元祖鉄道アイドル、今は「鉄旅タレント」として鉄道をアツく語る、木村裕子が日本各地の魅力的な路線を紹介する“女子鉄ひとりたび”(『女子鉄ひとりたび』著・木村裕子より)。最愛のカレシ、400系の新幹線とのランデブーを楽しんだ彼女。

終着駅の新庄から、さらに鈍行列車へ。夢の目的地である「のぞき」駅はもう目の前に迫っている。どんな駅なのか、どんな場所なのか。裕子の胸は高まる!



■ツイッターが唯一の命綱になるワケ

《極寒の奥羽本線》一面の銀世界で人間シャベルカーになった私【...の画像はこちら >>



《極寒の奥羽本線》一面の銀世界で人間シャベルカーになった私【女子鉄ひとりたび】33番線



 新幹線や駅を相手に、恋多き私は、新庄(しんじょう)駅までやってきた。



 この駅を境にレール幅が変わるため、ホームが南北に分かれている。また、陸羽東(りくうとう)線と陸羽西(りくうさい)線の2本も乗り入れており、街の規模に対して駅構内はとても大きい。



 山形新幹線が延伸された際に改築された駅舎をしばし眺めたあと、奥羽本線の湯沢(ゆざわ)行きに乗車した。ピンクのラインが可愛いステンレス車体の電車だが、前面に雪がたくさんくっついて、白ひげのサンタクロースみたい。



 冬場の東北地方では、車内保温のため停車中もドアを締め切るのが基本。そのため、乗客は自分で開閉ボタンを操作して乗り込む必要がある。ドアを開けっ放しにすると車内はみるみる冷え込むため、どの乗客も素早く乗り込み素早くドアを閉める、という暗黙のルールがある。



 郷に入っては郷に従え。

私もその法則に従って、急いでボタンを押した。



 新庄の市街地を抜けると、すぐに列車は山の中へ。車窓には雪がちらつくようになり、雪国に来たことを改めて実感する。線路の周辺は白一色だが、雪は光を反射するため、空はどんより曇っていてもそれなりに明るく感じる。銀世界の中では紫外線が強いので、到着前に日焼け止めクリームを塗りたくった。



 そしてツイッターにこう投稿した。



「及位(のぞき)駅。今から3時間後までに次の投稿がない場合、事務所へ連絡してください」



《極寒の奥羽本線》一面の銀世界で人間シャベルカーになった私【女子鉄ひとりたび】33番線



 これはファンと私の暗号である。



 意味は「今から及位駅に降ります。おそらく携帯電話は圏外だから、もしものことがあれば事務所へ連絡して詳細を伝えてください」ということだ。



 マネージャーは鉄道知識が全くない。ゆえに、そのときの正しい対処法がわからない。

鉄道に詳しいファンのほうが、的確な指示を出してくれる。



 これまでも何度か同じ内容を投稿し理解をしてくれているため、
「了解。楽しんできてね」と瞬時にたくさんの返信が来た。



 準備は万端。いざ、魅惑の駅へ!



■ついに来ました、念願の「のぞき」駅!

《極寒の奥羽本線》一面の銀世界で人間シャベルカーになった私【女子鉄ひとりたび】33番線



 及位駅に到着すると、下車したのは私だけ。ホームには新雪が降り積もり、踏みしめるとざくざくと心地よい音がする。



 名古屋出身の私は、この歳になっても雪を見るとわくわくしてしまう。タレントの仕事は全国へ出向くことが多く、雪を見る機会は飛躍的に増加したものの、何度見ても童心に帰らせてくれるから大好きだ。



 まず、及位駅の駅名標に向かって、
「あなたに会いたかったの! やっと会えた!」と、テレパシーで募る想いを伝えた。



 そして、念願のツーショット写真を思う存分に撮るのが目的だ。でも駅名標は、ホームを覆った雪に埋もれて、よく見えない。



 こうなると自分で除雪するしかない。

そこで体を使って「人間ショベルカー」となり、周辺の雪を取り除くことにした。



 着ていた防寒着は防水加工されているものの、すぐに雪の冷たさが体に伝わり、芯から冷え切ってくる。誰に頼まれたわけでもないのに、山の中で一心不乱に雪をかき分けた。



「女30代。こんなことをしていていいのかな」との思いが、一瞬、頭をよぎった。



「いや、いいんだ。自分なりのこだわりを持ちながら、テーマを決めた鉄道旅行をしている。鉄道とはそもそも人生を豊かにしてくれる、奥深くて楽しい趣味。これで満足できるなら、こんな幸せなことはない!」



 私は人間ショベルカーを続けた。



(34番線へ続く)

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