◆重症化率は低い、だが・・・
新型コロナウイルスの変異株「オミクロン」は、感染力が強いかわりに、重症化率は低いとされています。
この場合の「重症化」とは、呼吸器の疾患、わけても肺炎が悪化し、生命に関わりかねない事態になるという意味。
今回のパンデミックによる死者は、統計サイト「Worldometer」によれば、2022年1月13日の時点で約554万人。
これは公式に集計できた人数であり、実際の死者数は2倍から3倍に達すると見積もられています。
ゆえに重症化率が低いのは、それ自体としては朗報。
そのためか、一部では「オミクロン、恐るるに足らず」という楽観論が台頭するにいたりました。
もっともな発想です。
ただし、以下の条件が満たされていれば。
(1)医療の逼迫、さらには医療崩壊といった事態は、重症者の増加以外の原因では起きないと考えてよい。
(2)新型コロナウイルス感染症が、呼吸器以外の臓器に及ぼしうる損傷は無視してよい。
(3)感染の拡大が社会経済活動に及ぼす影響は考慮しなくてよい。
前回記事「オミクロンのもとで経済を回す方法」で述べたとおり、上記の条件はすべて現実には成立しません。
わけても重要なのが、(3)が成立しないこと。
軽症であろうと、症状によっては社会経済活動に参加できる状態ではなくなりますし、そうでなくとも感染拡大のリスクを考えたら、一定期間の隔離は避けがたい。
無症状の感染者、および濃厚接触者についても同様です。
肺炎が重症になる者や、肺炎で亡くなる者が少なければそれでいいという「肺炎(防止)至上主義」とも呼ぶべき立場を取るのならともかく、社会経済活動を維持することにも気を配るとなると、オミクロンを軽視することはできない。
ついでにこれを医療現場にあてはめると、どうなるか。
そうです。
今や連日、ニュースで報じられるにいたった事態が引き起こされるのです。
◆逼迫の経路は二つある
医療の逼迫とは、医療にたいする需要に比べ、供給が追いつかなくなること。
経済で言えば物価が上がる状態にあたります。
よって新型コロナウイルス感染症による医療の逼迫は、次の二つの条件のどちらかが満たされれば引き起こされる。
(A)感染の拡大により、医療を必要とする感染者、とくに重症者をはじめとする入院患者が増える(=需要の増加)。
(B)活動できる医療従事者の数が減る(=供給の減少)。
オミクロンは重症化率が低い。
つまり(A)の経路による医療逼迫は、比較的起こりにくいことになります。
いや、感染者の数があまりに急速に増えたら最後、起きてしまうかも知れませんが。
問題は(B)。
沖縄の状況はこうです。
【沖縄 医療従事者の欠勤が最多628人 濃厚接触の隔離期間短縮も 自宅療養6000人迫る
新型コロナウイルスに感染したり、濃厚接触者になったりして欠勤している県内の医療従事者の数は(1月)12日、前日比125人増の628人となり過去最多を更新した。医療提供体制の崩壊を避けるため、県は15日にも専門家会議を開き、医療に従事する濃厚接触者の隔離期間短縮などを議論する】
欠勤者数は翌13日には989人に達し、コロナ専用病床を減らさねばならない事態に発展します。
同県の新型コロナ対策本部医療コーディネーター・佐々木秀章医師いわく。
【一病院で30人くらいの方が働けない状態。この状態がさらに悪化すればコロナのみならず救急医療も瀬戸際になって崩壊になってしまうのではないか】
(※)テレ朝news「沖縄『綱渡りの状態』」、2022年1月12日。つづく小池・吉村両知事の発言についても同様。
沖縄に限った話ではありません。
ついでに、医療に限った話でもない。
東京都の小池百合子知事いわく。
【(感染者・濃厚接触者が急速に増えると)医療現場だけではなく、流通・運輸など社会の基盤そのものが大きく揺らぐ】
大阪府の吉村洋文知事いわく。
【エッセンシャルワーカーのなかで(感染者・濃厚接触者が)増えてくると、医療機関を含め、この社会のインフラに大きな支障が生じる可能性を非常に危惧している】
小池知事は1月12日、経済同友会代表幹事、東京商工会議所会頭、経団連会長とあいついで会談、感染拡大によって1割あまりの従業員が欠勤しても事業が継続できるようなプランの策定・点検を要望。
翌13日に開かれた都のモニタリング会議では、専門家からこんな指摘がなされています。
【すべての都民が、感染者や濃厚接触者となるリスクが高まり、社会活動の停止を余儀なくされる可能性がある】
重症化率の低さなど、もはや問題ではなくなっている!
新刊『感染の令和 または あらかじめ失われた日本へ』で詳細に論じたように、疫病との戦いは、本質的に負け戦なのです。
◆合理的選択、または苦肉の策
このような状況を受けて持ち上がったのが、濃厚接触者をはじめとする隔離期間の短縮。
従来の期間は以下の通り。
(1)濃厚接触者・・・接触日から14日間
(2)無症状者・・・検体採取日から10日間
(3)発症者・・・発症日から10日間、かつ症状軽快後3日間
しかるにオミクロンの場合、潜伏期間と症状の出ている期間が、ともに短い傾向がある。
沖縄県の新型コロナ対策本部医療コーディネーター・佐々木秀章いわく。
【それに即した(隔離)期間短縮を国の方でも考えてもらえれば。(今のままでは)医療、介護が共倒れみたいな状況になりかねない】(最初のカッコは原文)
後藤茂之厚労相は12日、医療従事者については、毎日検査を行うことで濃厚接触者であっても勤務できるという見解を表明しましたが、それでも足りないようなのです。
だいたい、医療さえ逼迫しなければよいわけではありません。
全国知事会も12日、濃厚接触者の隔離期間短縮を政府に緊急提言。
岸田総理も13日、次のように述べました。
【濃厚接触者のこの隔離期間等についても、必要に応じて対応していくことも考え、柔軟な対応を引き続き検討していきたい】
こうして14日、隔離期間を10日に短縮する方針が打ち出されます。
エッセンシャルワーカーの場合、6日目に検査を行って陰性なら、自治体判断で隔離を解除できるとのこと。
隔離によって活動できなくなる人が急速に増えれば、医療も立ちゆかないし、経済も回らない。
佐々木コーディネーターの表現にならえば、感染対策と経済対策の共倒れです。
そのかぎりにおいて、隔離期間短縮は合理的な選択。
ただしオミクロンについて、潜伏期間がつねに10日以内かどうかは分かりません。
短縮の結果、感染拡大が促進されるリスクも存在します。
わけてもエッセンシャルワーカーが気になるところ。
のみならず。
医療や社会経済活動を維持するため、濃厚接触者の隔離期間を短縮するという発想は、「誰が濃厚接触者にあたるのか(保健所が)把握できている」ことが大前提です。
ところが那覇市の現実はかくのごとし。
【濃厚接触者については、新規陽性者(=感染者)ご自身でどなたがこれに該当するかをご判断いただき、該当する方々には外出自粛などの感染予防行動を迅速にとっていただくよう(、)新規陽性者ご自身からお伝えしていただきます】
すでに大前提が崩れているのですよ!
那覇市が濃厚接触者を追跡できなくなったのは1月9日でしたが、京都府、および京都市も、ほどなくして同じ状態に追い込まれます。
それどころか「誰が新規陽性者か」という点すら、感染の急拡大が続けば把握できなくなってくる恐れが強い。
新型コロナに感染しているかどうかは検査によって判定しますので、検査能力の限界を超えて陽性者を見つけることはできないのです。
厚労省によると、2022年1月12日の時点における検査能力は一日に38万5000件あまり。
ただしこれは、38万5000人までなら大丈夫ということを意味しません。
検査陽性率(1日あたりの検査数にたいする新規陽性者の比率)が高くなってゆけばゆくほど、検査不足で陽性者を見落としているリスクが高まります。
WHOの推奨する陽性率は5%未満。
すると新規陽性者が1日あたり1万9000人を超えたあたりで、見落としが始まる計算に。
2022年1月15日、全国の新規感染者は2万5000人を超えます。
一週間後の22日には5万人を突破。
抗原検査についても、検査キット不足が伝えられるにいたりました。
見つけられない感染者について、濃厚接触者を把握するなど無理に決まっている。
ついでに最近は、感染が判明すると面倒だからとばかり、発熱などの症状が出ていてもPCR検査を拒否する人もいるとのこと。
隔離期間の短縮も、こうなると合理的選択というより、追い込まれたあげくの苦肉の策に見えてくるではありませんか。
恐るるに足らなかったはずのオミクロンで、ここまで深刻な事態が生じるとなると、コロナにたいするわれわれの認識を、あらためて問い直さねばなりません。
感染者の増加を抑え込まないことには、何も始まらないという基本に立ち戻るのです。
ここで注目したいのが岩手県。
岩手は2020年、全都道府県で最も長く感染者ゼロを維持したうえ、今も1週間の人口10万人あたり感染者数が最も少ない県の一つ。
1月23日現在では、ずばり最少です。
というわけで、同県の達増拓也知事のツイートを紹介しましょう。
ぜひクリックしてご覧下さい。
文:佐藤健志
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