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 今回紹介するYくんは、そんなタコ部屋の出身者だ。前回紹介したNくんの元同僚であり、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああそんな来歴を聞くと、金融マンガでひどい目にあうキャラのような風貌を思い浮かべるだろうが、実際のYくんはスンナリした顔立ちに明るい髪色、涼しげな眼をした美丈夫である。

なんかファイナルファンタジーっぽい顔をしている。



 そんなYくんの人生相談内容は「キルギスタンでVR瞑想して暮らそうと思うんですよね」というもの。まともなやつがいねえなあ。まあ、まともなやつは大司教に人生相談なんかしないですからね。





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■登場人物:

Yくん:わりとイケメン。女性読者のために少し説明しておくとキツネ系。タコ部屋に入り極限状態まで酷使されていたら、自我に目覚めて人生で初めて怒ったとのこと。その経験を機に、自分の感情の存在に気づき、キルギスタンで瞑想する人生を送りたいと望み始めた。わけがわからない。



大司教:別にイケメンではない。でも太ってる人がモテる地域だとめっちゃモテそうな気もする。そういう顔あるじゃないですか。

酋長っぽい顔というか……。前述のタコ部屋とは直接のかかわりはないが、同じビルにいたので経緯そのものはずっと横で見ており「なんで逃げないのかな」と不思議がりながら毛布を差し入れたりしていた。基本的に当人が助けを求めないと何もしないのが大司教STYLEだ。





タコ部屋で自我に目覚めたイケメンは、キルギスタンでVR瞑想して暮らしたい!(前編)【たらい回し人生相談】
摘むべき花は早く摘むが良い、身を摘まれぬうちに(ルバイヤート)



 さてインタビュー当日。驚くべきことに、Yくんはすんなり会場となる編集部に現れた。インタビュイーが道に迷ったりせず開始できたのは当連載初となる。まさか時間通りに現れるとは。これだけでもYくんがこれまでの取材対象と違うのは明らかだ。筆者としても早く帰れそうで助かりますホント。話し方も明瞭で記事に起こしやすいし、今回は愚痴は書かずに済みそうだ。



 相談内容はぶっ飛んでいるとはいえ、Yくんはこれまでの相談者たちに比べると明らかに「普通度」は高い印象を受けた。そのぶん筆者としては、インパクトが強いエピソードが本当に出てくるのか? と少し不安も覚えた。

書くことがないでは困る。大司教は、そんな筆者の不安を見越したのか、にたにたと昼の月のように笑っている。





■留学生の顔をした「何者か」:

筆者:というか今回、私は何も打ち合わせとか説明を受けてないのですが……。



大司教:してませんからね。



筆者:ノープランってことですか。(注1)



大司教:そうですね。とりあえず説明からはじめます。我々が会ったのは五年前ぐらいです。中田考先生のところにシュッと現れた若者って感じで知り合ったんですね。そんなわけでお互いをよく知ってはいますが、記事にするにあたって君が簡単にどういう人物なのかってことを示したいですね。



Yくん:ざっくり言うと学生ってことになるはずなんですけどね。



大司教:はい。

表面的にはこの企画でインタビューされるような人物には見えないわけです。しかし細かく見ると、怪しいところがボロボロ出てくる。初めてあったころから君は怪しい男でした。



Yくん:とりあえず略歴みたいなものについて話せばいいですかね?



大司教:そうしてください。



Yくん:高校までは日本で普通に暮らしてたんですけど、留学プログラムで中国の大学に行って、いろいろな国をうろついていたんですよ。大学院も中国です。日本に戻ってきたのは一時帰国のつもりだったんですけど、丁度そのタイミングでコロナが発生して、中国に戻れなくなったんです。ああああああああああああああああああああああああ



筆者:前回の話でも出てきた例のタコ部屋ですね。



Yくん:そうですね。



大司教:それだけ聞くと、留学中の優秀な学生が運悪くコロナに巻き込まれ、ライフプランが狂って、その結果ああああああああああああああああああああああって話になるわけですが。



筆者:まあそうなりますね。(注2)



大司教:そんなつまらない人間ならここには呼びません。

Yくんは細かく見るととにかく怪しいんです。中国ほか複数の国で、日本で言う半グレや反社みたいな人たちとつるんでいて人脈を構築している。ただの留学生とは思えないぐらい、いわゆる不良外国人みたいな連中と関わっているわけです。





タコ部屋で自我に目覚めたイケメンは、キルギスタンでVR瞑想して暮らしたい!(前編)【たらい回し人生相談】
キルギスタンで待つ仲間たち



注1:困る。
注2:この時点では筆者はまだ『大司教さんよォ、こんな「ちゃんとした」人で「記事」作れんのかよォ』などと思っていた。作れました。





■とにかく一番脳汁を求めていた:

筆者:いくつか具体的なエピソードを追う形で話を……。



Yくん:話せないことも多いんですが、エピソード自体はいろいろあります。留学時代は寮に住んでたんでたんですが、他の留学生と二人部屋のはずだったんですよ。行ったらカザフスタン人が五人いたんですよね。



大司教:二人部屋に?



Yくん:はい。なんか部屋がない友達を一緒に住ませてくれってことで。

部屋が見つかったらすぐ出て行くって説明されたんですが、結局三か月ぐらいいましたね。ある時、部屋に帰ったら僕のベッドでセックスしてたりとか……。そこから中央アジアとか旧ソ連圏、イスラム教なんかに興味を持って。あとパキスタン人とかアゼルバイジャン人と友達になって、イランに旅行したんですよ。それでイスラム教いいねえってなって改宗したんです。



筆者:ええと……えっ?(聞きなれない国名が多く出てきて混乱する)



Yくん:それでパキスタン人とかベルギー人とかロシア人とかが僕の部屋に聖書とかコーランを持ち込んで討論会を開いたりしてましたね。その中には某国から中国に逃亡してきた指名手配犯とかもいて。(注3)



筆者:宗教的な集まりなんですか?



Yくん:いや普通の留学仲間です。学生仲間ですね。



大司教:宗教についての議論というのは、日本では忌避されることが多いですが、世界的には普通に議論の対象になる事も多いです。



Yくん:そこから大学院に行ったんですが、選んだ一番のポイントは場所なんですよ。中国の辺境で、ええと周辺国との往来が盛んなエリアがあるんですが、そのあたりです。

少数民族のデルタはそういう場所なので、いろいろと怪しいビジネスがあって、怪しい人たちがたくさん集まっているんですよね。



大司教:そこで怪しい人とつるんでいたと。



Yくん:現地にはいろいろとグループというか、勢力がたくさんあるんですが、ざっくり分けると中国のそういう層には都市部派閥と農村派閥があります。やる犯罪の傾向が違ったりします。自分はあるグループのボスと仲良くなって遊んだりしてました。



筆者:なんでそういう人と仲良くしようと?



Yくん:脳汁が出るからです。



大司教:脳汁がね。



Yくん:脳汁です。



大司教:まあ、簡単に言うととても良くない地域に出入りするとても良くない若者って感じですね。



Yくん:余談になりますけど、たとえば「トカレフの余りが出てきたからあげる」って感じでトカレフを渡されたことなんかがありましたね。手入れしてないから使ったら暴発するよって。そのときは「わぁ~ヨルムンガンドみたい~」って思いました。



筆者:???(北欧神話のヨルムンガンドしか知らないので混乱する)



大司教:アニメです。



Yくん:あとクローズ(不良マンガとのこと)みたいな高校生活を送った結果、指とか片目がない人がそのグループにはわりとゴロゴロいましたね。椅子にしばってドライバーでえぐるって言ってました。あとは、個人的に「外資コンサル」って呼んでいる仕事があります。



大司教:ほう。どんな仕事ですか。



Yくん:出会い系詐欺の文章を本物のパパ活女子っぽくするアドバイスですね。写真とか文章をリアルにしたりですね。だから恰好をつけたいときは外資コンサルって名乗ったりできます。とまあ……そんな感じで楽しくやってたんですが。



大司教:中国にコロナで戻れなくなっちゃったと。



Yくん:あと論文さえ出せば大学院を卒業できる状況だったんですけどね。



大司教:そこからタコ部屋に入る流れになるわけです。





おぼろげながら彼の人物像がわかってきた。彼はいわば「選べる側」の人間なのだが、とにかく選択肢の中で一番ヤバそうなものを選ぶという。少し専門的な表現をすると、彼は異常なまでにリスク選好性が高いのだ。





タコ部屋で自我に目覚めたイケメンは、キルギスタンでVR瞑想して暮らしたい!(前編)【たらい回し人生相談】
踊ってない夜を知らないみなさん



注3:前回のNくんもそうだがシームレスに違法のにおいがする話に移行する。





■タコ部屋とああああああ:

筆者:でもタコ部屋にいきなり入ろうとしたわけじゃないでしょう?



大司教:そもそもなぜ彼があああああああタコ部屋に入ることになってしまったかというと、これは北朝鮮が関係します。



Yくん:ある程度業界に詳しい人には知られているので言ってもいいと思うんですが、北朝鮮はアニメやゲームの制作にかかわりがあるんです。北が外貨を獲得するための工場みたいなものがあって、それ自体は中国の各地にあるんだけど労働者はみんな北朝鮮の人です。経済制裁を逃れるためのややグレーな事業ですね。



大司教:国営タコ部屋みたいなもんですね。ようするに。あああああああああああああああああああああああ



Yくん:実はそこで日本アニメの制作も行われてるんですよ。アニメ業界は制作を下請けに出すことがよくあって、多重下請けの結果、作画を中国に外注するとかもあるんですけど、そこで北朝鮮の労働者がアニメーターとして末端の制作をやる。



大司教:ともすれば、日本が韓国の会社に制作依頼したつもりでも、そこから孫請けで中国に仕事が行って、描いてるのが北朝鮮の人とかもあり得るわけです。たとえばゾ〇〇〇〇〇〇〇(注4)とかね。あれ北朝鮮の人が3Dモデル作ってます。見た時は驚きました。



Yくん:自分は大司教が絵を見ただけでアニメの作品名が分かったのに驚きました。



大司教:それは単にオタクだからです。それはそれとして……。



編集:つまりアニメの予算が巡り巡ってミサイルにと。



大司教:これは重要な話だから少し付け加えるけど、ようするにトレーサビリティの問題ということですよね。日本はこういう部分が弱いです。別の産業分野でいうと盗伐木材なんかも問題視されてるようですが。



Yくん:ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ制作に関連して、アジア地域の事情に詳しい人間が必要ということで。



大司教:わたしが紹介しました。



編集:黒幕じゃないですか。



大司教:紹介しただけです。



編集:というか、国外業者とのやり取りなどもできる人材にタコ部屋労働を?



Yくん:コロナが長引いていろいろあったんですよ。やることがなくなっちゃったということもあって。まあ何か手伝えることあったらという流れで。



大司教:それであああああああああああああああああああああああああああああキリキリとすりつぶされていったわけですね。



Yくん:ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



大司教:ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ





あああああああああああああああああああああああああああ
あああああ
あああああああああああああ
あああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああ
あああああああああああああ



タコ部屋で自我に目覚めたイケメンは、キルギスタンでVR瞑想して暮らしたい!(前編)【たらい回し人生相談】
アニメタコ部屋サイドが「実績」として出してきた作画資料のほんの一部



注4:作品名は伏せておく。
注5:ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
注6:あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
注7:ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ





■極限状態で自我に目覚める:

大司教:ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



Yくん:その件は自分は関わりないですが。そのようですね。



編集:ああああああああああああああああああああああああああああ



Yくん:あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



大司教:ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



Yくん:あああああああああああああああああ



大司教:Nくんのときも言ったかもしれないけど、なんで逃げないのか不思議だった。さすがに紹介した立場上責任もありますから、毛布持っていったりはしましたけど。むしろなんで逃げなかったんですか?



Yくん:なぜか逃げなかったんですよね。



筆者:そういえばスタンフォード監獄実験ってあったなぁ……。



Yくん:自分が苦しんでることが自分でわからなかったんだと思います。



大司教:ほう。詳しくお願いします。



Yくん:僕はタコ部屋で初めて自我に目覚めたんです。このままじゃいけない、死んでしまう、って思った初めての経験でした。逃げたり怒ったりしないと死ぬと思って。そこで、初めて自分に心があるって気づいたんですよ。



大司教:そりゃよかった。やったね。





 綾波レイみたいなことを言いだすYくん。



 彼に何があったのか? なぜそこから瞑想に? 以下、後編に続く。





タコ部屋で自我に目覚めたイケメンは、キルギスタンでVR瞑想して暮らしたい!(前編)【たらい回し人生相談】
乙女のプライド 夢のフライト



✳︎連載「たらい回し人生相談」は毎週日曜日更新予定

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