日頃見えてこない生活金融の現場。『ぼく、街金やってます』の著者であり、現役街金経営者のテツクル氏の実話をもとにバラ色の20代から暗黒の20代後半へと変わるお話しをする。


 多重債務者の現実。それを「見続け、貸し続け、回収する」街金の現実。
 債務者と債権者の壮絶なドラマをお届けします。



■ぼく、埋められそうになりました

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 昔のことです。
 利払いが遅れてる債務者をファミレスに呼び出して、売掛金や回収に繋げられる可能性のある資料すべて持参させました。



 ひと通りチェックが終わり店を出ると、ちょうガラ悪いお兄さんに声をかけられました。



 「おい、そいつうちの客なんだけど。なに勝手に話進めてんの?」
 「いやいや、うちの客でもあるんですけど」
 「ま、とりあえず車乗れよ」
 「は? 乗る筋合いなくないです?」



 店の下を見ると、高級車2台のまわりに5、6人のガラの悪いお兄さんたち。
 ちょっとヤバいかも。
 でも大声で助けてーって叫ぶのちょっと恥ずかしい……。



 結局お兄さんたちの圧に押しきられ、車に乗せられてしまいました。



 後部座席の両隣に怖いお兄さん。

突然深いニット帽を首まで被せられて、視界を塞がれた状態で殴られます。見えないから突然痛いので、結構キツイです。手錠もかけられます。なんでそんなに用意周到なの。走り出す車。
 
 「うちの客に手を出すとかおまえナメてんだろ。死にたいの?」
 助手席の一番偉そうなお兄さんがキレ気味に言います。



 「いやーだからうちの客でもあるってお話ししてるじゃ……」
 ボコッ。
 すぐ殴ります。
 両脇のお兄さんだけじゃなくて助手席から蹴りも飛んできます。



 こうなるともう戦意喪失です。
 車が高速道路の入口で通行券を取る音はしました。

ETCとかない時代です。



 これ、本当に山に埋められるかも。



 それでも頭の中は冷静を保てていたので、車に押し込まれた場所からの走行時間から、おそらく関越道に乗ったのではないかと想像できました。



 「おまえ、最後のチャンスやるよ。あの客から手を引くなら山ん中に捨てるだけにしてやる。引かないならこのまま埋めちゃうよ?」
 「もうこの状況でやってやるよとか言うわけないじゃないですか……。ギブです、ギブ……。」
「よし、じゃ今日の手間代、おまえの財布から抜いとくからな。おい、こいつ捨てられる適当な場所ないか?」



 運転手がはじめて口を開きます。
「次のインター降りたとこにいいところあります。自分、地元なんでわかります」
「よし、そこに捨てちまえ」
 
 次のインター降りたところって、ぼくも地元なんですけど……。
 インターを出た車がしばらく走ると、砂利道に入りました。
 あ、あの河川敷かも……。


 しばらくすると、車が停まり、
 「おい、降りろ」と手荒に引き摺り下ろされます。
 
 「今日のところは埋めはしないけど、次ないよ?」
 いきなり石のようなもので頭を殴られます。
 ちょう痛いです。まだニット帽被されてるので、飛び蹴りされても身構えることもできずボコボコです。
 ニット帽を剥ぎ取られて、顔面グーパンチ。お兄さんたちは革の手袋してたので、これちょう痛いんです。
 お兄さんたちは満足したのか、ぼくのカバンから財布やら携帯やらを抜いて、手錠を外して走り去りました。
 
 痛みも落ち着いて、あたりを見渡すと、やっぱりぼくの地元。
 公衆電話から地元に住んでる友人に電話して、お金借りて帰宅して、翌朝また債務者の家に取立てに行きました。



 回収ペースを上げました。



 だってまたお兄さんたちに会ったら怖いから。
 バンバン差押えして換金できるものはどんどん没収しました。


 過去最高の手際のよさで回収を完了し、撤収。怖いお兄さんたちと再会することなく終えることができました。
 あのころ、ぼくは、若かった。
 (次回につづく) 

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