけが響き、クモや昆虫が飛んできた。無類の虫嫌いなので、いつもならこの時点で断念するのに、滝行のエネルギーで全能感がみなぎっていることもあり、怖いものなしで進むことができた。



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 ほどなくすると、ガタンゴトンと鉄道好きには魅惑的な音が聞こえてきた。

木々の間から、無人トロッコが見える。綺麗に整列しているように間隔を空けて、ゴロッとした鉱物を積んだものと、空っぽのトロッコが橋を渡っている。人影もない山中で、規則正しくひっそりと運行されている様は、見ていて飽きなかった。



 この青梅線には「東京アドベンチャーライン」という愛称が付いている。その名に違わず、さまざまな冒険が詰まっている路線だ。
 次回「夏のおすすめの路線は?」と取材を受けたら、ここを一番にしよう。



(13番線へ続く)

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