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■教育現場も他人事ではない雇用形態の変化

 「雇用ポートフォリオ」と呼ばれるものがある。
 1995年に日本経営者団体連盟(日経連)が発表したレポート『新時代の「日本的経営」-挑戦すべき方向とその具体策』に盛り込まれた案だ。



 日本的経営の特徴のひとつであった「終身雇用」を壊すのが「雇用ポートフォリオ」であり、簡単に言ってしまえば「雇用において正規雇用は3割で、残りの7割は非正規雇用でいい」という考えだ。
 非正規雇用の比率を増やすことで、状況にあわせた雇用調整ができるため、大きなコスト削減が可能となる。それに多くの経営者が気づいてはいたものの、終身雇用の慣例をあからさまに壊すことにはためらいがあった。
 そこに登場したのが「雇用ポートフォリオ」である。7割を非正規雇用にするという施策を取り入れる「後ろ盾」ができたのだ。そこから、日本企業でも非正規雇用がグンと増えていった。



 それは、教育にも大きな影響を与えている。ある教育関連の講演会で経済産業省の官僚が「3割の正規雇用に入るように頑張らないと、いつ解雇されるかわからない7割側になってしまう」という意味のことを話しているのを聴いたことがある。だから成績を上げる教育を行え、ということらしかった。「いい学校に入って、いい企業に就職しなさい」が「3割側に入りなさい」になったわけだ。
 非正規雇用の不利さが喧伝され、3割側に入るための競争が煽られている。入れなかった場合は自己責任を問う風潮も強くなってきている気もする。


 非正規雇用は、いまや教員の世界でも大きな問題になってきているのである。



■「少人数学級」の実現が非正規化を加速させる

 新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)で長期休校から再開に向けての第2次補正予算案で、小・中学校への加配教員3100人と学習指導員6万1200人分の予算が計上された。しかし、このほとんどは非正規雇用である。



 政府の教育再生実行会議ワーキンググループが「令和のスタンダード」と位置づけているのが少人数学級で、萩生田光一文科相をはじめとする文科省、そして菅義偉首相も積極的姿勢をみせている。ただし、その実現には教員増が不可欠なはずなのだが、正規雇用を増やすことには消極的で、文科省は少子化で今後10年間で発生すると見積もっている約5万人の余剰教員を充てる腹づもりだ。
 8月4日の記者会見で萩生田文科相は「やるとなれば、今までとはスピード感を変えて、しっかり前に進みたい」と語っていたのだが、「10年かけて」になってきているのだ。正規雇用で教員を増やす自信も覚悟もないからだろう。そして、少人数学級の体裁だけ整えるために非正規雇用を利用していくのだろう。



 教育も、非正規雇用の教員に頼りつつあるのだ。企業が非正規雇用を増やすことでコスト削減しようとしているように、教育も非正規雇用の教員を増やすことでコストを抑えようとしている。教育でも「3割正規・7割非正規」という「雇用ポートフォリオ」が現実のものになる可能性すらある。





■非正規雇用の教員志望者は少ない

 ただし、その非正規雇用も簡単に集まるわけではない。

9月25日付の『教育新聞』が、「きめ細かい条件のすり合わせで臨時採用の応募者を増やそうと、婚活や趣味などまで支援する独自の採用プランを、北海道教委が始めた」と報じている。臨時採用は非正規雇用となる。



 記事によると、部活動を担当したくなければ、しなくてもいい学校を紹介する。車の運転をしたくなければ、運転しなくてもいい学校を紹介する。特技を活かしたければ、それが可能な学校を選択する。
 さらに、婚活を希望するなら、同世代の独身者が複数勤務する学校を紹介する。お金を貯めたければ手当の大きい学校を紹介する…といった具合だ。



 応募者にとっては、好条件をズラリと並べられたようなものなのだろうか。これはつまり、そうまでしなければ応募者が集まらないということだ。実際、北海道教委がこうした条件を並べたのは、募集しても応募者が集まらないからである。



  しかし、非正規雇用の教員志望者は、こうした条件を望んでいるのだろうか。否定する人はいないだろうが、そのために応募するという人がどれくらいいるのだろうか。

こういった条件を優先するなら、一般企業のほうが良かったりしないのだろうか。



■非正規雇用教員が活躍できる環境づくり

 非正規雇用教員でも、学級担任を任されるケースは多い。正規雇用と同等の仕事量と、そして責任を負わされることになる。それでも年収ベースでは、非正規と正規では大きな差がある。安定についての保証は言うまでもない。
 さらに、非正規雇用が正規雇用に対して軽く見られる傾向は否めない。それは、一般企業と同じなのだ。



 そして、発言権もないに等しい。「校長や学校に対して批判的なことを言えば、次の契約に支障があるので、怖くて言えない」と、ある非正規雇用の小学校教員は言った。そういう現実が歴然とある。
 北海道教委が並べている条件には、そうしたことには一切触れられていない。どこの教育委員会も、そして文科省も問題にしないようにしている。

それでいて非正規雇用の教員を増やしていこうとしているのだから、大きな問題である。「穴埋め」に使うだけ使って、あとは知らぬ存ぜぬを決め込む姿勢が見えみえの姿勢では、非正規雇用の教員の希望者が増えるはずもない。非正規で補おうとしても、補えない現実と向き合わなければならないことになるだろう。



 教員採用試験の応募者が減っていることで「教員の質が確保できない」という声がいろいろなところで挙がっている。
 非正規雇用教員で凌ぐ考え方そのものと、非正規雇用の働く条件を根本から変えないままに非正規雇用に頼る方針をとりつづければ、それこそ教育の質が心配される事態になってしまうのではないだろうか。



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