名著『みんなちがって、みんなダメ:身の程を知る劇薬人生論』(KKベストセラーズ)がロングセラーの中田考先生が、「レンタルおじさん」を始めました。いったいどんな方が「知の怪人」中田考先生を「レンタルおじさん」としてご利用され、どんな時間を一緒に過ごすのでしょうか?  初回の依頼者は最近イスラームに改宗した大学生。

イスラームの質問に答えた後、二人はバイア(イスラームにおける忠誠誓約)を結び師弟の関係になります。そして弟子に最初に与えたミッションとは?





■依頼者 K君 情報

 10年近く前の中学受験の失敗を未だに引きずっている1浪1留、異常なほどの学歴コンプの持ち主。Twitterを通して中田先生と知り合う。





■中田先生の依頼者に対しての印象

私も(依頼者K君が)どんな人かよく知らないんですよ。Sさんという古い知り合いの元自衛隊員の双極性障害のムスリムがいるんですが、ツイッターを観ていると、何故かSさんに弟子入りしていてたんです。でも、言いつけは守らないし、余計なことばかりするので、破門されたらしい。

Sさんも障害者年金暮しの相当重度な障害者なんですが、そのSさんにさえ「薬を飲んでない手に負えないナマモノの障害者」と言われるほどの困った人物のK君なんですが、私の弟子だと勝手に名乗ってカリフ制再興に興味があるとかツイッターで言いふらしているので、放っておくと、私まで同類と思われかねない。それで、仕方ないから世話をしよう、やれやれ。とまぁ、そういう感じで私がK君に連絡したのがファーストコンタクトです。そんなK君が今回の「レンタルおじさん、始めました」の連載コーナーに一番初めに、私をレンタル依頼してきました。緊急事態宣言下で行きたいお店がどこも閉店しており、KKベストセラーズの会議室で初めて直接会うことに。





■依頼者K君との懇談とミッション



K君:先生はイスラームの中でも原理主義的な価値観を持っていますよね。



中田:そもそも原理主義なんて言葉使う時点で何もわかっていないんですけどね。



K君:サラフィージハード主義者と聞いたら普通の日本人は関わりたがらないと思うんですが……。



中田:そうでしょうね。バカとは付き合いたくないので、バカを篩にかけるためのフィルターとしてそれも自称しているんですよ。サラフィージハード主義と聞いて分かったつもりになってダメだと思うような人間とは付き合いたくないんでね。鬱陶しいからです。

単純に。





■バイアを結ぶ



中田:イスラームを勉強するのに、日本語のイスラームについてのツイートとかも本来は読まない方が良いんですね。ロクなのはないから。特にツイッターで議論しているのとか、本当にバカバカしいからね。本当は私の本を全部熟読した上で私のツイートだけを見るのが良いわけだけど。



 君は私の弟子だとTwitterで名乗って、カリフ制再興に興味を持っている、と自称しているので、教えればモノになってカリフ制再興に貢献する可能性が僅かでもあるなら、指導する責任があるので、仕方なく一応教える事にしたんですけどね。



 イスラームには基本的には組織がない。ではどのように人間が繋がっていくのかというと、個人と個人の忠誠誓約というものの連鎖によるんです。これをバイアと言います。私もハッカニー教団と呼ばれるスーフィーの集団があって、その導師シャイフ・ナーズィムと忠誠誓約、バイアを交わしてしていたんだけど、そうするとシャイフ・ナーズィムとバイアを交わした彼の他の弟子たちとの間に横のネットワークができていく。



 ではバイア、というのは具体的にどうやるかというと、二人で互いに手を重ねて、クルアーンの節の「あなたに忠誠誓約(バイア)を交わす者たちは、アッラーに対して忠誠契約を交わしたに他ならない。アッラーの御手はあなた方の上にある。

それを破ったものは自分自身に対してそれを破った事になるだけである。もしアッラーに対して誓ったことを守れば、やがてアッラーが大きな報償を与えてくださる」(48章10節)これを互いの手を重ねて唱えるんですね。これからそれを行います。だから私に忠誠を誓うんではないのです。どちらも相手に対して自分の責任を果たすことを神に対して誓うのです。今回の場合は、私が教える立場なので生徒であるあなたに指示を出すのだけれど、それによって私は自分が習ったイスラームの教えを人に伝える、というアッラーに対する責任を果たしているのです。



 ただそれは私とアッラーとの関係の話なので、私が言うことが正しくて私に従うことがアッラーに従うことだとあなたが思えば従えばいいし、間違っていると思うなら従わなくても構わない。それはあなたとアッラーの問題であって私には関係がありません。もっとも、私の指示に従わなければ、その時点で私との師弟の関係は切れるんですけどね。まぁ私の方が多くの責任を担うことになり、時間的にも精神的にも金銭的にも負担が大きいので、出来の悪い弟子との師弟関係など一刻も早く切れてほしい、というのが本音ですがね。指導者として、弟子の能力を見極めて出来ないことはいっさい指示しないつもりですけど、それでも私が言うことが無理難題で、自分にはできないと思い、嫌なら従わなくったっていいんです。それがイスラーム世界において師弟になるっていうことの意味なんですね。







■師弟関係を結んだK君へのミッション



中田:それで最初のミッションなんですけどね……。結婚しなさい。



 一応確認ですけど、結婚してませんよね?誰かと結婚を約束している相手とかも。いませんね。じゃあ結婚しましょう。俺カリ『俺の妹がカリフなわけがない』(晶文社)にも書かれている通り、日本でイスラームを行う上で一番大切なことは結婚して子供を産むことなんですよ。



 アイシャ(俺カリの主人公)がなぜ結婚相談所をやっているかというとそれがカリフの仕事だからです。「スルタン・カリフは後見人のいない者の後見人である」と預言者ムハンマドが仰せの通り、カリフが日本でなすべきことはまず人々を結婚させることです。



K君:親に改宗した事を言っていないんですが、結婚したら親にも知られますよね?





———このあたりでK君は、椅子に座って組んでいた脚を頻繁に組み換えだした。髪や頬を手で忙しなく触り、かつ耳から額にかけて徐々に紅潮しだした。やがて目も虚ろになり、とにかく落ち着きがない。師弟関係を結んだ中田先生に、K君はミッションを真剣に迫られる。相当にうろたえているようだ。が、中田先生は時折容赦なく、気乗りしないK君を真顔でじっーと見つめる。「結婚する」というミッションを促すべく、絶えず論理的に説得を試みていく。





中田:どうでしょうね。イスラーム法上の結婚だから、婚姻届なんか出さないからね。日本の結婚は市役所に婚姻届けを提出しますが、イスラームの結婚に日本の役所なんか関係ありません。一緒に住む必要もない。まぁ住みたきゃ住んでいいけど。とにかく仮定のことなんか考えても仕方ないです。



K君:まぁ僕がこの先結婚できる可能性なんてないでしょうけど……。



中田:そうです、絶対にありません。一目見ればわかります。この先成熟して一般的なステップを経て結婚できるとでも思っているならとんでもない勘違いです。できません。さっきも話した通り、自分で相手を見つけて結婚できるようなら私も結婚しろ、などと指示しないわけです。



 今まで出来ていなかったらこれからも出来ないんです。人間の価値は歳を取れば取るほど下がるんです。君の価値は今が一番高いんです。明日になるともっと下がるんです。



K君:相手は僕が(精神)障害者だという事を知っているんですか?



中田:もちろんですよ。知らせなければ詐欺ですから。といっても、障害者であることはそんなに悪いことじゃない。障害者は責任能力がないので、神の前で罪に問われないって事だけじゃなくて、嘘がつけないってことが一番のメリットなんです。要するに他人の気持ちがわからず、言って良いことと、悪いことの区別がつかないので、なんでも口にしてしまう、嘘をついた方が自分の得になる、というシチュエーションが理解できないので、嘘をつけない。



 本当に危険な悪い奴というのは、女にモテる格好、仕草をして美辞麗句を並べ立てて次々に頭の弱い女の子を騙して餌食にするような大学のサークルにいるような連中なのですよね。その点、障害者は嘘をつけないから信用できるんです。



 あなたのツイートを見れば一目で障害者だとわかりますが、相手はそれでも良いと言っているんですよ。こんな相手はもう二度と現れませんよ。この話は基本的にはあなたの為に言っているんです。



K君:普通の日本人の親が聞いたら発狂すると思うんですが?



中田:何が問題ですか? まぁ私と関わっていると聞いて嫌がる親はいると思いますけどね(笑)。



K君:相手に対しての責任とか人生に対する拘束が起きるじゃないですか?



中田:そんなことは相手が考えることです。バカが下手な言い訳をするんじゃない。イスラーム法では、女性の方からは基本的に離婚できないから、女性が結婚を悩むことはあるんです。男性の方は離婚を一方的にできるので、悩む必要はないんです。彼女のために、ハナフィー派に女性が自分から離婚が出来るという条件を婚姻契約で付けられるという少数学説あるので、彼女のために今回はその条件をつけるつもりでいます。彼女の方からも離婚できるようにはしています。そんなことは私がよく考えた上で話しています。



K君:結婚してから後悔するってことはありますか?



中田:私がわかるわけないじゃないですかそんなことは、そもそも今だってやることなすことすべて後悔して生きているんでしょう。将来後悔するとすれば、自分がバカだからであって、結婚したからではありません。



 結婚するのに一番重要なのはバカなツイートをやめるということです。無駄なことは考えない。10年近く前の中学受験の失敗の話とか、下らないツイートをしない。無意味なツイートをするのは承認欲求とか孤独で寂しいとかそういうことでしょ。幻想の空間でそういうことをやっても何の意味もないですから。



 私に対してもそうだけどネットで他の人間に絡まない方が良い。私や私の周りの人間に絡むのもはっきり言って非常に不愉快なんですね。そういうのをやらないために彼女とだけ付き合っていればいいんですよ。



K君:先生は結婚が良い方向に導くことを期待しているわけですね?



中田:そうですね。今が最悪なので、何をやってもこれ以上わるくはならないと思うけれど、良い方向に行けるとすれば、結婚以外にはないでしょう。最初でうまくいく可能性は限りなく低いですが、手当たり次第に試してみて、経験値を積んでいけば、まぐれ当たりで成功しないとも限りません。どうせ放ってたらこの先バカが経年劣化していくだけなので、何をしようと今以上にわるくなることはまずありません。そう思うと気が楽になるでしょう。



 イスラームの一番のメリットは、真実を直視することで、気楽になることですからね。お疲れ様。バイアを結んで、求婚しなさい、との命令に従ったことで、取りあえず最初のミッションは達成です。実際に結婚できるかどうかは、アッラーの御心次第です。検討を祈ります。







■最後にやっぱり「結婚しなさい」



中田:そういえば、そもそもどうしてSさんの弟子になったんですか?



K君:いや、弟子になったつもりなかったんですよ、あの人について行ったらいつの間にか弟子にされてて、いつの間にか破門されてたんですよ。指示に従わなかったから破門されたと言われたんですけど、単に従う必要ないかなと思ってたんです。



中田:師匠だと思ってなかったのね。それならまだわかるなぁ。



K君:どういう方なんですかSさんて?



中田:どういう方…。同じ障害者ですよ。同じようなもんでしょ、でも彼も結婚してかなり落ち着きましたからね。





■後日談



 あれだけ「下らないツイートをするな」と釘を刺されたK君ですが案の定、その言いつけを守れず、結婚相手(になるはずだった)の親御さんから「気持ち悪い」と言われ呆気なく玉砕しました。



 中田先生「はぁ、本当にバカだねぇ~(呆れ)」



 師弟関係を結んだ彼に今後どんなミッションが与えられるのでしょうか。インシャアッラー





(二人目の依頼者へつづく)





文:ヒサマタツヤ