多重債務者の現実。それを「見続け、貸し続け、回収する」街金の現実。


 日頃見えてこない生活金融の現場。『ぼく、街金やってます』の著者であり、現役街金経営者のテツクル氏の実話をもとにバラ色の20代から暗黒の20代後半へと変わるお話しをする。
 債務者と債権者の壮絶なドラマをお届けします。



■完全無欠の詐欺会社

【激増!多重債務】若手青年実業家という詐欺師との貸金バトル—...の画像はこちら >>



 詐欺師が主人公の映画って人気が出ます。でも世間には、詐欺師に会ったことがない人のほうが多いと思います。
 街金にはよく詐欺師が来ます。ぼくからお金をだまし取ろうと思っているパターンもあるし、借りたお金を使って詐欺をしようというパターンもあります。
 
「このお金を使ってこんな風に人をだまして大金ゲットするので、お金を貸してください」と言われたら、当然貸しません。
 街金の免許がなくなっちゃうから。
 でもお金を貸した後になって
「コイツ詐欺師じゃねーか!」とわかることはあります。
 そんなときはどうするか。
 やるべきことはひとつです。


 ほかの債務者と同じように粛々と回収するだけです。ぼくたちは警察じゃないので、詐欺師を捕まえるのは仕事じゃありません。成敗するのは仕事じゃありません。ぼくが貸したお金を全力で回収するのが仕事です。詐欺師だろうとなんだろうと、担保をかたに、淡々と回収を進めます。
 
 でももし、持ち込まれた話の全部が嘘だったら。それでももちろん回収しますが、ちょっと荒っぽいことをしなければならない場合も出てきます(あくまでも法律の範囲内です)。
 
 Fさんは若手の青年実業家。
 都内某所で広告会社を経営していました。社員は20~30代の若い人たちばかりだけど、日本を代表するような大企業数社と取引があって、納品した商品のサンプルが社内にずらっと並んでいます。特殊な素材を使ったおしゃれなデザインのものばかり。まさに、絵に描いたような都会の会社です。

 今まで街金をやってきて、成金のぴかぴかおじさんは何人も見てきましたが、Fさんは、そういう生き物とは違います。
 大手都市銀行とも取引できているのに、なんで街金に?
「A銀行から1億円借りていて、B銀行からは3000万円借りてるんで、枠がいっぱいなんです。そこで5000万円ほどお願いできないかと思って」
 確かに急激に伸びた業績と規模から考えると、1億3000万円程度の借入では、これから会社を回していくのは苦しい、でも資金調達は簡単にはいかず、成長する会社はどこでもこの苦労を経験しているはずです。
 
 Fさんは渋谷区にあるおしゃれなマンション住まいだけど、賃貸なので担保にならない。そこで売掛金を担保にしようと請求書や納品書を見せてもらうと、どれもこれも大手企業だらけ。さらに通帳を見ても、入金の相手先には、これでもかとばかり有名企業が並んでいます。
 もしかしたら、Fさんは日本の中心にいる人なのかもしれない。
 こんなにちゃんとした債務者はめったにいません。
 これなら大丈夫。日本がある限り取引先はなくならないし、貸したお金は回収できる。売掛金を担保に公正証書も作成して融資実行。
 念のため、Fさんの保有する会社の株の大半も名義変更しました。
Fさんが完済したら返すと約束し、渋々ですが応じさせました。





◼︎1ヵ月だけジャンプさせてください!

 そして1ヵ月後。利払日。入金がありません。
「あれ? Fさん、どうしたの?」
「ああ、すみません。1ヵ月だけジャンプさせてください」
「何かあった?」
「ちょっと入金が遅れていて。でも、これこれこうで、これとこれが揃うとこことここが入金になります。だから大丈夫です」
 完璧です。何の矛盾もありません。お金の計算が苦手な債務者だったら、こんな返事はできません。
「そうか、わかった。大変かもしれないけど、がんばって」
「ありがとうございます。

ところで、お時間ありますか? 食事でもどうですか?」
「え。お肉食べたい」
 Fさんの会社にはタレントの卵か元タレントかはわかりませんが、きれいな女の子も出入りしていて、彼女たちを連れて広尾のレストランで優雅なひととき。会計は全部Fさん。
「テツクルさんてすごーい!」
 きれいな女の子たちにおだてられて、なんていい気分なの。
 
 ただ、ぼくはころんでも街金です。
 どんなにいい気分にさせてもらっても、債務者のことを甘やかすわけにはいかない。
 支払いが遅れてからは週イチペースでFさんの会社に行って状況確認をします。
「Fさん、これ大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。これこれこういうわけで、これとこれが揃う(以下略)」
 完璧です。問題ありません。
「わかった。がんばってね」
 だいたい、会社が危なくなってくると従業員が減ってきたり、代わりにガラの悪い人が出入りしだしたり、目に見える変化があるものですが、Fさんの会社にはそういったこともありません。

 
 そしてまた1ヵ月後。利払日。入金がありません。
「また入ってないんだけど」
「すいません、もう1ヵ月だけ待ってもらえますか。そうすれば、これとこれが揃って(以下略)」
「それ前回も聞いてるんだけど」
「どうもタイミングが悪くて」
「ちょっと、そっち行くから話させて」
 
 Fさんは、売掛先から届いた支払いが遅れている理由などが書かれたメールや資料を見せてくれました。不自然なものは見当たらなかったけど、さすがに2ヶ月も遅れるのは何かあるはず。
 
 ぼくは、知り合いの広告代理店の社員に、Fさんから預かった大手企業が発行した発注書のコピーを渡し、裏取りをしてもらいました。
「テツクルさん、こんなの発注したことないそうです。あと、押されてる印鑑も偽造だって言ってましたよ」
 これは? これは? と次々Fさんから預かった書類の裏取りをさせましたが、全部偽造書類。
 おそらく、通帳にあった有名企業からの入金も、自作自演だったんでしょう。自分のお金を有名企業の名で自分の口座に振り込む。
 
 Fさんがぼく以外の街金や個人投資家から借金をしているのは把握していました。
こうなったら、誰よりも先に回収しなければなりません。
(つづく)

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