先の通常国会で成立したAV出演被害防止・救済法、いわゆる「AV新法」が施行されて1ヶ月月が過ぎた。この法律はAV被害者救済のために出演契約締結から1ヶ月間の撮影禁止や、撮影終了から4ヶ月以内の公表禁止といったルールが新たに定められたが、法律のせいで現場で実際に活動する女優たちからは「働きづらい」「仕事が減ってしまった」といった声が上がっており、問題となっている。
「今回の『新法』の立法過程では、被害者でないAV⼥優の声は、聴いてもらう機会を得られないままとなりました。この点を反省し、当機構の活動として可能な範囲内で、今後に向けての改善を考えていきます」とAV人権倫理機構も述べているように、現場のことを考えないまま立法された弊害が出たと言える。
こうした現状を変えるために現役のAV女優が立ち上がった。世間にAV新法の問題点を知ってもらい、同法を改善するための署名運動に協力してもらうビラを作り、そのビラ配りをすることになった。参加したのは人気AV女優の天使もえさん、稲森美優さん、月島さくらさんの3人。8月4日に新橋でビラ配りをするとTwitterで告知された。
雨が降り始めた中、新橋SL広場へ集まったファンを前に挨拶をした後、3人はビラ配りをスタート。
当初はそんなに雨も強くなく、ファンとも交流をしながらビラを配っていた。一般社団法人日本プロダクション協会もビラ配りをサポート。業界の危機感が伝わる光景だ。
女優さん達が取材に来て欲しいとツイートしていたので当サイトも3人に直撃することに。雨でずぶ濡れになる彼女たちに今回自ら立ち上がった理由を聞いてみた。

◆月島さくらさん
Q.今日のビラ配りをやろうと思った理由をお聞かせください。
「このままだとたくさんの人の仕事がなくなってしまう。そうなるとこの業界(AV業界)が立ちゆかなくなってしまう。それなら自分が動くしかないと思って立ち上がりました。立ち上がれる女優は限られているから私がやろうと思いました」
Q.実際に法律が施行されて困っていることはありますか?
「(法律が施行された)7月8月は仕事がゼロになってしまっていて、向こう二ヶ月間収入がない状態です。そういう女優さんが私の他にもたくさんいて、みんな困っています。
仕事が決まっている女優さんでも、天使さんもそうなんですけど、専属なので月に1本しか仕事がないんです。その一回の撮影で男優さんが新型コロナウイルスの濃厚接触者になってしまい延期です。だって(現行のままだと)代役が立てられないからです。
そうなると、そこからまた1ヶ月待たないといけない状況です。でも、1ヶ月後も元気かどうかわからない。いつ撮影できるんだろうという話にもなってきます。
この間ようやく契約ができたのですけど、契約書の量がもの凄く増えました。20枚近くあって、読んだりサインしたりするのに時間がかかりました。普通の仕事ならそんなに契約書の枚数はないと思いますし、おかしいと思います。地方に住んでいる子は東京まで出てきて説明を受けないといけない。そのための交通費や宿泊費もかかります。都内在住でも時間がかかるのは同じです。そういった作業がすごく負担になっています」

◆天使もえさん
Q.今日、ビラ配りに参加した理由は?
「自分たちの業界のことは自分たちで声を上げて、変えていくきっかけも自分たちでやっていかないといけないと思って参加しました。今回は特にメーカーさんはもちろんですけど、女優も関わりが深い内容になっていて、守ってもらうのは嬉しいけど上げられる声は上げて、伝えられる声は伝えていきたいと思ってここへ来ました」
Q.適法AVと同人AVの区別が付いていないような法律についてどうお考えですか?
「私たちはAV女優として活動していて、AV女優という肩書きで仕事をしています。それは適法AVの中の女優だけだと思っています。同人AVや違法な動画の女性はAV女優と名乗っていないと思います。

◆稲森美優さん
Q.今回ビラ配りに参加された理由をお聞かせください。
「AV新法という新しい法律はいいところもあるけど、現役のAV女優には厳しい法律になっています。それをみんなで少しずつ改正していきたいという思いで参加しました」
Q.AV新法の施行によって現場で困っていることはありますか?
「撮影の現場がすごく少なくなってしまいました。他の方も同じです。後は契約書の枚数がめちゃくちゃ増えてしまいました。このままだと生活できるのか凄く不安です」
ファンも含めて人が多く、ビラ配りするのに邪魔になるのでは?と心配になるくらい大勢いたのは誤算だったかもしれない。それでも3人のセクシー女優はマスク越しでも伝わる笑顔で通行人へビラを渡していた。

同じ場所では日本維新の会が街頭演説をしており呉越同舟といった形に。月島さくらさんは、同党の足立康史衆議院議員にAV新法について陳情していたこともあり、音喜多政調会長にビラを手渡す。

ビラを受け取った音喜多政調会長は「AV新法の改善をしたい」と聴衆に向かって話し始め、政治が動いてくれるかもしれないという希望が生まれた。音喜多衆議院議員は同日に更新したブログにも当日の様子を記載し、
《当事者へのヒアリングを進めていくと、適正AV事業者への規制・負担が過剰になる一方で、もともと遵法意識が低い闇事業者たちには効力がない=被害者救済にならない法案効果になっている可能性が極めて高いようです》
現状を認識した上で
《具体的な改正案の策定はこれからですが、実態調査を行い当事者の声をよく聞きながら、次期国会で具体的なアクションにつなげていけるように善処していきます》
次期臨時国会で対応する可能性を示唆した。
維新の会との共同のような形になったビラ配りだが、段々と雨が強くなり、歩く人も足も速くなっていく。

しかし、傘をさしても足元どころか身体もずぶ濡れになるほど雨が降ってきてしまう。チラシが塗れて紙がふやけるほどにまってなってしまったためこの日のビラ配りは終了となった。
現在、「女優・男優・スタッフが働きやすい『AV新法』にしてください」という署名活動も実施中で、発起人・賛同者として多くの女優や男優、関係者が名を連ねており、8月5日現在、14,270 人が賛同している。現在も署名を受け付けている。
ビラ配りが終わった3人のAV女優さんはTwitterを更新し、参加してくれた人へお礼の言葉を残した。
筆者は、バッシングされるかもしれないのに立ち上がった彼女たちの応援をしたい。現場を知らずに成立したAV出演被害防止・救済法が改正され、働いている人が困ることなく働けるようになってほしいと願うばかりだ。
文:篁五郎