コロナ禍で少子化が10年進んだと言われる。一方で結婚相手を求める男女は増えているようだ。

実際に婚活アプリなどの利用者は男女ともに増加傾向。いま婚活市場は一体どうなっているのか?  40代のころの婚活体験を綴った『婚活したらすごかった』(新潮新書)がベストセラーになり、婚活をライフワークにしつつ、今も本気で結婚したいと願う現在57歳・バツイチのライター石神賢介氏。最新刊『57歳で婚活したらすごかった』(新潮新書)の内容が面白すぎると話題になっている。「事実は小説より奇なり」。まさにこの魑魅魍魎の婚活市場にいえることかもしれない。そんな石神氏の婚活リアルレポートをお届けする!前回につづき第2回を公開。





■パーティーには自分に適した〝街〟がある



 次に参加した婚活パーティーは、元女優の受付嬢や華道の先生など、参加者のバリエーションが豊かだった。



 会場は恵比寿。あくまでも個人的な印象だが、東京できれいな女性がもっとも集まっている街は、恵比寿と広尾ではないだろうか。すれ違う女性の多くがおしゃれで、ついふり返ってしまう。



 実は、青山や恵比寿のパーティーを選んだことには理由があった。40代で参加していたときにも感じたことだが、パーティー参加者には街によって明確な傾向がある。



 ビジネス街の会場だと、男女とも企業に勤めている参加者が多い。東京ならば、丸の内周辺の八重洲や銀座や新橋の会場には会社員が集まりがちだ。安定した仕事に就いている人は、自分と同じように収入の安定した仕事に就いている人を求める。価値観が近いからだ。こうした会場で、フリーランスの記者という職種はハンディが大きい。



 一方、青山や恵比寿には専門職が多くいる。美容系、ファッション系、メディアなどだ。フリーランスの記者でも偏見を持たれない。オープンに接してもらえる。



 丸の内や八重洲や新橋のパーティーと、青山や恵比寿のパーティーでは、参加者の服装やヘアスタイルも明らかに違う。男性参加者の場合、前者はカチッとしたスーツ姿、週末は安心や安定を感じさせる〝お父さん〟のような服装が多い。後者は、平日も週末もダメージの入ったデニムだったり、シャツの袖のボタンをはずして少しまくったり、やや崩した服装が多い。

自分はどちらのエリアで受け入れられるか、よく考えて、アドバンテージを意識して参加したほうがいい。



 僕が参加したパーティーは、JR山手線や東京メトロ日比谷線の恵比寿駅の近くだった。主催は結婚相談所だが、会員でなくても参加できる。



 会場は清潔なビルの2階。エレベーターを降りると受付があり、美しい女性スタッフが迎えてくれた。スタッフが美しいと、そちらを意識してしまい、婚活がおろそかにならないだろうか。そんなことを思いながら受付をすませた。



 進行は青山のパーティーと同じだった。参加者は男女とも7人で、計14人。男女横並びで5、6分会話をして、スタッフの合図で男性参加者は次の女性のもとへ移動する。



 このパーティーの特徴は、ひと組ずつ個室で分けられていること。婚活パーティーではあるが、パーティー形式ではない。

各ブースは白いパーティションで3方向を囲われている。ほかのペアの声がかすかに聞こえるが、姿は見えないので、会話に集中できる。参加者のプロフィール確認や気に入った相手のセレクト、連絡先の交換などの作業は、参加者全員に1つずつ渡されるタブレットで行う。この10年間で、パーティーはソフトもハードも進化した。



 ここで出会った3人の女性とは、パーティー後に食事をすることに成功している。いや、成功と言っていいのか……。とにかくデートにはこぎつけた。





■元女優と出会う



 婚活パーティーの会場でスタッフにアテンドされた個室には、すでに女性がいた。顔がとても小さい。アイドル歌手のような容姿だ。明らかに人に見られる職種だろう。



「こんにちは。

よろしくお願いします」



 努めて明るくあいさつした。



「こちらこそ」



 彼女はにっこりと微笑んでくれた。発声が明瞭だ。完璧なナチュラルメイク。細身にモスグリーンのスーツ。こういう色は常に身なりに気を遣っている女性でないと似合わない。ショートヘアが知的なイメージを演出している。



 スタッフの合図で会話が始まった。



「マイです」



 隣の女性は名字でなく、名前で自己紹介をした。マイさんは40歳の契約社員で、職場は外資系の金融企業の総合受付。イベント会社にも登録していて、1か月に2、3回、週末に司会やナレーションの仕事もしているという。20代のころは劇団に所属していて、小さな役ながら、NHKの大河ドラマにも出演していたらしい。



 次の40歳の華道の先生ユキコさんは、職業には似つかわしくない服装で参加していた。黒のスーツの下の白いTシャツの襟ぐりは大きく開き、胸の谷間がくっきりと見えていた。ひたすら明るい。人懐こい性格なのだろう。初対面なのに、ボディタッチも交えて、終始笑顔で話し続ける。



 ほかには、保育園の先生、看護師、日系の航空会社のキャビンアテンダント、あと2人は会社員だった。婚活パーティーには、保育園や幼稚園の先生、看護師の女性がよく参加している。女性が多い職場で、出会いに恵まれないのだろう。



 恵比寿だからなのか、運がよかったのか、マイさん、ユキコさん、そして大手電気機器メーカーの秘書室の女性から電話番号やLINEのIDを教えてもらうことができた。







■社内不倫生活を逃れるための婚活



 パーティーの後はマイさんと食事をした。会場から徒歩圏のニューヨークテイストのカフェレストランだ。



「マイちゃんさあ、プロフィールには婚歴なしって書いたけど、ほんとうは2回結婚してるんだ」



 肉の盛り合わせを頬張りながら打ち明けられた。

一人称は〝私〟ではなく〝マイちゃん〟。パーティーのときとはまったく違う口調だ。こちらが素なのだろう。



 バツイチは気にならない。人と人には相性があり、人生に失敗はつきものだ。そもそも自分もバツイチだ。しかし、バツニはちょっと警戒する。パートナーとの相性ではない何か問題があるのかもしれない。1度目の失敗で学習していない可能性もある。



 マイさんは20代のころに所属していた劇団内の恋愛で心を病み、アメリカ西海岸へ渡り、そこで出会った日本人男性と結婚。しかし、1年で別れた。その2年後に帰国し、勤めた会社で社内恋愛をして結婚。また1年で別れた。離婚の理由は、本人によると、2度とも相手の束縛がきつかったからだという。妻がきれいだと、夫は不安で束縛したくなるのかもしれない。



「今、付き合っている人もいるんだ、一応」



 そんなことも打ち明けられた。



 あなたと違って私には交際相手はいると明言して、対等ではないことを主張しているのかもしれない。マウントポジションを確保したいのだ。



「じゃあ、なんで婚活パーティーに参加したの?」



 素朴な疑問を投じる。



「今の彼とは別れたいの」



 交際している相手は、自分が受付をしている会社の40代の役員だという。2年前に付き合い始めた。マイさんは本気の恋愛だった。



 デートは1週間に1度のペース。終業後、彼女は会社の近くにあるチェーン系ビジネスホテルにチェックインする。部屋で待っていると彼が現れて、2時間ほど愛をむさぼる。忙しい彼は会社に戻り、彼女はホテル内の大風呂を楽しんで帰宅する。



 ところが半年前、彼がいつの間にか結婚していたことを知った。相手は同じ会社の20代の社員だという。女性のお腹にはすでに子どももいた。ふつうの恋愛だと思っていたら、知らないうちに愛人に降格になっていたのだ。半年前からLINEの頻度が減り、その後受付の同僚から結婚したことを聞いたそうだ。本人に確認したら、あっさりと結婚を認め、「気にするな」と言われた。



 週に1度2時間の平日デート、食事はなし、セックスのみ、リーズナブルなビジネスホテル、週末デートはなし……。不自然なことはいくつもあったはずだ。



「怪しいとは思わなかったの?」



 ごく一般的な質問だ。



「彼が忙しいからだと思ってた」



 その後も週に1度の交際は続いているという。







■既婚者になった彼といまだに会っている理由



 彼から毎日LINEで届くという写真を見せてもらった。スマホの画面で、夏でもないのに日焼けした上半身裸のマッチョな男が大胸筋を強調させ、ボディビルダーのようなポーズで写っている。



「今日のオレ」



 写真とともにコメントされていた。それ以外、ご機嫌うかがいや近況報告のような文はない。彼は自分のことが大好きなのだろう。



 彼女がスマホをスクロールすると、前日も前々日も同じアングルで同じポーズの写真が届いていた。やはり「今日のオレ」とある。



「今日の〝今日のオレ〟も、昨日の〝今日のオレ〟も一昨日も同じに見えるけど」



「彼によると胸の筋肉の張りが微妙に違うんだって」



「マイさん、わかるの?」



「わかりませーん」



〝今日のオレ〟はマイさんだけでなく、複数の女性に送信されていたのかもしれない。



 既婚者になった彼といまだに会っている理由は、ベッドでの相性がいいこと、一緒にいるときは優しいこと、そして、別れたら、会わなくなった時間を埋めるものがほかにはないからだという。



「マイちゃん、今の生活を変えるために、婚活パーティーに参加してるんだ。でも、まだ彼よりも魅力のある男の人には会えていないの」



夜ごと送られるセミヌード写真



 マイさんの結婚や恋愛がうまくいかない理由はすぐにわかった。翌日から毎夜、彼女からLINEでメッセージがきた。



「今、何してまちゅかあ?」



 なぜか赤ちゃん言葉だ。用件はない。こちらは原稿に集中しているので、気づかないことも、レスポンスできないこともある。すると、電話がかかってくる。



「なんでマイちゃんのLINEに返事をくれないわけ?」



 責める口調だ。



 既読スルーしたら、激怒の電話がくる。



「どういうことなの!」



 あとでレスポンスするつもりだった、などと言い訳をすると、怒りは増幅する。



「この麗しいマイちゃんが、ひと回り以上年上のオジサンにLINEしてあげてるのに! あり得ない!」



 しかし、マイさんとは交際しているわけではないし、手もつないでいない。バツニの理由について、彼女は夫の束縛がきつかったと言ったが、相手が彼女の「今、何してまちゅかあ?」攻撃に耐えられなかったのではないか。



 やがて彼女は自分の写真を送ってくるようになった。微妙なヌードだ。裸だということだけがわかる。ただし、肝心なところを隠していたり、バスルームの湯けむりでくもった鏡に映ったぼやけた全裸だったり。写真の後、すぐに彼女は電話をかけてくる。



「興奮した?」



「なんで裸の写真をくれるの?」



「べちゅにい~。もっと見えるのがほしい?」



「ぜひ」



「どうしようかなあ……。送ろうかなあ……」



「お願いします」



「やっぱりやめておきまちゅ」



 そんな不毛なやり取りを重ねた。





(第3回へ つづく)





※石神賢介著『57歳で婚活したらすごかった』(新潮新書)から本文一部抜粋して構成



編集部おすすめ