世界中の料理人の垂涎の的であり、最も彼らが恐れている存在、それが「ミシュラン調査員の来訪」である。しかし「世界のミシュラン三ツ星レストランをほぼほぼ食べ尽くした男の過剰なグルメ紀行」の著者である藤山氏は、恐れるべきでは無く、むしろ料理人がキャリアを大きく飛躍できるチャンスであると語る。
■覆面の刺客を見分ける方法とは?
『東京版』、『京都・大阪版』をはじめとする日本の『ミシュランガイド』ブックの星の基準は、やや信頼性に欠けるとはっきり断言していいだろう。
会社のお金で、世界の三ツ星レストランに数回訪れた程度の調査員に、藤山が愛してやまないレストランを「これは、うまい」とか「うまくない」とか、評価されたらたまらない。
もちろん、パリの三ツ星に匹敵する、いや、それ以上のフランス料理店が日本にあることも知っているから、日本に三ツ星レストランが存在しないとは言っていない。ただ、どの程度の美食家のレベルの方が、レストランの星の数を判断しているのか、それを知りたいだけなのだ。
東京で、ある一流フランス料理店の支配人に、「ミシュラン調査員の見分け方」を聞いたことがある。それによると、こうだ。
① はじめての客である
② なんだか、そわそわしている
③ メニューのめくり方がおかしい
④ ふたりが同じものを頼まない。ひとりがコースなら、もうひとりはアラカルト(単品)
⑤ スマホを取り出し、いちいち何かを調べている
⑥ 食べ終わると、スマホに何やら打ち込んでいる
⑦ 自分宛ての領収書を必ずもらう
⑧ それ以来、二度と来ない。来る時は「写真を撮りたい」と言う
これも、なんだかなあ。
畏(おそ)れ多くも、1900年のパリ万博の時に創刊された、あの『ミシュランガイド』の調査員としては、どうだろうか。

『ミシュランガイド』の調査員を16年間勤めたパスカル・レミという方が書いた暴露本『裏ミシュラン──ヴェールを?がされた美食の権威』(吉田良子・訳/バジリコ刊)にはこう書かれている。
「ナレはすべてを変えた。三ツ星にしか興味を持たず、調査員を素人ばかりにした」と。
まさに、ミシュラン調査員のナレの果てだ。
(次回へ続く)