3度目の宣言下において試される「オンライン授業」やICT端末...の画像はこちら >>



 教育のデジタル化を促進すべく、この春、多くの子どもたちへ配られたタブレットなどのICT端末。さっそくこれらを活用しなければならない事態となったが、果たして新しい教育様式は問題なく機能するのだろうか。

いち早く方針を発表した大阪市の対応から、顕在化しつつある教育現場の課題を考察したい。



■「オンライン授業」ベースの教育がはじまる

 新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の感染拡大は収束するどころか、陽性者の数は日に日に増加する状況が続いている。そうした中、4月23日に政府は東京、大阪、兵庫、京都の4都府県を対象に、3回目となる緊急事態宣言を発出した。
 ゴールデンウィーク期間の人出を極力減らすために、大型商業施設や酒類を提供する飲食店などには休業を要請することになるという。これにより、企業の負担や自粛によるストレスはさらに大きくなっていくだろう。そして、教育現場においても様々な混乱を招く可能性が高まっている。



 大阪市は既に22日に、緊急事態宣言発出を前提にした小中学校での対応策を通知している。オンライン授業と対面指導を組み合わせる、少し複雑な対策である。
 小学校については、「1、2時限目は家庭にて学習者用端末でのICTを活用した学習やプリント学習等を行う」となっている。そして3時限目には登校して健康状態の確認を行い、4時限目は学校での指導を受ける。それから給食をとって、5、6時限目は再び帰宅してICTを活用した学習やプリント学習を行う。
 給食が目的の登校のような印象もある。

これは、中学でも同じだ。
 1~4時限目は、小学校と同じ家庭でICTを活用した学習やプリント学習を行う。そして給食準備時間前までに登校し、給食のあとの5、6時間目は学校で指導を受ける。



 大阪市の松井一郎市長は、「基本はオンラインだが、どうしても自宅で過ごせない家庭については学校を開けて見守る」と19日に語っていた。登校は一部の子どもたちに限るとしていたのだが、すべての子どもを対象に部分登校させることにしたことになる。
 オンライン授業だけになると、子どもたちは昼食を家庭でとらなければならなくなる。そうなれば、「誰が準備するのか」という問題が出てくる。保護者に仕事を休ませないために、給食の提供を続けることにしたのだろうか。
 そのために、複雑な登校形態になってしまったようだ。そこから生じる問題は、学校と教員が引き受けざるをえない。保護者への配慮はあるが教員への配慮はない、ともいえるだろう。



 保護者が出勤している家庭の子どもたちは、オンライン授業を受けてから登校することになるが、はたして支障なく登校できるのだろうか。

保護者に急き立てられて登校していた子だと、なかなか時間どおりに家を出るのは難しいかもしれない。
 そうした子への対応も、教員の仕事になるだろう。オンラインで登校を呼びかけるのか、遅刻している子がいたら、オンラインか電話で連絡したりするのだろうか。いずれにしても、これまでになかった新たな仕事となる。





■混在型の学校教育で教員はさらに多忙となる

 また、オンライン授業だけでなく「プリント学習」も盛り込まれている。GIGAスクール構想による1人1台端末の普及が4月1日が目標に前倒しされたとはいえ、すぐにオンライン授業がスムーズに機能するわけではない。なにより、まだ端末が普及しきっていない地域もある。
 それらを考慮して、プリント学習も盛り込まれたのだろうが、そのプリントを準備するのも教員である。プリントは渡して終わりではない。採点などその後のフォローも必要になってくる。さらに、大阪市は「学校での指導を受ける」と、対面での授業実施も予定しているのだ。



 つまり、教員はオンラインとプリント学習、そして対面授業の3つをバランスを考慮しながら組み立て、実施していかなければならない。

教員の負担は大きくなるのは間違い。よく練られた対策というより、場当たり的な印象は否めない。そして、そのツケは学校と教員に押し付けられる。
 東京都や京都府、兵庫県も、全面オンライン授業にはしない。すべての学校の足並みが揃っていないこともあるが、それ以上に、文科省・政府がオンライン授業に積極的でないことに大きな理由がありそうだ。



 非常事態宣言が発出された23日の閣議後記者会見で萩生田光一文科相は、「地域一斉の臨時休業を要請することは考えていない」と明言したうえで、「感染症対策を徹底して学習の継続をはかっていただきたい」と発言している。対面授業の継続を求めているわけだ。
 もちろん、「感染対策を徹底して」と念押ししている。3密(密集、密接、密閉)を避け、検温など子どもたちの健康管理に気を配り、教室の消毒など、いままで以上の対策を求めている。



 大阪市ほどの複雑な登校形態にまではならないかもしれないが、分散登校など、それに近い対応がとられていくことになる。そこで増える仕事を引き受けなければならないのは、まちがいなく教員である。そうした状況であっても、学習面で他の自治体より遅れることも許されない。

学力低下は、各教育委員会がもっとも嫌がることだからだ。



 3回目の緊急事態宣言では、アルコール提供の自粛が求められるなど、これまで以上の厳しい措置がとられる。しかし今回、学校には「できるだけ通常に近い形」が求められることになる。
 これまでと違い、子どもへの感染リスクも高まる変異ウイルス株が広まりつつある。それでも学校の「通常」を続けるには、かなりの対応策が必要なはずだ。学校や教員だけで対処できるとは思えない。



 政府や文科省が具体的で効果が期待される対策を示すことなく、保護者が仕事を休まなくても済むような「学校の日常」が求められることになる。学校外での混乱は多少は抑えられるかもしれないが、学校と教員の負担は大きくなり、混乱は大きくなる可能性が高いだろう。
 3回目の非常事態宣言にも関わらず、学校と教員に問題を丸投げする状況は1回めの宣言時から変わっていない。



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