元祖鉄道アイドル、今は「鉄旅タレント」として鉄道をアツく語る、木村裕子が日本各地の魅力的な路線を紹介する“女子鉄ひとりたび”(『女子鉄ひとりたび』著・木村裕子より)。この夏も期間限定で発売されたJR全線乗り放題、5枚つづりで一日当たりたった2410円の「青春18きっぷ」。

このきっぷには「無限大の楽しみ」があることを、彼女は教えてくれます。心のキャンパスに、どんな鉄旅を描いていくのかは、あなた次第!



■まさか信州でこんなファンキーな店に出会えるなんて♡

「リゾートビューふるさとの旅」人生で大切なことは見知らぬ人が...の画像はこちら >>



 穂高駅に戻り、満を持して、不思議オーラを放っていたあの店に向かう。
 入り口には「カフェギャラリー スプーンアート」との看板があった。店内に入るとスプーンを使用したさまざまな種類の動植物のアート作品が、ぎっしりと並べられている。スプーンを加工すると、こんなにも多彩な世界が表現できるのかと驚かされたが、店内にはそれ以上に驚きが散りばめられていた。雑多な展示物が所狭しと並べられており、まるで高校の文化祭会場のような雰囲気。
 ご店主は地元出身の造形作家で、このお店はギャラリー兼店舗として開設されたものだという。それだけなら単なるアート喫茶だけど、このお店のすごいところは常識では測りえない、不思議な装飾と風変りなサービスにあった。



「リゾートビューふるさとの旅」人生で大切なことは見知らぬ人が教えてくれた【女子鉄ひとりたび】16番線



 店主は、席に座った私に傘を差し出して、キッチンへ戻っていく。訳もわからずとりあえず開いてみると、傘の内側に食事メニューが書かれていて、その奇想天外な発想に大笑いしてしまった。メニューには、コウちゃん、ゾンビセット、ドラキュラジュースなどと、何が出てくるか全く予想できないものが並んでいる。
 そこで、ドリンクの一覧から「リューク」を頼んだ。


 するとゴルゴ風のいかつい男性のマネキンが、ゴロゴロ引かれて出てきたではないか。明らかにこれはドリンクではない。困惑する私に飲み方を教えてくれた。
 なんと、スーツを脱がせると、男性の胸部にストローが繫がっていて、吸うと牛乳が出て来る仕組み。
 女性にとってはかなり微妙な部分もあるのに、不思議といやらしい気分にならないのは、店主のさっぱりした人柄によるものなのだろうか。



「リゾートビューふるさとの旅」人生で大切なことは見知らぬ人が教えてくれた【女子鉄ひとりたび】16番線



■店主が単なる変な人、じゃなくて良かった♡

「リゾートビューふるさとの旅」人生で大切なことは見知らぬ人が教えてくれた【女子鉄ひとりたび】16番線



 呼び出しボタンはチキンの形をした人形で、お腹を押すと「クー」と鳴き声のような音が鳴る。飲食物を頼むと、スプーンで装飾されたユニークなお盆で運ばれてくる。お盆だけでも30種類以上も用意されているとのこと。
 さらに店主は「女性ひとりでこんな不思議な店に入ってくれたお礼」として、ティラミスをごちそうしてくださった。植木鉢の容器に盛り付けられ、土を食べるような気分になるけれど、味そのものは絶品。それもそのはず、もともとホテルでシェフをしていたとのこと。
 トイレは「お化け屋敷」と呼ばれていて、開けると不気味な薄暗い空間があった。

恐怖感をそそるホラー風のオブジェがぎっしりで、突然動き出した人形に、心の底から叫び声をあげてしまった。この人形には紐が付いていて、外で店主が紐を引っ張って動かしながら、ケタケタと笑っている。
 この店を始めた理由を、
「愛犬が亡くなって、頭がスパークしたから」と話す店主と雑談するうちに、その人柄にぐいぐいひき付けられていった。



「リゾートビューふるさとの旅」人生で大切なことは見知らぬ人が教えてくれた【女子鉄ひとりたび】16番線



 鉄旅タレントという特殊な仕事の中で感じる、悩みや挫折についてお話したところ、
「他人の顔色をうかがうんじゃなくて、自分の顔色をうかがって、それを突き通せ。自分を表現したくて、その仕事に就いたんでしょ? 俺と同じじゃないか」との言葉をいただいた。
 的を射すぎている返しの言葉に、ぐうの音も出ない。そしてストンと心に響いて、気持ちが一気に晴れた。
 日本中を旅しながら、自分自身が整っていくのを感じる。
 人生で大切なことは、全て見知らぬ人が教えてくれた。



※「カフェ・ギャラリー スプーンアート」は2019年10月20日に閉店しました。



(17番線へ続く)

編集部おすすめ