【深刻な教員不足】文科省は子どもたちの「学ぶ権利」を守れるの...の画像はこちら >>



■全国で顕在化する教員不足の実態

 4月6日、萩生田光一文科省は閣議後の記者会見で、教員不足の実態を把握するための全国的な調査を行う考えを明らかにした。歓迎すべき動きであることは言うまでもないが、これが初めての調査となる。

つまり、これまで文科省としては、教員不足の実態について調査をしてこなかったのである。



 教員不足は、いまに始まったことではない。たとえば2019年4月23日の『朝日新聞』には「富山市、臨時講師27人不足 担任を発表できない学校も」という見出しの記事が掲載されている。富山市の小中学校で、育休や産休を取得した教員の代わりを務める臨時的任用講師(臨任講師)が不足していて担任の手当ができないというのだ。
 臨任講師は採用試験の不合格者や退職した教員、いわゆる正規教員ではなく、非正規の教員である。そういった教員に担任を任せることも問題と言わざるをえないのだが、正規教員だけでなく、非正規教員も不足していることがこの記事から分かる。



 今年3月には、高知県の安芸郡芸西村、土佐郡土佐町、幡多郡大月町の議会で、専門外指導の解消を高知県に求める意見書が可決されている。
 理科教員が技術を教え、音楽教員が美術を教えるという事態が専門外指導である。本来ならば、技術は技術の免許を持った教員が教えるべきである。それができないのは、教員が不足しているからに他ならない。
 その割合も深刻な数字だ。高知県だけでも公立中学校の7割、同じ四国地方の徳島県は82校中63校、香川県でも67校中12校で専門外指導が行われているという。



 しかも、これらは四国に限ったことではない。全国の中学校で起きていることである。専門外の授業を担当して教えなければならないのだから、十分な授業になっていないことも想像できる。専門外指導の授業を受けなければならない子どもたちにとって「学ぶ権利」が満たされているとは言い難いのではないだろうか。



 状況は高校でも同様である。今年3月24日付の『毎日新聞』には、「高校で必修の『情報』 正規の教員不足 地域格差も深刻」との記事が載せられている。
 2022年度の新入生から、プログラミングやデータ分析を学ぶ「情報」が必修となるが、47都道府県と相模原市を除く19政令市のうち73%に当たる48道府県・市で、正規の免許を持たない教員が授業を担当する公立高校があるという。科目は増えるのに、それを教える体制が追いついていないことになる。





■必要なのは「調査」ではなく「対策」と「改善」

 数学や理科などを教えている教員の中には、情報科の免許を保有している「隠れ情報科教員」が存在するという。そういう教員に担当させれば、教員の不足は解消できるという説もある。
 ただし、数学を担当していた教員が情報科だけを担当すればいいということにはならない。そんなことをすれば、今度は数学の担任が不足することになるからだ。


「隠れ情報科教員」が情報科を担当するということは、情報科も担当するが、それまでの専門科目も引き続き担当しなければならなくなる。教員の負担の大きくしてしまう。
 そもそも「隠れ情報科教員」自体が不足している地域もある。長野県や栃木県は、情報科の免許を持つ全員を充てても不足するという。教員不足にも地域差が存在しているのだ。



 このように、様々な形で教員が不足しており、教員不足はすでに深刻な問題になっている。それにも関わらず萩生田文科相は、実態を把握する「初めて」の調査を実施する考えを明らかにしたのだ。念を押すと、調査の実施が具体的に決まったわけではない。「実施する考え」が明らかにされただけである。



 では、文科省は教員不足の実態をまったく把握していないのだろうか。そんなことはない。先の『毎日新聞』の記事は、「文科省への取材」で分かったという事実を報じている。

教員不足の事実を、すでに文科省は把握している。しかし、教員不足に対して具体的で効果的な施策を打ち出せていないのだ。



 高校での情報科教員の不足について、文科省が行ったのは「免許保有者を積極的に採用したり、情報科の免許を持ちながら他教科を担当している教員の配置を見直したりして指導体制を整えるよう都道府県と政令市の教育委員会に通知した」(『毎日新聞』)だけである。
 教員を増やすには文科省も役割を果たさなければならないが、そうではなくて「何とかしろ」と指示しているだけなのだ。「言うだけなら誰にでもできる」という教育委員会からの声が聞こえてきそうだ。



 萩生田文科相は初めての実態調査を実施して、そこから、どのようなアクションにつなげていくのだろうか。実態調査によって教員不足が浮き彫りになることは確実である。「教員不足は深刻です」と発表して、教育委員会に指示して文科省としては終わりにするのだろうか。
 それとも、実態調査の結果を武器に、教員数を増やすために財務省と正面からの戦いを挑み、予算を獲得する覚悟を決めているのだろうか。萩生田文科相と文科省の本気度と覚悟が注目されている。



 

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