※今回の記事ではイラスト掲載はなしになります。理由は、前回記事の原稿確認が遅れまくったいわゆる極道入稿という状態になり、イラストレーター様へ企画趣旨、記事内容が説明されないまま製作していただく状況になった結果「ふざけるな、もうやらん」と言われてしまったからです。
インターネットサブカル界の旗手、にゃるら氏……。
過去の記事(注1)において当連載はにゃるら氏に対し、大司教の時計を返していただけるよう丁重にうながしてきた。かつて、にゃるら氏と大司教は同じシェアハウスに住んだ仲であり、その際の過去の思い出もいくらか含め、ふわふわのぬいぐるみのように、まろやかで人に優しい記事(注2)を展開した。
今回、その極めて真摯な姿勢が天に通じたのか、ネットで少々話題となった。その結果、渦中の人物であるにゃるら氏おんみずから時計を返しに来てくれた。召喚成功って感じだな。
彼は過剰に書かれたので当然怒っている。ついでに記事に対する抗議と弁明もしたいとのこと。そのような経緯から、今回はそれらを含めた会談の様子をお送りする。
■登場人物:
にゃるら:いけてるクリエイター、いろいろ書きましたが、なんだかんだそう悪い人ではないです。
大司教:いけてるなんだかわからない人、こちらもなんだかんだそう悪い人ではない。怪物というほうが近いので。
筆者:いけてる無職。ライター仕事を受けて生活費の足しにしていたが、内輪ノリの加減を間違え記事が思ったより炎上し、困っている。
■抗議にきたにゃるら氏:
にゃるら:あのねえ。困りますよ。
筆者:いやあ。プロレスってやつで……。ほらよく言うじゃないですかプロレスって。
にゃるら:プロレスはもっとプロレスとわかるように企画されるんですよ。
筆者:えっ? あ、そういうもんなんですか。
にゃるら:そうですよ。あれだと大司教が暴露系YouTuberじゃないですか。
筆者:そうなんだ。身内がちょっと反応しておもしろいくらいを狙ったんだけど。ごめんなさい。
にゃるら:これがふざけているんじゃなくて、本気で世間の受け取り方がわかっていなかっただけなのが困るな……。
大司教:彼も壊れているからリハビリでこんなコラム書かされているんですからね。
筆者:ごめんなさい。
大司教:まあ、道を歩いてる人に「プロレスしようぜ!」っていきなり殴りかかったら完全に狂ってますからねえ。
にゃるら:今回のあなたたちがそれですよ。
筆者:できるかぎり一般で笑えるように調整したつもりだったけど、まだ濃かったなぁ。
大司教:こちらとしては完全に薄味くらいがちょうどいいんですよ。
にゃるら:ちゃんと反省しているのが逆に嫌だな。
筆者:ウッス。
注1:現在、記事は黒塗りにしてもらっております。のり弁みたいになった記事を見て我々はゲラゲラ笑っていたが、この間「面白くないよソレ」と怒られた。
注2:皆様の記憶と食い違うかもしれないが、マンデラ効果というものです。
■時計返却の儀:
にゃるら:時計は返しますけど……。そもそもどういうつもりだったんですか。
筆者:面白いかなって。
にゃるら:最初は、ちゃんと「腕時計を借りている」だったのに、いつの間にか文中で「腕時計を盗んでいる」になってましたからね。
筆者:面白いかなって。どうせこんなネットの場末の記事なんか、ネットのコアユーザーの皆様(注3)しか読まないから、多少悪どく書いても大丈夫かなって思ったんですよね。
にゃるら:危ない1号的なノリなのはわかりますけど、ネットの時代じゃ90年代の露悪記事の捉えられ方がぜんぜん違いますからね。だから廃れたんでしょうけど。露悪趣味はもう時代に合わないんでしょうね。
筆者:不景気だからかしらね。(注4)
大司教:さあ。なんにせよ、これは偉くなっていく君への花向けみたいなものというか。
筆者:開店祝いの花輪です。
にゃるら:まあ。とにかく時計をお返しします。必要な時に借りてお世話になったのは本当ですし……。ちゃんと「いつ返してもいいから」って言われた上で、最近も「腕時計なんて今度でいいよ」とも言われましたけどね。
(にゃるら氏、時計を大司教に返す)
にゃるら:盗んでないってちゃんと書いておいてください。
筆者:ウッス、盗んでないッス。
にゃるら:借りパクと盗んだじゃだいぶ違うでしょ。
筆者:そうかなあ。
にゃるら:まったくもう……まあこの機会に大司教に久しぶりに会えてよかったですよ。
大司教:まあでも、時計をネタにしてにゃるらくんをこの企画におびき出そうって狙いはあったんですけどね。実際、こうでもしないと君はこの連載に出てくれないでしょうし。
にゃるら:そりゃ出ませんよ。きたないもん。
大司教:ワハハ。
にゃるら:丸くなって聖人扱いされるよりは、たまに汚くたってもいいですけどね。
注3:当記事の本来の読者層をオブラートに包んだ言い方。
注4:なんだかんだ、90年代のサブカルにはまだ(いまから思えば)バブルの残り香みたいなものがあり、うさんくさい話や怪しい話に今ほど厳しい感じではなかった。倫理的になったという向きもあろうが、不景気のせいで清濁併せ呑む余裕がなくなったという気がする。
■にゃるら氏の弁明:
にゃるら:記事の内容についてですけど……確かに自分も若気の至りでいろいろ迷惑かけちゃったなみたいなことはありますし、そういうことがあるなら素直に謝りたいというのはまずあります。ただ記事の書き方がちょっとひどすぎるなと、そこは抗議したいですね。
大司教:まあ筆者氏がひどく書きましたからね。
筆者:炎上した方が面白いかなって。
にゃるら:そもそも、その記事内にすら「女性に家賃を払わせた」「キメセクしまくっていた」なんて書いてないのに、そう切り取られたのはビックリでした。これはむしろネット民のせいですけど。
大司教:ネットなんてそんなものでしょう。
にゃるら:そこまで一方的にひどいことをしたことはないはずです。過去の男女関係だからそんな一方的なもんじゃないですよ。もちろん相談者の方を傷つけたことはきちんと謝罪させてください。
大司教:では、それは前回の相談者にもお伝えしておきます。あの記事で気が済んだというか、納得してくれる可能性もありますし。「こうなるとは思わなかった」って言ってました。(注5)
筆者:そうなるとひどく書いた甲斐があるというものです。
にゃるら:本当にキメセクしながら家賃払わせていたなら、さすがにどんな罰も受けますよ。
大司教:にゃるらくんが睡眠薬でずっとラリってたのは本当だけどね。
筆者:誇張して書きすぎた。
にゃるら:反省してください。いや、猛省してください。あとシェアハウスを割ったというのも、あれは完全に違いますね。たしかに僕が若いグループの中心にいたみたいなところはあるかもしれないけど、対立させたり煽ったりはしてないわけで。
筆者:でもおじさん連からするとにゃるらさんがやっぱり若者派閥の中心って感じに見えたのはある。まあシェアハウスの分裂なんて珍しくもなくてごく普通ですよ。人は集団生活するとモメます。
大司教:あのシェアハウスは誰がおかしいとかではなく全員おかしかったですからね。
筆者:大家もね。(注6)
にゃるら:まあ僕は解散するそこそこ前に抜けていますしね。あと、屋上で上野公園のギンナン水につけてるのもおかしいんで。
筆者:ウッス。ゲロの話はなんだったんですか?
にゃるら:他人が僕の部屋でゲロ吐いたときに、近くにいた友人に処理を手伝ってもらったんですよ。僕は嗅覚がないのでちゃんと処理できているか不安なのもあって。それが「女にODさせてゲロ吐かせて友達に片付けさせていた」って書かれて、どんな悪人だよって自分で驚きですよ。
大司教:ワハハ。
ひと通りの話を終えると、話題はシェアハウス時代の思い出話に移った。
注5:これ以上追及する気はないとのことで後編はお蔵入りになった。相談者に心当たりがないというにゃるら氏の発言に深く傷ついたそうだが、前編だけで特定するのはさすがに無理だろう。
注6:大家は「俺は江戸っ子だ!」とか言いながらキレ散らかし「ドローンで監視してるだろ!」とか言うなかなかどうしてなご老人だった。
■テーマは家族:
にゃるら:まあでも、大司教が変わってなくてちょっと安心しました。記事を読んだ時にショックだったのが、大司教がこんなこと書くはずがないってことなんですよ。絶対おかしいって。
大司教:そこはこの人(筆者)がちょっと脚色しますからね。脚色は個人情報を隠すためなどの理由もありますが。
にゃるら:まったくちょっとじゃないですよ。でもまあ、僕と大司教の関係って読者は絶対初見で理解できないじゃないですか。一緒に住んでいたこともあるし、それこそ数年の付き合いだし。
大司教:キミへの感情はもはや好きとか嫌いじゃ表現できないからね。
にゃるら:それはもう家族でしょう。
大司教:うーん、自分は皆に対してケアワーカーとして接してるつもりなんですけどね。結局ケアする役割の人をみんなそれぞれ自分の中の言葉で表現するので、親代わりとか先生とか言うんですけど、自分としては一貫して義務的なケアワークをしてるつもりです。
にゃるら:僕の方からは家族みたいに見えてましたよ。
大司教:家族、家族かあ。たしかに、見守るみたいな意識がないわけではないが。
にゃるら:覚えてないかもしれませんが、僕があのシェアハウスを出るとき、大司教が「切っても切れない関係だから」って言ったんですよね。
大司教:言ったっけ。
にゃるら:言いましたよ。そりゃ迷惑かけあった仲だから思うところあるでしょうけど、あの記事ほど一方的に攻撃するわけもないって。今日もそれはたしかめたかったんです。
大司教:家族かあ。うーん。自分はあくまでそこに線を引いてたように思ってたんだけど。でも、無意識にそれを言ったならたしかにそうなのかもな。
大司教はしばらくうんうん唸っていたが、やがてぽつりと言った。
大司教:たしかに、擬似家族みたいなものがテーマだったのかもしれないね。あの頃は。
にゃるら:そう思ってます。
大司教:オタク文化なんかでも、ゼロ年代ぐらいのエロゲとかのテーマも恋愛ってよりは家族だったような気がするし。
にゃるら:欠けたものを持った人たちが集まって家族をやるみたいな。
大司教:なんかどっかで聞いたような話だからイヤだけど、そういうところもあったのかな。
にゃるら:そういう意味なら、前回の記事も「家族のやらかし」なので、僕も怒ったり訴えたりは違うなと感じて。
筆者:ワハハ。
■会談、その後:
その後、別の喫茶店に移り、エビピラフを食べる筆者にライターとしての仕事のアドバイスをいくつかしてくれた。筆者は仕事を欲しがっているように見えないのがそもそも問題だとのこと。今後は仕事くださいと折に触れて書くことにしようかな。そんなわけで丸く……とまではいかないかもしれないが、それなりに事態はおさまった。
大司教は、彼が言った「家族」という言葉にいろいろ思うところがあったのか、帰りの車内でもしきりにその件を反芻していた。
「宿題をもらった感じですね」
と大司教は言う。
「まあ、本当にたらい回しにされてるのは我々の方ですから」
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