■茶髪が原因で修学旅行に行けない
日本の学校では、校則が子どもたちをがんじがらめにしている。中にはあまりの強引さから「ブラック校則」と呼ばれるものさえ存在する。
2015年4月に大阪の府立高校に入学した女子生徒が、同校の「パーマ・染色・脱色・エクステは禁止する」との校則に違反しているとの指摘を学校側から受けた。それに対して女子生徒は、「生まれつきの地毛が茶色」だと主張。それでも黒く染めて登校したものの、「黒染めが不十分だ」として、さらに黒く染めるように、教員らが生徒に繰り返し指導している。挙げ句に、授業への出席が認められず、修学旅行への参加も認められなかった。
そして、生徒は不登校になった。
その元女子生徒(現在21歳)が、大阪府を相手に、慰謝料など約220万円を求める訴訟を起こした。その地裁判決が、16日に下されたのだ。
大阪地裁は、高校の頭髪指導の違法性を認めなかった。つまり、地毛だとする女子生徒の説明を無視して黒く染めさせ、授業に出席させず、修学旅行への参加も認めない指導に対して「概ね違法性はない」と判断したのだ。
ただし、不登校になった女子生徒が3年生に進級した際に、学校側は教室に生徒の席を置かなかったり、学級名簿に名前を載せなかった。
大阪地裁が元女子高生の言い分を全面的に認めなかったのは、「(学校側が)合理的な根拠に基づいて生徒の髪の生来の色は黒だと認識していた」と判断したからである。生まれつき茶髪だったという元女子生徒の言い分は認められなかった。
問題は、髪を染めることを禁止した校則について「学校の正当な教育目的で定められた合理的なもの」だとしたことだ。
パーマや染色を禁じる校則について、華美な頭髪を制限することで生徒に学習や運動に注力させ、「非行防止」につなげるという目的などから適法と大阪地裁は判断している。これは、校則について学校側の裁量を認めてきた過去の司法判断を踏襲したものでしかない。
今回の大阪地裁での判決も、学校側が校則を設けることを正当とし、それに従って教員が生徒を指導することについても「当然」と認めたことになる。
これによって、学校が校則を設け、教員が厳しく指導する状況に変化は起こりにくくなるだろう。それどころか、大阪地裁の判決が子どもたちを縛る校則を強化する動きを加速してしまわないだろうか。
そういう意味では、この判決内容は今後も議論されていくはずである。
■「校則だから」では納得できない子どもたち
最大の懸念は、この判決が「考えない教員」を増加させることにならないか、ということである。
パーマや染色を禁じる校則が、華美な頭髪を制限することで生徒に学習や運動に注力させて非行防止につなげる目的だと判決では認めている。
黒い髪でも学習や運動に注力できない子どもたちは、いくらでもいる。黒い髪でも非行に走る子だっている。
いわゆる「不良少年・不良少女」が髪を黒髪にしたからといって、品行方正で学習や運動に注力するようになるわけではない。そんな上辺のことで子どもたちの本質が変わるわけではないことは、日々、子どもたちと接している教員なら理解していることである。
それでも、先の女子高生に対してのように、教員は執拗なまでの指導を繰り返すことになる。先の女子高生のように、それが不登校の原因になってしまうこともありうる。
これでは教員の目的が、髪を黒くさせることなのか不登校に追い込むことなのか分からなくなってしまう。
そこまで執拗な指導になってしまうのは、教員が校則の意味を理解していないからである。
ある公立学校の校長は、「教員は『校則なんだから守れ』と言いがちなんです」と話す。「こういう理由だから髪を染めてはいけない」ではなく、「校則で決まっているから髪を染めてはいけない」となりがちだというのだ。
これでは、説得力がない。
子どもたちに「なぜ?」と訊かれたら、はたして答えられるだろうか。「非行の原因になる」などと答えたら、それこそ「えっ?」と思う子どもは多いだろう。
説得力がなければ、子どもは校則を守ろうとはしない。だからこそ、教員は「執拗な指導」をすることになる。そして、その反発から、生徒が不登校や非行に走る可能性も否定できない。実際、先の女子高生は不登校になっている。これではとてもじゃないが、「適切な指導」とはいえない。
しかし、それがまかりとおっているのも学校の姿なのだ。これが望ましいものではいことは、あらためて言う必要もない。
校則を守らせたいのなら、その理由と意義をきちんと教員は子どもたちに説明し、説得できなければならない。そのためには、校則について教員はきちんと考えなければならない。
大阪地裁の判決を、「校則だから」で済ます理由にしてはならない。「校則だから」を言い訳に、不登校や非行を招くような不適切な指導を防ぐためにも、「考える教員」が必要である。