皆さんこんにちは! 茨城県でヨガのインストラクターの傍ら、新人農家&猟師をしているNozomiです。今回は、「豚熱(ぶたねつ)」についてお伝えしていきます。
「豚熱」は2020年2月5日以前、「豚コレラ」と呼ばれていた「家畜伝染病」の事です。「家畜伝染病」とは、菌やウイルス、寄生虫などの病原微生物が家畜に感染して引き起こす感染症のうち、特に感染力が強いものの事を言います。一般的に知られているものだと狂犬病、BSE(牛海綿状脳症)、鳥インフルエンザなどが挙げられますね。これらの家畜伝染病が発生してしまった場合の防疫措置として、消毒などはもちろんの事、感染拡大を防ぐために感染家畜のみの殺処分に留まらず、発生農場すべての家畜の殺処分に繋がってしまいます。なお、「家畜伝染病」は上記に挙げたもの以外にもたくさんありますし、人にもうつってしまうものもあれば、そうでないものもありますので対策を練るには個別に勉強が必要ですね。
“よくわからないもの”ってそれだけでもう怖いし、不気味ですよね。それが“未知の病”なんていったら、その恐怖は計り知れません。その恐怖を少しでも取り払い、正しく怖がる為に「豚熱」とはどんな病気なのか、気になる人体への影響など、「豚熱」について勉強していきたいと思います。私の拙い文章を通して、少しでも“狩猟”に興味のある方、すでに“狩猟”に携わっている方、そして何より“いのち”と向き合っている方のお役に立てれば幸いです。
豚熱とはCSF(Classical swine fever)ウイルスの感染による豚とイノシシの病気です。冒頭でもお伝えした通り、以前は豚コレラと呼ばれていました。
豚熱は人には感染することがありません。また、万が一感染した豚肉やイノシシを人が食べてしまったとしても感染したり、人体に影響を与えることはありません。
そもそも市場に出回る豚肉は、しっかりと法律で定められた厳しい基準を合格した豚肉であり、獣医師である「と畜検査員」の検査を受けた安全なお肉ですので、皆さんが日常で行くスーパーやお肉屋さんに感染家畜が出回る心配はありません。ただ、狩猟をする皆さんはもしかしたら感染したイノシシを食べる機会があるかもしれませんね。食べても人体に影響はないからとはいえ、お肉の生食には他の感染症や寄生虫のリスクがありますので、しっかりと焼いてから食べましょう!
■冷凍で4年以上も生きられる豚熱ウイルス
しかし、人に感染しないからといって油断は禁物です。豚熱に感染してしまった豚は急性の場合、数日から2週間で、慢性の場合でも数か月で死亡し、高い感染力を持っています。涙や鼻汁や排せつ物の飛沫、付着物から簡単に感染してしまうのに対して、根本的な治療法は無く、一度豚熱が発生してしまったら、ウイルスを蔓延させないための予防対策は殺処分しかありません。農林水産省の消費・安全局の報告によれば、2018年から2020年3月までに日本の養豚農場において岐阜県、愛知県、三重県、福井県、埼玉県、長野県、山梨県及び沖縄県の8県で計58事例発生し、これまでに約16.6万頭(!?)を殺処分していたことが分かりました。
その被害額は計り知れません。そして、殺処分をするのはもちろん我われ人間です。作業中にトイレや食事に行く度に念入りな消毒作業を行わないといけないため、作業は飲まず食わず、長時間にわたって行われたそうです。殺処分は電気ショックや注射で行いますが、感染家畜である豚も命の瀬戸際、懸命に抵抗する個体も居たことでしょう。押さえつけるのも大変です。また、電気ショックの焦げるにおい、その断末魔、命あるものを、大量に奪わなければいけない悲しさや虚しさは心を蝕み、作業に当たった人の中ではPTSDを発症してしまう人もいたのだとか……。日々ぬくぬくと快適な場所で、いつでも美味しい豚カツや豚しゃぶを食べている私に、その惨状は想像することもできません……。こういった記事や記録を目にすると、改めて、私の平穏な日常は多数の動物の命や、人々の努力の上に成り立つんだなぁと実感します。これは“あたりまえ”の事ではないのです。
ちなみに、このCSF豚熱ウイルスはとても強く、燻製や塩漬けにしても死滅することはありません。チルド状態では85日間、冷凍状態でも4年以上生き残る可能性もあり、加熱処理でもこのウイルスを死滅させるためには肉の中心温度70℃で30分以上あるいは 80℃では3分以上の加熱が必要とされています。
■狩猟界への影響。ウイルスの拡散を防ぐために私たちにできること
豚熱の感染拡大が野生のイノシシにも及ぶことから、狩猟界へも大きな影響を受けています。日本では例年11月15日~翌2月15日(地域により異なる)に猟期として狩猟が行える期間が設けられていますが(※狩猟免許の取得が必要です)、2018年に豚熱が発生した岐阜県では猟銃と罠を用いた狩猟を全面的に禁止に、その他の発生県でも自身のブーツや、猟犬、自動車のタイヤなどの徹底した消毒や、獲物の自家消費など、各自治体で防疫措置が取られてきました。それでもなお広がり続ける豚熱をくい止める為に私たち個人ができることはないのでしょうか? ……もちろんあります! 自治体によってもガイドラインやその対策は異なりますが、この記事を読んでくださっている皆さんに、今日からできる4つのことをお伝えしていきたいと思います!
①豚熱ウイルスが野生のイノシシに広がった原因は、人が捨てた汚染された肉製品などの生ゴミを野生のイノシシが食べたためだといわれています。ゴミの持ち帰りを徹底しましょう。また、野生イノシシが人の生活圏内に近づかないようにするためにも、ゴミの蓋をしっかりしめる、きちんと回収日の朝に出すなどの、基本的なゴミの管理は大切です。これは、豚熱から街の養豚農家の方を守るためだけではなく、野生動物による事故などからも皆さんを守ります。
②野山、森林、林などに出かけたら、靴や自動車タイヤの泥を落としましょう。ウイルスは感染家畜の糞尿をふくむ泥などからも媒介します。気が付かないうちに、貴方の足でウイルスを街中に広めてしまうかも。ブラシやウェットティッシュなどで汚れを落とし、できれば水洗いをするのが良いでしょう。
③山で死亡している野生イノシシを発見した場合はむやみやたらに近づかないようにしましょう。自治体によっても異なりますが、豚熱の発生県や近隣の県であるならば最寄りの保健所に相談したほうが良さそうです(※交通事故など、明らかな外傷が死亡原因だと判断できる場合を除く)。
④基本的な事ですが手洗い、うがいなどしっかりしましょう。『自分がなにか悪いウイルスを運んでいるかもしれない』という意識を持つことはとても大切な事です。それは豚熱だけでなく、新型コロナウイルス、インフルエンザ、まだ見ぬ恐ろしい感染症から、貴方や貴方の家族を守るのです。
【終わりに】
如何でしたでしょうか。今回取り上げさせて頂いた豚熱は、家畜伝染病の中のほんのひとつにすぎません。“伝染病”というワードを聞くと、「自分にうつってしまうのではないか?」という気持ちが働いて、必要以上に怖がり騒ぎたててしまいます。でも、それは生命が生きて行くために誰しもが持っている防衛本能であり、悪い事ではありません。だって“怖い”というその気持ちが、貴方の身体や大事な家族を守るための原動力となるのですから。大切な事は、SNSやメディア、よくわからないデマなど情報源が不確かなものに流されず、自分で確かな情報を見つけ出し対策を立てる事だと、私は思っています。
さて次回は、ワークマン公式アンバサダーとして、今話題のワークマンとコラボレーションさせていただいたワークマンNozomiモデルの商品についてお話させて頂きたいと思います。
《参考》
農研機構ホームページ 動物衛生研究部門『家畜伝染病』『CSF(豚熱)』
農林水産省ホームページ『CSF(豚コレラ)に関するQ&A』
いわき市ホームページ『豚熱の発生予防及びまん延防止について(死んでいるイノシシを見つけたら)』
京都府ホームページ『CSF(豚熱)に関する情報』
前橋市ホームページ『CSF(豚熱)発生防止対策を実施しています』