◾️「カウアン・オカモトの意外な素顔」と「ミートゥー運動」



 ジャニーズ事務所をめぐる騒動がくすぶっている。創業者のジャニー喜多川が長年にわたり、所属する少年アイドルたちにセクハラをしていたのでは、という疑惑をめぐる騒動だ。



 とはいえ、こうした騒動は過去にも繰り返されてきた。もっぱら、事務所をやめた元アイドルが暴露的な告発を行い、しばらくすると沈静化へという経緯をたどる。



 それはこの手の疑惑の真偽を確かめることがもともと困難だからだろう。まして、ジャニーは2019年に亡くなった。それゆえ、藤島ジュリー景子社長は5月14日に発表した公式見解のなかでこう語っている。



「当事者であるジャニー喜多川に確認できない中で、私どもの方から個別の告発内容について『事実』と認める、認めないと一言で言い切ることは容易ではなく、さらには憶測による誹謗中傷等の二次被害についても慎重に配慮しなければならないことから、この点につきましてはどうかご理解いただきたく存じます」



 ジャニーの姉・メリー喜多川の娘でもあるジュリーにとっては、故人の名誉も守りたいし、所属するアイドルたちのイメージダウンも極力避けたいところだ。また「なかった」ことの証明は「あった」ことの証明よりも困難で「悪魔の証明」と呼ばれたりもする。



 一方、告発する側にも確たる証拠はないし、説得力があるとはいいがたい。告発者のひとりであるカウアン・オカモトについても「意外な素顔」(女性セブン)が報じられた。その記事では、元同居人というミュージシャンが、



「“根性を叩き直せ”と引っ越しのバイトをやらされましたが給料は取られ、ほかの仕事でも、まともなギャラは払ってもらえませんでした」



 と、カウアンからのパワハラを告発していたり、別の告発者が、



「被害者の告発の中身に、それはちょっと違うんじゃない?と思うところもありますよ。4年間で200人はさすがに考えられないと思います」



 と、カウアンの話の盛りすぎを指摘していたりする。なお、カウアンは昨年、当時国会議員だったガーシーとの対談でもジャニーを告発。

しかし、ガーシーはその後、国会議員を除名されたあげく、名誉棄損などで逮捕状を出され、今は国際手配中だ。



 このため、カウアンにも、うさんくさい印象を持つ人が少なくない。それはまぁ、そういうものだろう。



 セクハラなどの被害をSNSやメディアで拡散して告発する「ミートゥー」運動。今回もその流れのひとつといえるが、こういう告発には後出しじゃんけん的な印象もつきまとう。特に大人同士の場合、イヤならその場で拒絶すればよいし、すぐに警察や弁護士に相談することもできる。それをせず、あとから蒸し返すのは本来みっともないことでもあるのだ。



 ジャニー騒動の場合は、一方の当事者が少年だったりもするので、状況がやや異なるが、彼が手がけたアイドルたちのなかに彼を悪く言う者はほとんどいない。告発者が圧倒的に少ない以上、大半のケースがある意味ウインウインだったという推測も成り立つわけだ。





◾️ジャニー喜多川を告発した元アイドルの「死の前日」のブログ



 1988年に「光GENJIへ」を書いてジャニーを告発した元・フォーリーブスの北公次も、その後、事務所と和解。死の前日には、ブログにこう綴った。



「そして最後にどうしても言わしていただけるなら ジャニーさん メリーさん ありがとうございました 感謝しています」



 若き日のジャニーに最も可愛がられたと自負する彼の愛憎なかばする思いは最後に「感謝」へと収束したのだろう。



 なお、今回の騒動に、北が起こした騒動ほどのインパクトはない。にもかかわらず、ミョーにくすぶっているのは、新たな要素が加わって話をややこしくしているからだ。



 北の騒動は当時、田原俊彦のスキャンダルをめぐってジャニーズに敵意を持っていたAV監督・村西とおるが仕掛けたものだった。つまりはけっこうシンプルな対立構図だったのだが、今回はそうではない。



 まずは「ポリコレ」という時代の流行。そこに乗っかることで、メディアがジャニーのような人を叩きやすい空気が生まれている。この件の報道をめぐって以前、ジャニーズと裁判沙汰にもなった「文春」にとっては、ここぞとばかり、問題を再燃化させる好機と見たのだろう。



 こうしたメディアは海外にも存在する。英国のテレビ局・BBCだ。



 今回の騒動のもうひとつの火付け役だが、ジャニー問題をめぐるメディアの忖度事情を探るべく、元アナウンサーの長谷川豊に声をかけたりしている。数年前「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」と主張し、物議をかもした人だ。



 BBCにとって、異国のスキャンダルはまさに対岸の火事。

自国民の反感を買う心配もなく、流行りの「ポリコレ」爆弾でお手軽に燃やせる格好の話題なのだ。



 さらに、ポリコレの有効性を知り抜いた人たちも食いついた。いわゆるフェミニストだ。



 騒動のなかで「PENLIGHT(ペンライト)ジャニーズ事務所の性加害を明らかにする会」が設立された。メディアでは「ジャニーズファンらによる有志の団体」などと紹介されているが、その実態はフェミ活動家連盟。二次元キャラを使った町おこしなどに対し「性的搾取」だといったクレームをつけ、炎上させるのが大好きな人たちの集まりだ。



 群馬県草津町の女性町議が男性町長からワイセツ行為をされたと訴えたものの、狂言だったことが発覚して「冤罪」として決着した事件でも、フェミ活動家の暴走が話題になった。この人たちはとにかく「性的搾取」に敏感なので、ジャニーと少年たちとの構図にも似たものを感じて、イケると判断したのだろう。



 なお、フェミ活動家たちは政界における野党勢力とも親近性があり、早速、立憲民主党が国会でカウアンらの聞き取り調査を行ったりした。ジリ貧の党勢をなんとかすべく、この騒動を利用しようとしているわけだ。



 とまあ、メディアにフェミ、野党など、もっぱらファン以外の層で盛り上がっているような印象さえある。ただ、ちょっと切実なのは、途中でジャニーズを嫌いになった人たちだ。





◾️ジャニー騒動で「ジャニーズ叩き」に加わっている人たち



 SMAPの解散、King&Princeの分裂によって、ここ数年、事務所に不信感を抱く人が増加。そういう層も、今回の騒動ではジャニーズ叩きに加わっている。



 そこには、大事なものを壊されたという被害者感覚が作用していて、こうした感覚は根深く、こじれやすい。いや、フェミにしても、自分が不幸なのは男のせい、みたいな感覚が根底にあるし、野党にも、選挙で勝てないのは自民党のせい、みたいなところで負け組感をごまかしているのではないか。



 その点、今回の告発者たちもそれぞれ、こじらせてしまっているのだろう。スターになっていれば、こういうこともしなくて済んだはずだ。



 いわゆるデビュー組では唯一、元・忍者の志賀泰伸が告発者となったが、彼の場合、アイドル時代に妻子がいることがバレてグループを脱退するという憂き目を経験。それがこじらせにつながったと見ることもできる。



 そこで思い出されるのが、かつて告発者から作家となった平本淳也のジャニーズ論だ。音楽評論家の近田春夫が絶賛して紹介した文章を引用してみる。



「ホモぐらいどうってことないタフなヤツだけがスターとなって生き残れるのだ、という論は、一事務所の問題を飛び越し、芸能の中心部にあるものにまで軽々とせまってしまっていて、ちょっとまいった」(「考えるヒット3」)



 たしかに、芸能とは大なり小なり、作り手たちのエロス的な衝動に立脚している。小室哲哉と華原朋美しかり、宮崎駿と大橋のぞみしかりだ。

そういうものなので、ホモだろうとなんだろうと、いちいち気にしていたらスターにはなれない。



 もちろん、エロスは愛だけでなく、ときに憎しみも生むが、それは不可避的なもの。むしろ、作品以外の部分では、愛憎なかばするところも赤裸々に見せてくれるから、スターのスキャンダルは魅力的だともいえる。メディアもそのあたりをわかったうえで、不倫だったり、セクハラだったりをとりあげるのだろう。



 ただ、ここ数年はそこに善悪を持ち込みすぎていて、それが芸能の委縮につながってもいる。そういう切り口のほうが今はウケるし、儲かるのだとしたら残念な状況だ。それこそ、行き過ぎた「ミートゥー」は芸能を(おそらくは世の中全体も)衰退させるので、メディアにはなるべく加担しないでもらいたい。



 なお、今回の騒動を機に、事務所の再生を、などという主張も見かけたが、ジャニー亡きあと、少年たちがかつてのように輝くことはあまり期待できない。ジャニーズの芸能文化はそれくらい彼ならではのエロスと表裏一体だった。アンチが心配しなくても、今後は普通の芸能事務所に変わっていくしかないだろう。





文:宝泉薫(作家、芸能評論家)

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