世界でも有数の地名数を誇る日本。
全国どこでも多様な風土を表す地名が多数存在する「地名列島」といえる。
そんな豊かな地名のうまれた歴史を追いながら、由来の主な特徴を挙げる。
(一個人増刊『47都道府県 地名の謎と歴史』)
■氏族・民族に由来する地名には多様な人々の足跡が残っている
日本が地名大国である要因のひとつは、多様な氏族や民族が暮らしてきたという背景がある。地名の由来を紐解くと、様々な人々の足跡が残っていることが見てとれる。大和朝廷時代は、各地に豪族が存在し、権勢をふるっていた。さらに渡来人やアイヌ民族、琉球との関連なども加わり、土地の歴史を知るきっかけにもなっている。
●アイヌ語由来の多い北海道
「内」「別」「幌」など
北海道はアイヌ語由来の地名がたくさんある。アイヌ語で川や沢を意味する「ナイ」「ベツ」は「内」「別」の字が当てられた。大きい、広いは「幌」の字がつけられている。
札幌 → サッ(乾いた)+ ポロ(大きい広い)+ペツ(川) = サッポロペツ( 乾いた大きい川)
・アイヌ語の解釈を誤った例
忠別→ チュ(波立つ)+ ペツ(川)→チュ(朝日)+ ペツ(川)= 【旭川】
・アイヌ語と日本語のミックス
オペレペレケプ(川尻がいくつも裂けている場所)→略してオベリベリ→オベに「帯」を当てはめる+広大な平野の「広」=【帯広】
・そのほかの地名
稚内(ワッカ・ナイ)=飲み水が豊富だった沢
積丹(サク・コタン)=夏に村ができた場所
門別・紋別(モッ・ペッ)=静かな川があった場所
阿寒湖(ラカン・トー)=ウグイの棲む沼
●渡来人の国名に由来する地名
・高句麗(こうくり)→「高麗(こま)」「狛(こま)」「(巨摩)こま」
・新羅(しらぎ)→「志木(しき)」「新座(にいざ)」
4、5世紀に大陸から日本に渡ってきた人を渡来人といい、大和朝廷の発展に貢献。その影響力を物語るように大陸の国名の名残がある。「高麗」「狛」「志木」などが該当。
●渡来人の名字に由来する地名
・秦(しん)→「秦野(はだの)」「太秦(うずまさ)」
・漢(かん)→「綾瀬(あやせ)」「綾部(あやべ)」
渡来人のなかでも有名な存在が秦(はた)氏と漢(あや)氏。
●地名から豪族が名乗ったという説もある
「葛城(かつらぎ)」「平群(へぐり)」「古瀬(こせ)」「蘇我(そが)」など
古代の豪族と同地名がある。姓氏ゆかりか、そもそも地名が先で姓氏があやかったとの説もある。代表的な例で蘇我(千葉・蘇我氏)、葛城(奈良・葛木氏)、平群(奈良・平群氏)などある。
●貴族の氏に由来する地名
古代の4大貴族(源平藤橘)にゆかり
源氏、平氏、藤原氏、橘氏にゆかりがあるとされる地名を挙げると、足利(栃木)は清和源氏の流れをくむ足利氏の発祥地、佐野(栃木)の藤原氏は佐藤姓の源流という説もある。
●独自性の強い沖縄の方言地名
豊見城(とみぐすく)、西表島(いりおもてじま)など
沖縄はご当地特有の言葉が地名に残る。石垣で囲った建物を「グスク」と呼び、それに「城」の字を当てたと伝わる。同様に太陽が西の海が入ることを意味する「イリ」は「西」に。

各地に伝説を残す坂上田村麻呂。平安時代初期の武将・坂上田村麻呂は蝦夷征討などで各地を転戦する。
■伝説にちなんだ地名は、史実による由来を知るよりも刺激的
神話や古事、昔話、言い伝えなど、全国には有名無名を問わず、様々な伝説が残っている。それが地名に由来すると考えられているケースは少なくない。なかには荒唐無稽な物語もあるが、幻想的な展開がロマンチックであったり、手に汗握る英雄譚であったり…。史実に由来するものよりも刺激的で夢があって実に楽しい。
●山なのに「森」なのは?
例)安家森(あっかもり)[岩手]、瓶ヶ森(かめがもり)[愛知・高知]ほか
安家森や瓶ヶ森など、標高1000mを超える大きな山でも「森」という。そもそも森は神々が住むところとされており、山岳信仰から山そのものを森と呼んだと考えられている。山を森とする地名は東北や四国地方に多い。
●ヤマトタケル伝説由来
例)走水(はしりみず)(神奈川)、焼津(やいづ)(静岡)、木更津(きさらづ)(千葉)ほか
『古事記』や『日本書紀』に登場する日本武尊(やまとたけるのみこと)にまつわる地名は各地に存在する。走水は、日本武尊が浦賀水道を渡る際に、暴風に遭うと弟橘媛(おとたちばなひめ)が入水したという伝説による。その中の潮の流れが走っているように見えたという逸話から。焼津は野を焼いて賊を滅ぼしたという逸話から。木更津は「きみさらず伝説」にちなむ。

●色っぽい?「 女」がつく地名
例)女川(おながわ)[宮城]、美女平(びじょだいら)[富山]、十八女(さかり)[徳島]ほか
美女のつく地名は多く存在し、それぞれに美女伝説が残る。女川は、安部貞任が女子を戦いで隠した伝説があり、溝(うな)川から転訛した。美女平は女人禁制にまつわる伝説をもつ「美女杉」がある一帯の地名。
●最初は正反対の意味だった?
例)生野(いくの)[兵庫]、白馬岳(しろうまだけ)[長野]ほか
生野は昔、「死野」という地名。凶暴な神がいたという伝説によるものだが、のちに縁起が悪いと改名。白馬岳は、正式名称を「シロウマ岳」。田んぼを意味する「代」だったが、のちに白馬となる「白」が当てられた。
●本当は怖くない?「鬼」がつく地名
例)鬼首(おにこうべ)[宮城]、鬼怒川(きぬがわ)[栃木]、鬼無里(きなさ)[長野]、鬼無(きなし)[香川]ほか
字面が怖い地名は少なくない。鬼首は、坂上田村麻呂(さかのうえのた むらまろ)が蝦夷の首領の首を切り落とした地だという。鬼怒川は、毛野(けぬ)川の転訛と思われる。鬼無里は鬼を退治していなくなったという伝説により先人が名付けた。
[まだまだある 不思議な地名]
■江戸時代に流行った「雅称」とは?
例)富嶽→富士、茗渓(めいけい)→御茶ノ水、函嶺→箱根ほか
雅称とは、趣のある風雅な呼び方のこと。
■内陸なのに魚のつく地名
例)鯵ヶ沢(あじがわさわ)[青森]、鮫川(さめがわ)[福島]、蛸(たこ)[福井]ほか
海のない内陸なのに海水魚の名称がつく地名がある。鯵ヶ沢や、鮫川、蛸などの例があるが、ほとんどは海水魚由来ではなく、本来の言葉の転訛や当て字とされる。
■転訛が多い動物のつく地名
例)磯鶏(そけい)[岩手]、鴨川(かもがわ)[千葉]、燕(つばめ)[新潟]ほか
磯鶏は「削ぎ」という地形由来と考えられる。鴨川は、古代の加茂臣一族が来住したことと伝えられる。燕はかつて信濃川の船着場を意味した「津波目」が転訛した説が残る。
(一個人増刊『47都道府県 地名の謎と歴史』より抜粋)