「ヤバいやつがもっとヤバいやつに訊く」・・・本邦初のカルト人生相談シリーズ。今回は、「39歳子供部屋おじさん」無職の独身男性 A氏。

彼はいったいなぜ「たらい回し人生相談」にやってきたのか? いや連れてこられたのか? 相談部屋の主人は「大司教」と呼ばれる謎の危険人物。ある筋では名の知れた博覧強記の異常天才である。A氏との緊迫感漂う人生相談の一部始終を公開。前編につづき後編である。





■冒頭:

 39歳子供部屋おじさんであるA氏、は査問会と称して呼び出され激詰めされる。



 前編では彼が異世界転生こと海外での就職チャレンジに失敗しバックレた経緯を、彼の査問会を追うという形式にて紹介した。大まかな経緯は前編で明らかになったとはいえ、まだ具体的な金銭事情は明らかになっていない。え? 人生相談じゃなかったのかって? 大丈夫です。



 彼の抱える問題の本質とは何だろうか?



 これから彼はどうするのか?



 



■生活力が真の問題なのでは?:

大司教:そんなわけで、査問会メンバーからすると、お金をあげて日本から送り出したら翌月シュッと戻ってきたって認識なんですけど。まあ過ぎたことはいいとして、Aさん、異世界の食べ物がまずいまずいってしきりに文句を言ってたんですけど、オイル王国は食べ物はけっこういいはずなんですよね。それで確認してみたら、ただ素で茹でたパスタを食ってたとかみたいなんだけど。



K氏:何か足んねぇよなぁ?



大司教:ソースもなしでね?



A氏:まあそうですね。



 



 味付けもなしに茹でたパスタを食っていたというA氏、そりゃイヤになるのも無理はない。初めて親元を離れた学生の苦労を39歳で再履修する子供部屋おじさん。



 



大司教:それで今回の問題の核心は、けっきょくAさんの生活力の問題なんじゃないのって。外国で働くとか以前に一人暮らしができないんじゃないのって。だから、本来だったらまず家事とかを我々が教えるべきだったよね。部屋住みじゃないけど。今後の課題ですね。



Y氏:本人的には生活力についてはどうだったの?



A氏:食事については下手だったかなと。お金もなかったし。



大司教:ほかにもいろいろ生活上の不満が多かったみたいですが。



 



◆A氏が異世界に感じていた不満
 ・坂道が多い
 ・コンビニがない
 ・喫煙者が多い
 ・運転マナーが悪い
 ・ちゃんと並ばない
 ・なんか感じが悪い
 ・物乞いが多い
 ・水回りがしょぼい
 ・エアコンがない
 ・飯がまずい



39歳子供部屋おじさん、異世界転生できませんでした(後編)【...の画像はこちら >>



大司教:とはいえ日本の昭和ぐらいの感覚というか、贅沢を言わなきゃってところのはずですがね。お金がなかったっていうけど。

いったいいくらもって行ったの?



 



 ——とうとう話題は具体的な金銭に移る。



 実は、これが今回の査問会の主題のひとつであった。というのも、A氏は今回の異世界転生のための資金を浪費してしまったのではないか、という疑惑がかけられていたのだ。かねてから彼は風俗遊びも公言していたので、とくにその方面での浪費の疑惑がかけられていた。



 一同の疑惑の表情。果たして真実は……。



  



■お金なさすぎおじさん:

大司教:いくら持ってオイル王国に行ったの?



A氏:ええと。



K氏:あくしろよ。



A氏:うーん。



K氏:それ普通忘れないよね。なんだよお前の予算ガバガバじゃねえかよ。



大司教:浪費したんじゃないの? 女を買う(注8)とかそういう話を聞いてるんだけど。



A氏:いや。浪費はしてないです。



筆者:本当に買春してないんですか?(大事なことなので再質問)



A氏:してないです。



大司教:具体的にいくらあったのか言ってください。わかる範囲で。



A氏:5,6万かな。



大司教:それって、Aさんの全財産がってこと? それとも異世界用の予算ってこと?



A氏:全財産です。



大司教:お金大丈夫かって聞いたとき、大丈夫って言ったよね?



A氏:まあ計画性がなかったかもしれませんね。



大司教:えーと。つまり、もう一時帰国の時点で文無しだったわけね。



A氏:そうですね。



大司教:なんで言わなかったの?



A氏:気をつかってました。



M氏:気づかいというか、仕事をためて破綻するのに近いですね。



A氏:まあ……。



 



 一同、沈黙。



 A氏はお金について問われると、コジコジのように首をかしげて動きを止めてしまう。言いづらいことがあるというよりは、具体的な金銭管理がとても苦手なようだった。金額もすべて曖昧で、どんぶり勘定だ。



 A氏に対する疑惑の視線は、徐々に「マジかよ……」という表情に変わっていく。実際にA氏が使えたお金は、皆が想像していた額よりゼロがひとつ少ないという感じだった。疑惑が晴れたのはいいことだが、皆、晴れやかな顔とは程遠い。なんとも言えない別の問題がそこには横たわっていることに、なんとなく気がついていた。



 そう「他人の助けをうまく得られない中年男性」という問題である。



 



一同:……。



大司教:とりあえず小休憩にしますか。



 



 A氏が皆の飲み物を買ってくることになった。「おつりはもらっていいから」「でも……」「いいから」そんな会話とともに二千円を手渡される。買ってきた飲み物の中からK氏は当然のようにアイスティーを手に取る。



 休憩のあいだも、A氏は終始浮かない様子であった。これからどうするべきかわからないといった様子だ。半ば身内での出来事になるとはいえ、彼にとっては人生初めての「仕事での失敗」となる。周囲も「しかたねえな」という空気だ。ただし大司教以外。  





◆おまけエピソード、Aさんはこんな人(ⅰ):
・オイル王国滞在中のこと、子供が楽器を演奏しながら近づいてきたので、日本語で怒鳴りつけた。A氏いわく「金をもらうつもりならもっと高レベルなものを見せろ」とのこと。
・同上、レストランで座っているときに物乞いに声をかけられると毎回「福祉につながってくださーい」と日本語で返答していた。


・同上、混雑していたトラムで現地女性と揉めたさい、差別語を叫んで中指を立てていた。
・上記のような感じだったのでオイル王国ではほかの滞在日本人から嫌われまくっていた。



注8:異世界の風俗では、現地人のほかロシア人風俗などもあり、ロシア人は三倍とのこと。





■異世界生活の実態:

大司教:想像以上だったね。オイル王国で買春して浪費したって噂があって、その疑惑を確かめようってのはあったんだけど、フタを開けてみたらそっちの方がよかったね。(注9)



Y氏:そんなにカツカツ状態だったのを周囲はぜんぜん把握してなかった。もっと常識的な予算はあるって前提だったので、そんなにお金ないのはおかしいなって。そのせいで浪費って噂が出たんだと思う。



A氏:そんなにお金は使わないと聞いていたので。



大司教:現地に慣れていたら節約できるというのはあると思うけど、それは慣れてるからだし、現地の日本人だからといってあまり真に受けないほうがよかったですね。とはいえ、オイル王国では生活必需品には補助金が入っているので、日本では考えられないほど安いはずです。自炊してたらそんなに困らないと思うんだけど、具体的にどういう食生活してたの?



M氏:日本でも自炊はやらない?



A氏:やらないです。



大司教:できるの? 自炊で作れるものは?



A氏:うーん米とかは。たまごを。いりたまごとか。



大司教:ふだんの食事はお母さん?



A氏:お母さんです。



大司教:現地では何を?



A氏:たまごとか。肉とか。なんか。焼いて。食べてました。



大司教:……洗濯とかは。



A氏:まあやってました。週一ぐらい。



大司教:働いてたときの週のスケジュールとかは。



A氏:学校の仕事は週3です。週4休みで。



Y氏:給料は?



A氏:月9500ゴールドです。月35,000円ぐらいかな。



大司教:これで上位10パーセントとかの高給取りですね。まあ最初の給料もらう前にやめちゃったらしいけど。



Y氏:いやだったんでしょ。



A氏:そうですね。



K氏:まあ多少はね? 



Y氏:イヤならもっと早く言わないと。



大司教:まあ行きたくなかったのは知ってたんだけど「骨を埋めてこい」って行かせたわけ。



Y氏:行きたくないならちゃんと言わないと。



大司教:いや、もう行きたいとか行きたくないとかそういう問題では(その時点では)ないわけですよ。さっきも言った通りオイル王国はコネ社会なんです。人脈が重要なわけで、今回Aさんがバックレたせいで、紹介した人とか、現地の有力者とか日本人の学者とかのコネもあるんで。だから俺は「死体以外で帰ってくるな」って言いました。



K氏:まあ日本でできることないからね、しょうがないね。



筆者:最初はなんで日本語教師をやろうと?



A氏:興味があったからです。



大司教:これはすごいチャンスだったんですよ。仕事という意味ではなくてね。というのも2023年は、王位継承の関係や世界情勢もあって、オイル王国で何か起こる可能性ってすごく高いわけですよ。内乱が起こるかもしれない。それを最前線で見られるチャンスだったんだぞ。それも先生だから尊敬されてて死ぬ可能性が低い。特等席ですよ。(独特の価値観で失ったチャンスの価値を強調する大司教)



A氏:うーん。



Y氏:もう一回オイル王国行きのチャンスってあるのかな。



大司教:オイル王国がダメでもパキスタン、ラオス、アフガン(注10)があります。



Y氏:もう一度海外で一旗あげるか、日本でダメ人間やるかってことね。



大司教:男ならどっちだって話です。どうですか?



A氏:……。



Y氏:じゃあ。もうAさんの今後について考えていこうってことにしましょう。どうしようと思っているか話してみてください。



A氏:海外にはもう行きたくないですね。日本語講師という資格はあるので仕事にしようと思います。



Y氏:当てはあるの?



A氏:とくにないですけど人手不足の業界らしいので。



M氏:職歴なしでも?



A氏:いいらしいです。



Y氏:ならそれでいいね。 





39歳子供部屋おじさん、異世界転生できませんでした(後編)【たらい回し人生相談】
オイル王国にはもちろん武器屋もある。近接攻撃の手段には困らない。このナイフは攻撃力+7(物理)



◆おまけエピソード、Aさんはこんな人(ⅱ):
・某国際的な有名テーマパークに他の人と行きカヌーに乗ったが、漕ぐのがめんどくさいので拒否、他の人に漕がせ楽しむ。
・同上テーマパークにて、キャストのお姉さんから景品をもらう際「アラーアクバル!」と絶叫し、お姉さんを怯えさせた。
・同上のテーマパークにて、パーク創始者の悪口を大声で言って周囲からひんしゅくをかっていた。
・海外旅行に行った時に、当地で行った買春行為を周囲に自慢(複数件)する。そのせいで今回、渡航費の浪費を強く疑われることになった。



注9:最終的にA氏が女遊びをしていないと判断された理由は「そこまでの能力はない」というもの。それができるほど現地事情に詳くなれたとは思えないということで疑惑は晴れた。
注10:アフガンでの仕事については賞金稼ぎとのこと。



39歳子供部屋おじさん、異世界転生できませんでした(後編)【たらい回し人生相談】
異界へ流出する日本文化



 



 ■人間関係リセットぐせと戦う:

大司教:それはいいとして。今回、我々のコネを潰したというか現地の有力者の顔をつぶしてしまったわけですが、それに対する落とし前とかってないんですか。これは不可避の問題ではなかったですよ。具体的には、現地で偉い人がAさんに会いに来た時、めんどくさいって会わなかったとか、現地の生活に合わせる気がないとか、そういうところはこちらも確認しています。



A氏:えー。それについては。今後そちらと関係を断つ覚悟で。



K氏:ファッ!?



大司教:それは逃げてるだけですね。



Y氏:日本語教師をやるというのはいいと思うけど、そんなやり方だとまた同じようなことになると思いますよ。個人的にはアフガン行ってほしいけど(笑)



K氏:ベストを尽くせば結果は出せる。



Y氏:まあ日本で動いてみたらいいのでは。いちおう確認するけど、カンパのお金を返す気はあるの? まあ期待してないけど。



A氏:返せと言われれば返します。



大司教:なんかズレてるんだよな。これは教育のつもりで言いますが、子供部屋おじさんがバックレ宣言してるようにしか見えないんですよ。あなたのここ2ヶ月間の態度がずっとそれ。



A氏:……(黙り込んでしまう)



大司教:黙って時間切れ狙いか? Aさんにはここで逃げる人になってほしくないね。今が変わるタイミングなんじゃないですか。仕事がどうこうお金がどうこうじゃなく、困ったことになったら人間関係をリセットして逃げる癖を卒業しないと。



 



 長らくA氏は沈黙を続け、ようやく口を開いた。「今後ともお付き合いさせてください」彼は人間関係を断ってバックレるのを止め、今後がどうあれ、できるだけ誠意ある対応をすると約束した。お金の件についても、何らかの形で返していきたいという。



 他のメンバーも、それぞれ思うところはあるものの、A氏に悪気がなかったことは理解し、彼なりの誠意、あるいは誠意が持てるまで待とうという気持ちが感じられた。筆者から見ても、そこには確かな仲間意識があった。査問会の空気も初めに比べるとずいぶん和らいだものになった。



 しかし例外が一人いた。大司教である。



  



大司教:(筆者に)どうですか? これで記事になりそうですか?



筆者:……まあそうですね。ある程度話がまとまったみたいですし。このままでも、いい話みたいなまとめ方はできるんじゃないですか。ダメだし失敗したけどまた頑張っていこうみたいな……。(ざっくりと本稿の構想を説明)



大司教:ふーん。いい話ねえ。



 



 場の空気に流されない大司教は、他のメンバーに同調することはない。彼はここから、さらにA氏への糾弾を開始した……!



 



大司教:反省しているつもりになってるだけだね。Aさんは。働きたいとか金を返したいとかいうけど、そういう細かいことはいいんですよ。人生の方向性的な意味で、今後こうしたい。というのはないのか?



A氏:なんでしょうね。ここで自分が何か考えて言ったとしても、違うって言われるからあまり言いたくならないというか……。



大司教:それをナメた態度というんですよ。



H氏:仕事でそれやってたら通らないですよ。



Y氏:でもまあ。無理じゃん。彼には。



K氏:ダメみたいですね(諦観)



大司教:ようやく自分がなにもやれてないカスだと自覚できた今この瞬間に、何でもいいから約束させないと変わらないんだよ! お前らはなあなあで済ませてもいいと思ってるだろうけど、それじゃこいつは変わらないだろ! 適当に謝って時間稼いでたらどうにかなったって経験にしかならないよ。クソみたいな学習にしかならねえだろ。変わるには底つきした今しかないだろうが! 俺はまっとうにやれるから見てろでも、カネを稼いでくるから待ってろでも、今は雌伏の時だでも何でもいいよ。できそうなことを具体的に示して約束しろよ! (筆者が)いい話にまとまるって言ってたけど、それじゃダメなんだよ! 次はがんばりましょう、でいい話で終わっても次なんかねえんだよ! 今ゼロなんだからよ。



A氏:……。



 



 こうして、大司教の激怒によって会は幕を閉じた。



 前述の通り、失敗したが次はがんばろう、というテレビのドキュメンタリーみたいなまとめ方で当記事を終わらせることも筆者にはできた。しかし当記事ではあえて、このような歯切れの悪い終わり方をさせていただく。これが現実だからだ。そう簡単に人は変わることはできない。A氏は変われるだろうか? まだわからない。



✳︎連載「たらい回し人生相談」は毎週日曜日更新予定

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