私と電動車いすとの出会い、については前編でお話ししました。これに安易に乗ってしまうと、楽なので自分の足で歩かなくなる……そうすると足の筋力が衰えて「いわゆるリハビリの考え方に逆行する」ということを、主張してくる専門家の方もいます。
これはある面で真実だと思う。私も「ちょっとそこまで」で自分で歩ける距離でも、ついつい早くて楽な電動車いすを使ってしまうのだから……。
だからこそ私のリハビリの目標は、「お店の前に2、3段の段差があって入れないが、とても安くて美味しい居酒屋に入れるように、このぐらいの段差は車いすを引っ張り上げられる筋力を保つこと」
「狭くて車いす用のトイレがないお店でも、通路を歩いて、洋式トイレに自力で行ける筋力を保つこと」
「段差がきつくて、車道から歩道に上がれない時、手動に切り替えて、自分で押して段差を乗り越える筋力を保つこと」
というのであって、リハビリの指導員の方にも、この目標を示してしっかり理解していただいています。
リハの指導をしてくださる方の励ましのおかげで幸いなことに現在も、これくらいの力はキープできていますが、年をとってくるので、これからも絶え間ない努力が必要だと思います。
筋力を鍛えて、いつまでも自分の足で歩けるのは、それは最高だと思うけれど、歩くことがあまりにもキツいと、外出それ自体を控えることになります。
そうなると、結局リハビリの目標を失って、意欲をなくしてしまうのではないか?
好きなこと、楽しいことをやれるような手段として、電動車いすを使い、それを使いこなすための必要な筋力を維持する、という目標でリハビリをやるというのは、果たして間違っているだろうか。
まずは人生を楽しむこと、毎日の生活を豊かにするために、それを支えるためのトレーニングが大切なのです。
■電動車いすの種類
自操用ハンドル形(別名:電動カート、セニアカー)
自操用標準形
自操用簡易形
■僭越ながら経産省にもの申したいこと
さて前編の繰り返しになりますが、月に1度、電動車いすのメンテナンスに来てくださっているメーカーの方が、興味深い情報を教えてくれました。
それは経産省が「のろーよデンドウ車いすプロジェクト」を始めたというニュースです。
このプロジェクトで主に考えられている普及対象は、どうも電動カートやセニアカーで、それを利用する対象としては「足の力が弱ってきてはいるが、基本的には健康な高齢者」で、目的が移動手段であるように思えました。
だからアンバサダーにも、障害のないタレントを就任させたのだろう。
確かに一見かっこいいプロジェクトだけど、これだと「車を売る感覚と似たようなもの」にすぎないと思うのです。
私のように障害があったり、高齢になって様々な不自由さを感じている人たちには、このプロジェクトを推進するだけでは「電動車いすに乗ろう」とは思わないのではないか。
その理由としては、
(1) 高齢の方が、電動車いすを知らない。乗った体験もないし、「私にはそんなもの運転できない」とか「怖い」と言う方が多い。実際に体験していなければ、その素晴らしさは分からない。
(2) ケアマネージャーなど、介護やリハビリの専門家が、電動車いすのことをほとんど知らない。自分たちが体験したこともない。「高齢者が扱うのは無理」「危ないことをさせたくない」「リハビリにプラスとは思えない」という意識が強い。
(3) 一般社会で電動車いすのことは、ほとんど知られていない。高齢者の家族も、だから、高齢で病気のある身内に、やはり危ないことはさせたくない。
日本の風土かもしれないが、「電動車いすなど使わなくても、自分たちが本人の行きたいところに連れて行くから良い」という気持ちが強い。
家族や関係者は、「安全に介護する」と言うが、自分たちの生活もあるし、高齢当事者も遠慮してしまうから、なかなか自由に外出ができないのです。
■関わる人の意識以外にも必要なもの
勿論、道路の段差のこと、タクシーへの積み下ろしのことなど、環境の改善等も含めて、さらなる啓発が必要です。
もっとも進んでいる、と思われるのは、日本の空港です。特にANAと日本航空(レガシーキャリア)は、障害者をアシストするシステムがしっかり整っていて、専用のデスクまであります。
電動車いすを扱うのには、バッテリーの知識など専門的な内容が必要ですが、羽田空港の専用デスクの方たちは、流石にみな手慣れています。
ところが地方の空港は設備はそれなりですし、職員の方も電動車いすのことを良く知らない例があります。そのような場合は、こちらの説明が大変です。
良いか悪いかは別にして、障害者のケアには人手がかかるのです。
例えばLCC(ローコストキャリア)などは荷物の処理も含めて、すべて自分でやるか、お金が余分にかかりますので、私は利用しません。コストをギリギリまでカットして、「格安」であることを売りに掲げてますから、それを要求するのは無理な話です。
鉄道会社に関して言うと、やはりJR東京駅の対応はすごいです。
手動の車いすを押して案内してくれたり、案内をしてくれる職員が別に常駐しています。シルバー向けに、相当の人数が配置されていると思われます。
ホームに下りてから、各地に出発するまでの乗り換えの手配は抜群だし、新幹線に関しては、専用の待合室もあります。
ただ利用者が多い時は、その専用職員が足りないこともあって、対応に時間がかかります。土・日・祝日などは、時間に相当ゆとりを持って動かないと、ハラハラすることになります。
こういった様々な問題を重々理解した上で、プロジェクトを掲げて頂ければ良いのに、と思います。
「便利」、「優しい」、「家族も安心」、「人生が広がる」を、高齢者ユーザーや、家族、介護やリハビリの関係者にも、アピールする視点が必要なのです。
■吉野なら、キャンペーンをこう展開する!
では、もし、この私が「電動車いすのプロジェクト」を企画したらどうなるか。
(1) アンバサダー、もしくは広報担当者には、実際に電動車いすを使って、生活を送っている方を選ぶ。
その方の口から、電動車いすを使って、どんなに外出がしやすくなったか。そして、操作を習得するまでのことや、外出中に出会った良いこと、少し困ったことなどの話をプレゼンしてもらって、報道して頂く。
(2) 高齢者のユーザーを何人かと、介護やリハの専門家、道路や建物のバリアフリーの関係の専門家を講師にして、シンポジウムを開く。
たまたま知り合った電動車いすユーザーの先輩から、「急に雨が降ってきた時のために、ビニール傘の一番大きいのを買っておいて、杖と一緒に後ろのボックスにさして置くと良い」
「透明のビニール傘は、視界が広くて、車いすの運転には良い」とか、「寒さ対策に膝掛けを用意すると良い」などの情報を教えていただいて、すごく役に立ちました。
実際、電動車いすを使った生活の中で、自力で困ったことを解決してきた方の経験は、非常に参考になります。
(3) ケアマネージャー、介護やリハビリの関係者向けの勉強会を積極的に行ない、講師としてメーカーの方、電動車いすの高齢者ユーザーを招く。
電動車いすを借りた直後、業者の方が使い方の指導をしてくれました。彼の言う通り、操作に慣れるまでは最低のスピードにして、とにかくあちこち走ってみることです。
5段階にスピードが切り替えられるが、その最低のレベル「1」で走る分には、万が一ぶつかったりしても、大きな事故にならない。慣れて自信がつくまでは、とにかくゆっくり走りましょう、とのこと。これはとても良い教訓になりました。
私は割に早くスピードを上げており、今は「レベル5・時速4キロ」で走っていますが、道が分からなかったり、暗がりなどを走るときは、スピードさえ落とせば安全だと思っています。
(4) 包括支援センター等で行っている様々なイベントの一つとして、電動車いす試乗会、体験会を行う。
リハビリの関係者は、脊髄損傷など下半身に麻痺が出た方たちの足として「手動の車いす」のトレーニングは行なっています。
ところが電動車いすは値段が高いため、これを実際に学習したりすることができません。臨床の中で、あるいは介護という現場で、専門家として経験したことのない物をトレーニングプログラムに導入したり、積極的に利用者に勧めることはとても難しいことです。
電動車いすを生活の中で使うノウハウを、介護関係者やリハビリテーションの関係者が知る機会を、もっと沢山設けないと普及しません。実際に電動車いす本体を見て、触れて、体験する機会を作るべきでしょう。
(5) デイサービス施設や介護施設に出向いて、体験会などを行う。
今、新しく建設された地下鉄では、車いすやベビーカーが直接乗り込めるように、ホームの一部に傾斜をつけて、直接上がれるようになっています。
ところがホームと車両の間のすき間が完全に埋まっていないので、少し勢いをつけないと、車いすの前輪がすき間にはまって、うまく乗れない場合があります。ベビーカーや、手動の車いすを押して乗る場合は役にたちますが、電動車いすの場合は、不十分だと思います。
また丸ノ内線や銀座線のように古くからできた地下鉄は、ホームへのアクセスは貨物用のエレベーターを使わせてもらうか、階段昇降機で代用したりしています。ところが階段昇降機は、人と車いすで合計100キロ未満でないと安全に使えないと言うことで、乗り換えがスムーズに行かないこともあります。
こういったユーザーの不満は、当事者で無ければ分かりません。メーカー側も公共施設の職員も、「現場の声」を聞く機会が無いのです。そういった機会をもっと設けるべきなのです。
日本の福祉全般を考えると、インフラも、人の理解も、まだまだこれからです。啓発が必要です。障害者の意見に耳を傾けて、マスメディアに広報活動をしてもらうことが必要だと感じます。
経産省の「のろーよデンドウ車いすプロジェクト」は、喜ぶべき活動の一環でしょう。これをきっかけに、1人でも多くの理解者をふやすこと、それが私の希望であり、使命だと思うのです。
(次回へ続く)
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