菅義偉政権という名の実質8年目の安倍政権が発足した。悪夢は依然続いている。

菅はロシアのプーチンと電話で会談し「北方領土問題に終止符を打ちたい」と発言。北朝鮮の拉致問題に関しては「あらゆるチャンスを逃すことなく活路を開いていきたい」。では7年8カ月にわたる官房長官時代にこの男はなにをやってきたのか。全方位売国ではないか。森友事件、「桜を見る会」事件などあらゆる疑惑が隠蔽され、日本は急速に劣化した。三島由紀夫は日本の行く末を正確に予言していた。作家適菜収氏が新刊『日本人は豚になる 三島由紀夫の予言』でそのすべてを明らかにする。





■世界の静かな中心であれ



 以前、安倍晋三とラノベ作家の百田尚樹が『日本よ、世界の真ん中で咲き誇れ』という愚にもつかない対談本を出していた。その中で安倍は「世界の歴史を振り返っても、一国のリーダーが判断を誤ったために国が滅びたことは何度もある」などと言っていたが、実際、そうなってしまった。



 三島の読者なら、このタイトルから次の文章を連想するだろう。



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 古代ギリシア人は、小さな国に住み、バランスある思考を持ち、真の現実主義をわがものにしてゐた。われわれは厖大な大国よりも、発狂しやすくない資質を持つてゐることを、感謝しなければならない。

世界の静かな中心であれ。(「世界の静かな中心であれ」)



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 安倍は「政治も外交もリアリズムが大切だ」と言う。しかし、リアリズムが完全に欠如しているから政治も外交も失敗したのだ。



 安倍と周辺の一味は、国を乱し、世に害を与えてきた。



 二〇二〇年八月二八日、安倍は「本年六月の定期検診で、(潰瘍性大腸炎)再発の兆候がみられると指摘を受けました」などとお涙頂戴の辞任会見を行い、直後に支持率は急上昇した。連中はメディアに事前リークして病院通いを大々的に報道させてきたが、谷口智彦内閣官房参与の証言によれば、九月一一日には安倍はコース料理を完食し、酒まで飲んでいる。



 持病の再発の徴候があったと主張する六月以降も、安倍は高級レストランで宴会三昧。九月二三日の読売新聞のインタビューでは、ほとぼりも冷めたとばかりに、「首相から求められれば、(外交特使など)様々なお手伝いもしたい」などと述べていた。



 盗人猛々しい。





 対米、対ロシア、対中国、対北朝鮮……。外交で失敗を重ね、「桜を見る会」や森友学園問題などあらゆる疑惑の追及から逃げ出しただけではないか。



 連中が示しているのはバランスある思考の欠如であり、現実主義の対極にある妄想であり「発狂」そのものである。





■政治にとってバランスとは何か?

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 今年こそは政治も経済も、文化も、本当のバランス、それこそスレッカラシの大人のバランスに達してほしいと思ふのは私一人ではあるまい。小さいバランスではなく、楽天主義と悲観主義、理想と実行、夢と一歩一歩の努力、かういふ対蹠的なものを、両足にどつしりと踏まへたバランス、それこそが本当の現実的な政治、現実的な経済、現実的な文化であると思ふ。



 日本もつひに、野球選手と映画スタアと流行歌手の国になつてしまつたか、などというのもヒステリックな詠嘆にすぎない。野球や映画や流行歌がなくつたつて人間は生きてゆけるのだが、さういふ不必要なものが生活の関心の大きな部分を占めるだけ、余裕のできたことを喜ぶべきだ。ただ不必要なものに大さわぎをして、もつと必要なもの、安定した職や住宅や良い道路などのために大さわぎをしないのが、いかにもアンバランスで、今年こそは必要と不必要の双方を踏まへたバランスがほしい。(同前)



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 これは一九五九年元旦の読売新聞に載った文章だ。



 さすがの三島も正月から世の中に罵声をあびせるようなことはしなかったのだろう。しかし、文章の趣旨は「日本は大人のバランスを持った国ではない」ということである。



 バランスとは何か?



 決断をすぐに出さずに考え続けることである。



 矛盾を抱え込むことである。



 そして思考に常に現実を織り込み続けることである。



 イデオロギーで裁断するのは簡単だ。

方程式に当てはめれば簡単に答えを導き出せる。そして導き出した「正義」を叫べばいい。



 世界の真ん中で咲き誇っていればいい。



 そういう連中を一般に「花畑」と呼ぶ。



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(適菜収『日本人は豚になる 三島由紀夫の予言』[KKベストセラーズ刊]より再構成)



 



 



 

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