■6~10日間も吸血し、3000~4000個もの卵を産む!

たかがマダニ、されどマダニ ~ダニ媒介感染症。その症状や致死...の画像はこちら >>



 皆さんこんにちは! 茨城県でヨガのインストラクターの傍ら、新人農家&猟師をしているNozomiです。今回は、ダニの危険性やダニ媒介感染症について綴らせて頂きます。

夏はバーベキューやキャンプ、登山などで野山を歩くことはあるかと思います。その時に虫にさされることもあるでしょう。その“虫さされ”が原因で、もしかしたら命を落としてしまうかも……? これからは暑さも揺らぎ山歩きがしやすくなる季節。貴方と貴方の家族を守るさめに、しっかりとダニの危険性・リスクを勉強し対策を立てていきましょう。私の拙い文章を通して、少しでも“狩猟”に興味のある方、すでに“狩猟”に携わっている方、そして何より“いのち”と向き合っている方のお役に立てれば幸いです。



【マダニってどんな虫? ダニ媒介感染症について知ろう】
 さて今回は、マダニの話です。
「マダニに噛まれたくらいで死ぬ? そんな大げさな! ツバでもつけとけば大丈夫!」これは実際に私が登山やキャンプを嗜む父から言われた言葉です。皆さんも、そんな大げさな……と思うかもしれません。そもそもマダニとはどんな生物なのでしょうか?
 マダニは700以上もの種類を待つ小さな虫で、幼ダニ→若ダニ→成ダニと脱皮を繰り返し成長していきます。成長しても体長は約3ミリ程度で、草むらなどに潜み、そこを通るヒトや動物などの体温や体臭に反応して飛びつき吸血行為を行います。吸血行為を行うと、体が大きく膨れ上がるのが特徴的です。吸血時間はとても長く、最大で6日~10日にも及びます。

この長い間に約1mlに及ぶ大量の血液を吸血することができるというから驚きです。メスのマダニは吸血後最大3000個~4000個の卵(!?)を産みます(ぞわっ……)。また、この“マダニの吸血行為”はヒト、ペット、野生動物に対して皮膚病や重篤な貧血の原因になるだけでなく、恐ろしい病気を媒介してしまいます。
 皆さんは「ダニ媒介感染症」という病気を聞いたことがありますでしょうか? 「ダニ媒介感染症」とは病原体を保有するダニに咬まれることによって起こる感染症のことです。
 主な感染経路はダニに刺される事からですが、ごく稀に「ダニ媒介感染症」患者の血液や体液との直接接触による感染の報告もあります。さらに、2016年にはダニ媒介感染症にかかった野良猫に噛まれた50代女性が「ダニ媒介感染症」に感染、残念なことに発症から約10日後に亡くなったという事例があります。50代女性は特に重大な持病などは持っていませんでした。このように「ダニ媒介感染症」は健康な身体をも蝕み、場合によっては死に至らしめる恐ろしい病気なのです。
 病原体を持っているマダニ類は全国に分布しています。すべてのマダニが病原体を持っているわけではありませんが、注意が必要です。なお“マダニ”は、食品等に発生する「コナダニ」やじゅうたんや寝具に発生する「ヒョウヒダニ」など住宅内に生息するダニとは種類は異なりますので安心してくださいね。







■おもなダニ媒介感染症。
どんな症状?致死率が高い!?

 さて、ひとくちに「ダニ媒介感染症」と言ってもたくさんの種類がありますし、潜伏期間、症状、致死率などもそれぞれ変わってきます。ここでは日本で発生している「ダニ媒介感染症」の有名な症状について説明していきますね。



●回帰熱 
 日本では主にボレリア属の細菌「ボレリア・ミヤモトイ」を保有するマダニ類に咬まれることにより細菌が体内に侵入し、感染します。ダニにさされてから、潜伏期間は12~16 日程度で、発熱や頭痛、筋肉痛など風邪のような症状、時に、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸不全、出血症状(歯肉出血、紫斑、下血)が現れます。高熱は3~6日ほど続き、重症になると、心臓、脳、肝臓などに障害が起こり、死亡することもあります。
 厚生労働省の「マダニ回帰熱に関するQ&A」によると、ヒトからヒトへの感染や動物からの直接の感染事例はないそうです。この「ボレリア・ミヤモトイ」を保有するマダニは本州中部以北の山間部(標高1200m以上)や寒冷地に生息しており、北海道では平地でも見られます。治療には適切な抗生物質によるものが有効で、予防を目的としたワクチンは開発されていないようです。
 なお国立感染症研究所(以下NIID)によれば、海外ではシラミやヒメダニからの感染もあり、ボレリアについても「ボレリア・ミヤモトイ」だけでなく、十数種類のボレリアが原因となっているようです。



●ダニ媒介脳炎
「ダニ媒介性脳炎ウイルス」による感染症で、「ヨーロッパ亜型」、「シベリア亜型」、「極東亜型」の3タイプに分類されています。日本においては北海道に存在するウイルスが「極東亜型」に属しています。主にウイルスを保有するマダニに刺されることにより感染しますが、加熱処理されていないヤギの生乳を飲んだりすることでも感染します。


 NIIDによれば「極東亜型」のウイルスに感染すると、頭痛・発熱・悪心・嘔吐等の髄膜炎症状が見られ、さらに脳脊髄炎を発症すると精神錯乱・昏睡・痙攣および麻痺などの中枢神経症状を起こします。「極東亜型」のウイルスに感染した場合、3タイプの中で最も重篤で、その致死率はなんと20%~40%、生残者の30~40%に神経学的後遺症がみられるといわれています。ダニ媒介脳炎は日本での発生事例はまだ少ないですが、海外では毎年1万から1万5千ほど発生しているので油断はできませんね……。この感染症は発症した場合治療法はなく、特異的な薬物療法は存在しないみたいです。
 また予防を目的としたダニ媒介性脳炎ワクチンがあるようですが、日本では未承認となっているみたいですね。



●ツツガムシ病
 ダニの仲間である「ツツガムシ」の持つOrientia Tsutsugamushi(オリエンティア・ツツガムシ)というリケッチア(細菌より小さくウイルスより大きい微生物)による感染症で、ツツガムシにさされることによって発症します。潜伏期間は5~14日で、その後悪寒を伴う38~40℃の高熱が生じます。頭痛、筋肉痛、全身倦怠感を伴い、発症2~3日後に全身に1~2cmの紅色、もしくは紫色の斑点が現れます。放置するか治療が遅れれば、脳炎、肺炎の合併や心不全で死に至る場合もあります。
 世界では年間100万人程度感染している可能性があり、日本における年間感染も400例~500例と、とても多い事が特徴です。日本では北海道を除く全国で発生が見られ、野山、河川敷などは注意が必要です。
治療には適切な抗菌薬によるものが有効ですが、予防を目的としたワクチンは開発されていないようです。



●日本紅斑熱
 日本紅斑熱は、病原体リケッチアであるリケッチア・ジャポニカを保有するダニに咬まれることにより感染する感染症です。日本では近年増加傾向にある感染症で、NIIDの病原微生物検出情報によれば2019年には日本全国で318名の患者の発生報告がありました。そのうちの13例が重症化して死亡しています。(致命率4.1%, 13/318)潜伏期は2~8日程度で、発熱、皮疹(手足から全身にひろがる)、倦怠感、頭痛、全身痛などの症状で発症し、重症化すると死に至ります。冒頭での野良猫に噛まれた事例は日本紅斑熱での死亡事例です。
 病原体「リケッチア」を保有するダニは千葉以西の太平洋側を中心に発生が見られ、近年では、青森や新潟などに拡大しています。治療には適切な抗菌薬によるものが有効ですが、予防を目的としたワクチンは開発されていないようです。



●重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
 主にSFTSウイルスを保有するマダニに刺されることで感染する感染症です。2011年に初めて特定された新しいウイルスによるものです。潜伏期間は6~14日間程度で、主な症状は発熱と消化器症状(おう吐、下痢など)が中心で、倦怠感、リンパ節のはれ、出血症状なども見られます。致死率は年度により差がありますが6.3%~30%と高い傾向にあります。日本での発症件数は年々増加傾向にあり、2013年には40例(そのうち14人が死亡)だった事例が2019年には102例(そのうち5人が死亡)まで増加しました。


 また最近の研究では、SFTSウイルスに感染し、発症している野生動物やネコ・イヌなどの動物の血液からSFTSウイルスが検出されてることがわかりました。それはつまり、SFTSウイルス感染している動物の血液などの体液に直接触れた場合、感染することも否定できないということです。尚SFTSウイルスは猫に対する病原性が高く、不用意に野良猫に触らないようにすることや、ご自身のペットのダニ対策の徹底、そして完全室内飼育を徹底することが、ペットやご自身を守るための要になりそうですね(; ・`д・´)
 この感染症は発症した場合治療法はなく、特異的な薬物療法は存在しないみたいです。また予防を目的としたワクチンも開発されていないようです。





■マダニから身を守る為に今日からできること

「ダニ媒介脳炎」から身体を守る為にできることは「マダニに噛まれないようにすること」につきます。どこにマダニが居るのか、何を嫌うのか、噛まれるとどうなるのか、どういった対策がとれるのかを一緒に勉強していきましょう。



Q マダニの生息場所は?
マダニは春~秋にかけて活動が活発になり、草むらや藪の中、動物などがよく通る獣道の中などに生息しています。山の中だけではなく、自然が豊かであれば畑や民家の裏庭、公園など市街地周辺にも生息しているので、農業をする方や、公園でお子さんを遊ばせるときなどは注意を払いましょう。また先にも述べた通り、ネコやイヌを媒介してヒトに感染する可能性も十分に考えられます。野良猫や野良犬などはむやみやたらに触らず、どうしても保護する場合は肌を隠し手袋などをしてご自身を防護するなどの工夫が必要です。



Q マダニから身を守る方法は?
まずは肌を隠すことが重要です。長そで長ズボン、長靴やブーツなどを履きましょう。

半そで短パン、サンダルなどの服装は格好の餌食になります。また、頭皮はマダニに噛まれても気が付きにくい場所です。帽子などをかぶれば安心ですね。首にはタオルをまくか、ハイネックの物を選べばより安心です。裾や袖口からも登ってきますのでシャツの裾はズボンの中にいれたり、袖口は手袋の中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れます。
 これだけの対策をとっても、どこからか衣服の中に入り込むことがあります。家に帰ったら、衣服や身体にマダニが付いていないか確認し、入浴やシャワーは早めに済ませて、衣服もなるべくすぐに洗濯しましょう。
 また犬を飼われている方は、散歩をした後は愛犬のチェックをしてあげましょう。彼らは全身が毛でおおわれているので気が付きにくく、気が付いた時には大量発生……なんてこともあり得ます。「犬バベシア症」 といって、愛犬の命に係わる重篤な感染症もありますので注意が必要ですね。鼻先、足先、足のつま先、目の周り、耳の裏や耳の中などを好んで吸血するようです。万が一見つけてしまった場合は無理やり取らず動物病院へ直行です!



Q 効果的な虫よけスプレーは?
 虫よけスプレーといっても、何でもマダニに効くわけではありません。2013年、マダニに対する忌避剤虫よけ剤が新たに許可されました。ディートとイカリジンという2種類の成分が有効で、配合されているスプレーをチェックしてみましょう。なおディートには濃度によって“12歳未満は使用禁止”などの注意事項もありますので合わせて確認しましょう。



Q もしマダニに噛まれてしまったら?
マダニに噛まれてしまったら、まずは自分で除去をせずに医療機関へ向かいましょう。また、万が一自分で引きちぎってしまった場合、出血したり黄汁が出たりすると思います。服や周囲のものにつかないように絆創膏などで覆いましょう。感染症を引き起こす微生物が血液中に潜む場合があるので、使った絆創膏や止血に使用したペーパーなどは袋に入れて処分します。衣類や物品に血液が付着した場合には、10~50倍に薄めたハイターに約5分間ひたしてから、水洗いや水拭きをして、血液が付いた物には取り扱いの注意を払いましょう。1か月程度体調に注意を払い、その間特に体調に変化が無ければもう大丈夫でしょう。



【終わりに。貴方を守れるのは、貴方の正しい知識のみ】
 如何でしたでしょうか。今回はダニの危険性について綴らせて頂きました。コロナ禍の中、3密になりづらい野外でのキャンプや登山に興味を持たれる方もいらっしゃるでしょう。貴方や貴方の家族を守れるのは、貴方の正しい知識のみ。しっかりと勉強して危険を遠ざけ、貴方が安心で安全に、楽しいアウトドアライフを送れますように願っています。最後にマダニ媒介感染症で亡くなられた方々に対し、謹んで哀悼の意を表します。
次回は豚コレラについてお話させて頂きます。この連載を通して私の、私たちの想いが、少しでも誰かに繋がり、そして何かのお役に立てれば幸いです。



《参考》
厚生労働省「ダニ媒介感染症」
東京都健康安全研究センター「マダニにご注意! ~マダニQ&A~」
国立感染症研究所(NIID)「マダニ回帰熱に関するQ&A」ほか
一般社団法人日本感染症学会
日本皮膚科学会
徳島大学病院感染性卸部「感染対策に関するQ&A」
など

編集部おすすめ