東京メトロ日比谷線の霞ヶ関駅と東武伊勢崎線の久喜駅を結ぶ直通の座席指定列車「THライナー」が、2020年6月6日より運行を開始した。いわゆる「通勤ライナー」のひとつで、東武東上線のTJライナー、西武線と東京メトロなどを直通するS-TRAIN、京王ライナーと同じくクロスシートにもロングシートにもなるデュアルシートを採用した電車だ。
世の中が少しは落ち着いてきた9月中旬の週末、やっとのことでTHライナーに乗ることができた。通勤ライナーなので、朝は埼玉県の久喜駅から日比谷線内に直通し、夜のラッシュ時は、霞ヶ関駅から久喜へ向かうダイヤになっている。平日の霞ヶ関駅発久喜行きは、1号の18時02分発が最初で、1時間に1本の運転で、最終の霞ヶ関駅発は22時02分だ。用もないのにお試し乗車をするのなら、車窓も楽しみたい。そう思って土休日のダイヤを見ると、1号は霞ヶ関駅発16時02分で久喜駅到着は17時17分。これなら、9月でも何とか明るいうちに全区間を走行できそうだ。というわけで、この電車に乗ることに決めた。
座席の予約は、ネットでできるので東武鉄道の予約サイトで行った。駅の自動券売機でも予約できるけれど、沿線の住人ではないし、券売機では席の位置まで決められない。この手のデュアルシート車両は、ドアのすぐ後ろの席に当たると、構造上、窓がない戸袋の部分に座ることとなり車窓が楽しめない。それで、予約サイトのシートマップを見ながら、車窓を楽しむのに不自由しないドアとドアの間に3列あるクロスシートの真ん中の列の窓側を確保した。
THライナーの始発となる霞ヶ関駅には余裕をもって発車の30分以上前に到着した。ホームにはTHライナーの表示がいくつもあり、指定券発売機はホーム中程の5号車乗車口付近にある。休日の霞ヶ関駅は官公庁が閉まっているため閑散としている。少しは電車を待っている人もいるけれど、指定券発売機の前には誰もいなかった。すでに予約済なので券売機に用はない。きっぷを発券することもなく、チケットレスで乗れるのは便利だ。
数本の電車を見送った後、東武動物公園行きの電車が到着。ホームで電車を待っていた乗客のほとんどは、この電車に乗ってしまった。席がほぼ埋まる程度の混み方だ。この次が待望のTHライナーで、発車時刻まで3分しかない。前の電車の発車後1分も経たないうちにTHライナーの車両が中目黒方面から入線してきた。
ちなみに、たびたび繰り返される車内放送の優しい女性の声は、女子鉄アナウンサーの久野知美さんによるものだ。
「密」でない状況は好ましいけれど、少なくても2~3人は乗っていてもいいのにと思う。閑散としすぎる車内はちょっと寂しい。闇の中が明るくなり日比谷駅を通過、次の銀座駅で早くも停車した。2人ほど乗って来たものの、「指定券が必要です」の車内放送を聴くと慌ててホームに飛び出していく。
日比谷線内に先行車両を追い抜く設備はないので、THライナーはゆっくりと進む。東銀座、築地、八丁堀と通過して茅場町駅に停車。この駅でも車内放送を耳にするとすぐに降りていく人がいた。
秋葉原駅で男性が1人、上野駅で中高年の夫婦が一組乗ってきて、ようやく4人となった。上野を出ると次の停車駅は東武線の新越谷。もっとも、北千住駅では東京メトロの乗務員が東武の社員と交代するため、少しだけ停車するとの案内放送があった。
■霞ヶ関駅を出て1時間15分で終点の久喜駅に
三ノ輪駅を出てしばらくすると、外が明るくなる。地下から地上に出て高架線へ。ふと左手を見ると、JR常磐線の電車が並走していた。南千住駅を通過すると右手下に隅田川貨物駅のコンテナ車が見える。
いよいよ東武線に乗り入れる。ホームを出ると階下に位置していた浅草方面からやってきた東武線の線路と同一平面上になり複々線の線路を進み、すぐに荒川の鉄橋を渡る。窓外をよく見ると、複々線の内側、日比谷線の延長線上にあたる各駅停車用の線路を走っている。小菅、五反野とホームすれすれのところを通過するので、各駅停車用の線路であることは一目瞭然だ。どこかで外側の急行用線路に転線しなければ追い抜きはできないしスピードもでない。どうなることかと気になっていたら、梅島を出て、西新井駅の手前でようやく外側の急行用線路に移った。これで、先行する各駅停車をさっそうと追い抜くことができ、スピードもぐんぐん上がった。
急行の停車する西新井、草加は通過。特急並みのスピードで走るのは爽快である。
上野駅を出て27分後、ようやく新越谷駅でドアが開いた。上野駅で乗って来た夫婦は、ここで下車、次のせんげん台駅、春日部駅に停車し、周りを見渡すと、再び私の乗った車両は私だけになっていた。東武線の各駅では下車のみが許され、乗車することは不可なので、もう乗客が増えることはない。各駅のホームでは、誰もがTHライナーを迷惑そうに眺めている。空いているのに乗れないのでは鬱陶しいのだろう。
東武動物公園駅を出ると、複線の東武日光線が分岐する。これまではマンションや一戸建てがぎっしりと立ち並んでいたが、沿線は急に緑が増え、広々とした田園風景が展開する。小雨が降る空模様だったので、薄暗くなってきた。線路際は田圃が多く、彼方に住宅が並んでいる。都心の日比谷線を走っていたのと同じ電車から見る車窓とは到底思えない。
霞ヶ関駅を出て1時間15分で終点の久喜駅に到着。電車はしばらく停車した後、ホームの先にある引き上げ線へ回送されていった。伊勢崎線は、電車の本数こそ減るものの、まだまだ先へ続いている。さらに隣にJR宇都宮線(東北本線)の駅もあるので、地の果てにやってきたような終末感は微塵もない。さて、来た道を戻るか、JRに乗り換えて都心に戻るか、ルートは複数あるので迷うところだ。
THライナーは、東京メトロと東武という2つの鉄道会社をまたいで運転されるので、指定料金は680円(せんげん台までなら580円)とやや割高だ。東武東上線内だけを走るTJライナーが370円、京王ライナーの410円と比べると、その割高さは際立っている。また、上野駅から乗ると、久喜駅までは680円かかるけれど、上野駅から浅草駅まで銀座線を利用し、特急「りょうもう」に乗りかえれば320円(午後割、夜割)で済む。この列車は特急専用車両なので快適さではTHライナーと比較にならない。トイレもあるし、座席にテーブルもついている。しいていえば、コンセントがないのが欠点であろうか?
また、上野駅からJRの普通列車グリーン車に久喜駅まで乗れば、平日のグリーン料金は780円だけれど、土休日は580円とTHライナーよりも安くなってしまう。このあたりに、土休日のTHライナー苦戦の要因がありそうだ。
といっても、運行開始から3カ月ほど。まだまだ周知不足は否めない。もう少し様子を見なければ何とも言えないけれど、最悪、平日のみの運転になるかもしれないと感じた次第である。