10月1日に緊急事態宣言も解除され、少しずつ日常を取り戻している。新規感染者数も下がり続け、10月4日には87人と11ヶ月ぶりの二桁を記録しており、ワクチン接種も全国民の6割が2回終えており、収束に向かっているように見える。



 しかし、専門家の間では感染者数が減った原因が明らかになっていないので慎重を期す声もまだ大きい。大阪大学の宮坂昌之名誉教授は自身のFacebookで「イスラエルは6月に規制を解除したら再びクラスターが発生し、2回ワクチン接種を終えた人もブレイクスルー感染した」といい、「ワクチン接種をしたからといって鉄の鎧を着たようにはならず、厚手のレインコートあるいはトレンチコートを着たぐらいと思う方が良い。豪雨ならば濡れてしまう」と例え、ワクチン接種をしても社会の中の感染者の数を増やさないことが大切だと説いている。



 一方で、半自粛を訴えてきた論者は緊急事態宣言が解除されたことを理由に自分たちの主張が正しかったかのような論調を繰り広げている。京都大学大学院藤井聡教授は自らのFacebookで「「コロナゼロ」戦略断念 デルタ株封じ込めできず」という見出しの記事をシェアし、





《ゼロコロナ戦略を徹底採用していたニュージーランドの首相がゼロコロナ断念を宣言. コロナ徹底封じ込めの激烈主張者でも納得せざるを得ない貴重な経験ではないかと思います. 一部の方々の主張通り新型コロナとの共存戦略以外に合理的選択肢は無いのだろうと改めて感じます.》





と主張した。その藤井教授と共著「ゼロコロナという病」を出している元厚生労働省医療技官の木村盛世氏もその記事をリツイート。その前には、





《いずれはまた増えてくる可能性は高いです。いつまで、新しい風邪ウイルスの新規感染者を“速報“として報道するのでしょうか? PCR検査して隔離っていつまで必要なんですか???》





 この二人と漫画家の小林よしのり氏がコロナ禍の最初から訴えてきたのが「スウェーデン方式」の採用である。スウェーデン方式とはロックダウンや厳しい制限をしないで集団免疫を獲得してコロナを防ぐという対策である。





 つまり日本でいえば緊急事態宣言のような飲食店の営業や酒類の提供を規制したり、大勢が集まる集会を人数制限したりせずにできるだけ普段の生活に近い状態で緩やかな自粛で経済の損失をできるだけ最小限度に留め、国民の自主性を尊重し、飲食店の閉店やマスクの義務化をしなかった。



 そしてコロナ対策を病床数確保のため、国は高齢の感染者を集中治療室に入れないよう通達を出した。ただし、医療現場で『命の選別』をしたと批判をされている。



 これは藤井聡教授が宮沢孝幸京都大学准教授らと共に連名で発表した「国民被害の最小化を企図した新型コロナウイルス対策における基本方針の提案」(URL:chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/viewer.html?pdfurl=http%3A%2F%2Ftrans.kuciv.kyoto-u.ac.jp%2Fresilience%2Fdocuments%2Fcoronaproposal_policyandpractice.pdf&clen=941837&chunk=true)と非常によく似ている。



 提言書の中には高齢者を「コロナ弱者」と呼び、隔離していくことが掲載されている。しかも「外出時は「目鼻口を触らない」「換気を徹底」「食事中は飛沫に徹底注意(黙る/距離を取るか/発話時にハンカチ等で口を覆う等)」の3点だけに注意することで、感染する/させるリスクを⼤幅に縮減できる」といい、この3点さえ守っていたら「外出はもとより、各種イベントも、宴会、パーティ等も実施可能」と断言している。



 藤井教授がスウェーデン方式に大きく影響されているのは間違いない。しかし、スウェーデンが実際にどうなったかというと、国王が政府のコロナ対策を「失敗」と評するなど迷走。死亡率は人口100万人当たり約1200人と世界有数で、日本の約20倍と明らかな失敗に終わった。



 それが2020年のスウェーデンであったが、今年に入って対策が大きく変わってきた。今では日本同様にロックダウンや厳しい制限はしていない。では、どういった規制をしたのか? それは以下に示しておこう。





・できる限りの在宅勤務



・医療従事者の駐車場代無料化



・バスを使わず自転車



・商店の入場制限



・買い物は1人で



・症状があれば自宅待機



・1日症状があればPCRテスト 自宅へデリバリー、ドライブスルーなど症状のある人は外出禁止





 しかしマスクの着用は義務化していない。その理由は感染拡大防止に役立たないというよりも、『マスクをすることで慢心し、ソーシャルディスタンスを取らなくなっては本末転倒だ。マスク着用によりどの程度の感染が防げるかは明らかではない。

マスクを正しく使うために1日に数回の交換が必要で、貧困層には大きな出費であり不平等が発生する』とスウェーデンの公衆衛生庁は説明している。しかし、2020年12月にはマスクの着用を推奨するに至った。



 上記以外にも3月1日からアルコールを提供しない飲食店とカフェは午後8時30分に閉店、小売店とジムでは店内の人数を制限。ショッピングモール内にある飲食店はテイクアウトのみの営業となり、アマチュアスポーツは休止された。





 さらに隣国のノルウェーとデンマークの国境を封鎖し、政府に飲食店や小売店、公共交通機関を閉鎖する権限を与える法律を施行。オリンピック、パラリンピックを開くために入国審査を甘くした日本とは対照的な行動を取ったのである。



 その理由はデルタ株の蔓延である。ストックホルムでは、検査を行ったサンプルの27%が変異株と確認されていて、感染者の急増だけでなく、公衆衛生の専門家が同国の医療システムが変異株に直面していると指摘していることが規制強化の理由にもなっていた。



 しかもロベーン首相は、2月24日に「さらに状況が悪化した場合、政府は一部地域でロックダウンを行う準備を整えているが、その措置が必要にならないことを願っている」と語り、日本でも一部で検討されているロックダウンについても言及するほど追い詰められた。



 しかしそうした規制強化をしたこととワクチン接種が進んだお陰でスウェーデンの新規感染者数はピーク時の9%にまで減っている。



 ロベーン首相は各種の規制緩和を6月1日から開始すると発表。飲食店の営業時間は午後8時30分から午後10時30分へ、酒類提供時間は午後8時から午後10時へ、それぞれ延長した。

さらに8人に制限している集会人数の上限は、着席可能な場合は屋内で50人まで、屋外で500人までに引き上げ、屋外では着席できない場合も100人までに引き上げている。



 新型コロナワクチン接種もオックスフォード大学などが運営する「Our World in Data」によると、5月16日時点のスウェーデンの新型コロナワクチンの1回目接種率(人口比)は31.6%で、EU加盟27カ国平均(31.5%)とほぼ同じ数値で推移しており、現在は2回のワクチン接種が完了した国民が64.13%と高くなっている。



 こうした規制強化によって一時期の悲惨な状態から抜け出したスウェーデンだが、最初のスウェーデン方式を推奨した言論人は、規制強化したことについてだんまりを決め込んでいる。



 藤井聡京都大学大学准教授はTwitter





《「スウェーデン政府は集団免疫を目指して感染拡大を推奨したから人がバタバタと死んでしまい、しかも経済はボロボロで大失敗だ」というイメージを口にするメディア・言論人は多いですが実態はかなり違います》





 こう明言をし、自身がパーソナリティーを務めるラジオでも規制強化したことには触れず、感染者数が減ったことだけを伝えた。小林よしのり氏も「詳しすぎるスウェーデン情報:集団免疫は失敗ではありません」小林よしのりライジング Vol.384で、スウェーデンの死者数が急増したことに対して「「そりゃ、寒けりゃ熱出す人は増えるだろう」としか言いようのないデータは、世界中にいっぱいあって、なんだか呆れてしまう」と反論はするものの2020年のスウェーデン方式が失敗したのではないと断言。しかも9月27日に「NEWSポストセブン」で公開された、小林氏、東浩紀氏、三浦瑠麗氏の鼎談でこんなとんでもない発言をしている。





「スウェーデンは、国民の行動を縛る規制や、子供から教育機会を奪う休校は憲法違反だからしないといって、実は集団免疫を目指そうとしてきた。人口当たりの死者数で比較したら、ロックダウンなど厳しい規制をしたイタリアやイギリス、アメリカ、フランスなどより少ないんです」





 この小林氏の発言は半分ウソである。先述したようにスウェーデンは当初、規制をできるだけしないやり方できたが、明らかに失敗をしてしまい方針を転換。ロックダウンまでいかないものの可能な限り厳しい制限をして乗り切ってきたのである。これは小林氏が情報をアップデートさせていないのか誤誘導をしているのかどちらかだとしかいえない。



 もし誤認誘導を狙っているのならば悪質である。



 そして木村盛世氏はスウェーデン方式には一切触れる事なく尾身会長や西浦教授を「ゼロコロナという病に取り付かれている」と藤井教授と一緒に非難をしている。



 ところが尾身会長は「繰り返しますが、感染者数をゼロにする、ということは無理です。感染者を完全にゼロにする、ということはリアリティに反する。そして、リアリティに基づかない判断は必ず破綻します」 と発言しており、「ゼロコロナ」とやらを明確に否定している。ところが藤井教授は「「誰もゼロコロナなんて言ってない」という主張がありますが仮にゼロコロナと言って無くても言動がゼロコロナの方はホント多数」と尾身会長の発言を無視して非難を続けている。



 その前に「コロナのワクチンなんていらない」とツイッターで発言したのにワクチン接種を申し込んだり、「ゼロコロナ」批判をしながら自分の提言では「感染リスクをゼロ!」と強調したりするその場限りの発言を反省するほうが先だとだけ言っておこう。





文:篁五郎

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