イケメンとはほど遠い容姿、身長は166センチ、バツイチ、58歳。それでも婚活で出会った女性は300人以上。
婚活アプリを利用するにあたっては、どの会社のアプリに登録するか――が重要だ。
優良アプリはどれか、自分に向いているのはどれか、最初はさっぱりわからなかった。そもそも、婚活アプリと出会い系マッチングアプリとの違いもわからない。
まず、ネットで調べた。すると、優良婚活アプリを4社とか5社とかあげて長所短所を箇条書きにしているサイトがいくつもあった。信用できそうだった。どのサイトもたいがいは同じアプリを選んでいる。ベスト3はほぼ同じだったので、そこから選ぶことにした。
ネット情報を見る上で、それが信頼できる情報かどうか、筆者は執筆者で見分けている。匿名のサイトはとりあえず信頼しない。
■優良ではないアプリはすぐわかる
優良ではないマッチングアプリ、たとえば売春の温床になっているようなものはすぐにわかった。無料の仮登録をすると、即、女性登録者が露骨に誘ってくる。
「気持ちイイ関係目的で会おうよ。私は準備OKだから、都合を教えて。いつでも発射できる?」
「お兄さん今彼女いる? 性欲強めで、ちょっと変態入ってる私だけど、需要ある?」
こんなメッセージを送ってくる。たいがいは写真付きだ。かなりかわいい。胸の谷間を強調した露出度の高い服装で、つい見入ってしまう。寂し過ぎると、こういうアプリに登録してしまうのかもしれない。
結局、複数のサイトが勧めている婚活アプリにいくつか登録し、反応のいいもの、つまり女性と出会えるものを続け、反応のよくないもの、つまり女性にあまり会えずコストパフォーマンスの低いものはやめることにした。
婚活アプリの選択では、次のことがわかった。
①登録者数の多いアプリを選ぶ。
どれか一つを選ぶならば、よけいなことは考えずに、登録者数が多いアプリにするべきだ。登録者が少なければ、当然出会いも少ない。会えない。知り合いが運営するマイナーなサイトにも登録したが、会えなかった。会員が少ないからだ。そういうアプリは、会員の数よりも質だと主張しがちだが、それはうそだ。数が大切。
②他社と比べて会費が安過ぎるアプリは避ける。
会費が安いアプリには、その会費に見合う男女が登録している。
③他社と比べて会費が高過ぎるアプリも避ける。
会費が高過ぎる、つまり単価が高いアプリは、登録者数が少ない可能性が高い。単価を上げなくてはビジネスとして成立しないからだ。他社よりも運営コストがかかっている。たとえば、質の高い男女が登録していると装うためにサクラを雇用していると、その人件費分が会費に含まれる。
④プロフィール写真がきれいなアプリを選ぶ。
アプリの質の高さはプロフィール写真に反映される。上質なアプリは画像の解像度が高く、写真が美しい。だから、男女とも魅力的に感じられる。一方、解像度が低いと、画像が粗いので、実際よりも肌が荒れて見えたり、顔色が悪く見えたりする。つまり、自分の評価が下がる。
以上の四つを意識すれば、大きな間違いはおかさないだろう。
経済的に余裕があるならば、複数のアプリに登録してみるべきだ。選択肢が広がる。ただし、とくに女性は会費が安かったり無料だったりするため、複数のアプリに登録しているケースが多く、同じ顔やプロフィールをあちこちで見ることにはなる。
■プロフィールで本気度を示す
「アラカンにもなって婚活アプリに登録するやつなんているのだろうか?」
そんな不安が登録する際は頭の中をよぎった。しかし、杞憂に過ぎなかった。同世代がたくさん登録していたのだ。
登録はかんたんだ。アプリのガイダンスに従って、まず、クレジットカードで会費を支払う。1か月、3か月、6か月、1年など選択肢があり、その中から選ぶ。長ければ、それだけ割安になる。だからといって、長期間会員でいたくはない。
とはいえ、1か月で相手を見つけて退会できると思うほどうぬぼれてはいない。それなりに苦戦は覚悟しているので、3か月コースを選んだ。会費は1万円弱。1か月に3000円台になる計算だ。
登録作業を終えて会費の支払い手続きが済むと、今度はプロフィールを記入していく。名前、年齢、職業、学歴、居住都道府県、出身都道府県、体型、飲酒や喫煙の習慣、おおよその年収、希望する女性のタイプ……などを打ち込んでいく。
すべて正直に入力した。もし女性と交際できたとして、嘘をついていると、どこかで訂正しなくてはならない。あるいは嘘に嘘を塗り重ねていかなくてはならない。
必要な項目をすべて打ち込んだら、本人証明を送信する。運転免許証やパスポートなど、顔写真付きの公的証明書をスキャンするかスマホで撮影して送信すればいい。
すると、アプリの会社が審査に入る。間違いなく本人か、記入に嘘がないか、クレジットカードに問題がないか……などをチェックするのだろう。
独身証明書や卒業証明書や収入証明書の提出は求められなかった。つまり、妻帯者でも登録できる。学歴や年収を偽ることもできる。審査は半日から一日。審査が通り晴れて会員になった。
プロフィールには、自己PRと写真掲載のスペースがある。どちらも重要だと思った。
自己PRは、本気でパートナーを求めていることを書いた。独身証明書の提出を求められないからには、妻帯者やナンパ目的の男は一定数いるはずだ。疑われないためにも、本気度を示す必要があると考えた。
趣味は具体的に書いた。好きな映画のタイトル、好きなミュージシャン、好きな作家、好きなスポーツ、ジムに通っていること、健康であること……などだ。
ただし、ちょっと特殊な趣味は書かなかった。たとえば、格闘技系だ。筆者は一時期ボクシングをよく会場で観戦した。そういう好みは伏せた。格闘技を野蛮だと思っている女性は少なくない。プロ野球も観戦する。阪神タイガースのファンだ。それも書かなかった。読売ジャイアンツファンの女性から理解は得られないからだ。かつて、ジャイアンツファンの女性と短期間交際した。プロ野球のことで、頻繁に険悪な状況になった。筆者は「阪神バカ」と罵倒された。
■プロフィール写真は必須。人は顔のわからない相手とは会わない
写真は任意だ。掲載してもしなくても本人次第。2000年代、まだ婚活サイトといっていた時代は写真をアップしない女性が多かった。男性もまだ少なかったと聞いている。登録していることを知り合いに知られたくなかったからだ。偏見があった。
しかし、2020年代の婚活アプリは、顔写真の掲載がスタンダードだ。婚活アプリに登録することが、社会的に理解を得られるようになっている。婚活アプリの利用が珍しくなくなっている。男性だろうが、女性だろうが、たとえアプリを通してだったとしても、顔のわからない相手と交流したくないのがふつうの感覚だろう。そもそも別人が来ても判断できない。
ただし今も大手金融に勤めている人は、上司や同僚に知られると、なにかしら社内的に不利になるかもしれない。教師も生徒の保護者に知られたら学校にクレームが来るかもしれない。
最初に登録した婚活アプリに掲載できる写真はメインが1点。サブが5点までだった。メインは、スタジオでプロのフォトグラファーに撮影してもらったカットを選んだ。自分の著書のプロフィールに使っている正面からのカットだ。きちんとライティングして、きりっとした表情をつくっている。
サブはあえてスナップを使った。仕事をしている姿だ。気づかないうちに撮影されていたカットが2点。1点は顔の右側から。もう1点は顔の左側から。
写真は重要だ。女性も、男性も、相手の顔を見て、さまざまなことを判断する。やさしそうか、知性が感じられるか、清潔感があるか……などだ。プロフィールを見るときは対面前なので、写真からかなりの情報を得ようとする。
だからこそ、メインにはプロが撮影した写真をアップした。気づかないうちに撮られたスナップも実はプロによるものだ。だから、光も自然にまわっているし、構図も計算されている。表情もいいタイミングでとらえられている。
かつて結婚相談所に登録したときもプロフィール用に写真を用意した。プロに撮影してもらったカットだ。そのとき、サンプルとして、相談所のカウンセラーがほかの男性会員の写真をいくつか見せてくれた。いい例、よくない例だ。
よくないほうは、社会人とは思えなかった。髪がぼさぼさだったり、無精ひげが生えていたり、眉毛がぼうぼうだったり、自宅で部屋の中に干された洗濯物を背景に不機嫌な表情をしていたり。いいんですか? そんな姿を女性に見られていいんですか? 女性に選んでもらいたくてお金をかけてまで相談所に入会したんじゃないんですか? その男性たちに問いたかった。
もちろん、カウンセラーは彼らにアドバイスしたそうだ。しかし、言うことを聞かないらしい。自分のお気に入りの写真を持参しているのだ。案の定、彼らはなかなかお見合いが成立しなかったという。その理由には、もちろん写真のクオリティの問題がある。そして同時に、婚活を本業にしているカウンセラーの意見を聞かないという頭の固さが女性に受け入れられなかった。
さて、写真はあと3点掲載できた。しかし、もう手持ちの写真がなかった。ふだん自分の顔写真を撮る習慣がないのだ。新規で撮影することも考えたが、それはやめて、自分が写っていない旅先の風景写真をアップした。1点は都市。ニューヨークの風景だ。もう1点はリゾート。フロリダの風景だ。多くの女性は旅行が好き。そこで、「僕も旅行が好きです」というアピールをして共感を得ようという姑息な手段に出たわけだ。
写真をアップしたところで、婚活アプリの活動のための準備は整った。
■申し込む相手を検索
婚活アプリで女性の登録画面を初めて見たときのことは忘れられない。もっとも登録数の多い大手婚活アプリの画面は圧巻だった。
こんなに会員がいるんだ! と感動した。次から次へと交際できるのではないか、と錯覚した。しかし、もちろんそんなことはない。最初は検索条件を入力していないので、20歳くらいから70代まで、女性会員全員、つまり数万人が掲載されている。
落ち着くように努めて、自分が求める女性の条件を打ち込んだ。
最初は条件の範囲を広く入力した。年齢は40歳以上。住まいは東京、神奈川、埼玉、千葉。筆者は東京在住で、そこからあまり遠い人とは頻繁には会えない。写真掲載あり。身長は170センチ以下。自分よりも高くない女性にした。体型は細身、やや細身、ふつう、筋肉質、グラマー。ぽっちゃり以外はOKにした。職種はこだわらず。学歴もこだわらず。飲酒の習慣もこだわらず。喫煙の習慣はちょっと迷ったけれど、こだわらず。出身地もこだわらず。年収もこだわらず。婚歴もこだわらず。子どもについては迷った。子どもの年齢や性格や親との関係性によると思った。でも、マッチングする可能性を高めるために、検索の段階では、子どもありも条件に加えた。
以上の条件で検索のアイコンをクリックした。それでも、1万人くらいの女性のプロフィールがずらり。すごい。写真をながめるだけでも楽しい。
しかし、よく見ると、女性は必ずしも自分の顔写真をアップしているわけではない。どこかの高級レストランの肉や魚介の写真や旅行先の海や山の写真、ペットの写真をアップしている登録者が多い。意図がわからない。犬や猫は筆者も好きだ。どちらも実際に一緒に暮らしていた。しかし、犬や猫と結婚したいわけではない。犬猫を自分の顔の替わりにアップしているのはなぜだろう。
後ろ姿や大きなマスクで顔を隠している女性もいる。身バレを恐れているのだろう。身バレが困る業種や職種はある。教師や芸能人は本人であることを特定されると、仕事によくない影響を及ぼすかもしれない。
どうかと思ったのは、自分は顔を見せず、それでいて相手には顔写真のアップを求めている人たちだ。
「顔写真のない人は怖いので、マッチングいたしかねます」
そんなふうに書いている。
自分の顔は見られたくない。相手の顔は見せてほしい。それは、フェアではない。
さあ、どの女性から申し込もうか。わくわくした。写真のある女性の全員がオイデオイデしているように感じた。
婚活アプリによっては、プロフィール画面を見れば会員の人気度がわかるようになっている。それまでに申し込まれている数が表示されている。1か月間に20人とか、30人とか、なかには「500人以上」と表示されている女性もいた。500人にアプローチされるのはいったい、どんな気分なのだろう。一日だけでいいので、体験してみたい。
■男は大きな胸と従順さに弱い
婚活アプリでプロフィールを眺めていると、人気のある女性に共通点があることがわかった。
それは次の通りだ。
①笑顔の写真をメインにアップしている。
笑顔は無敵だ。普遍的な魅力ではないだろうか。顔がきれい系でも、怒っているような表情には〝票〟が集まらない。
②実年齢よりも若く見える。
男は単純に若い女性が好きだ。婚活アプリの場合、女性の年齢が高くても、もっと年上の男性からは好まれる。ただし、写真で見て、40代なのに50代以上に見えるよりも、30代に見えたほうが好まれる。おそらく男も同じだろう。
③露出の多い服を着ている。
写真で露出の多い服装の女性は、それだけで人気が高い。冬服よりも夏服のほうが好まれる。水着の写真の女性は大人気だ。男は単純だ。
④バストが大きい。
ニットを着て横向きのバストの大きさがわかる写真、胸の谷間が見える写真をアップしている女性は人気が高い。また、プロフィールに「グラマー」と書いている女性も好まれている。
⑤従順そうに見える。
令和の時代でも、多くの男はいばりたいと思っているのか、従順そうな女性は人気。
このように、残念ながら男の場合ほとんどは女性の写真を見て、性欲や征服欲が満たされそうな相手を選んでいることがわかった。
次にプロフィールの自己紹介文や自己PR文も読む。
「リモートワークがずっと続いて、まったく出会いがありません。このまま一人きりでどんどん歳を取ってしまうことを思うと怖くて、婚活アプリに登録しました。どなたか誠実な男性、メッセージをいただけますか」
「コロナで人と会わなくなり、孤独な夜を過ごしています。これからの人生を共有できる、たった一人の男の人と出会いたいです」
コロナ禍で、一人きりのさみしさを強くうったえる記述が目立った。新型コロナウイルスの感染拡大でシングルの男女の婚活が活発になっているのはうそではないらしい。
「友だちがアプリで知り合った男性と結婚したので、私も登録しました」
「アプリでパートナーと出会った会社の先輩に勧められました」
そんな自己紹介文も目立つ。みんな前向きだ。モチベーションが上がった。
■婚活は営業と同じ。大切なのはアプローチ数
婚活アプリに登録したときは、新型コロナウイルス感染拡大の真っ只中。アラカンの筆者は、苦戦を覚悟しての参戦だ。
しかし、思いのほか、アプリでの婚活は順調に進んだ。次々と女性に会えた。
まずスタートして1か月目は、女性から毎日申し込まれて驚いた。サクラかと思った。アラカン、バツイチ、収入が不安定なフリーランス、デカ顔、低身長……でも、婚活市場で需要があったのだ。
申し込みが複数来た理由は後にわかった。登録したばかりの〝新人〟は多くの男女がチェックしている。
みんな真剣に婚活している。毎日ウェブサイトを開き、誰かいい人はいないか、プロフィールをチェックしている。会員の顔はどんなに多くても、そのほとんどが頭にインプットされている。だから、新しい登録者に敏感に反応するのだろう。
登録して日が浅い男女はまだライバルが少ない。マッチングの確率が高いから、どんどん申し込まれるのだ。
アプリに登録する写真は身なりに気を遣った。清潔感を心がけ、襟のある白いシャツにダーク系のジャケットをはおった。笑顔も心がけた。プロフィールの自己紹介文には本気でパートナーを求めていることを明記した。そのあたりが総合的に女性に評価していただけたのではないだろうか。
もちろん、自分からも片っ端から申し込んだ。なにしろアラカンだ。断られて当たり前。当たって砕けろ、の精神だ。
婚活は営業活動に近いと思った。アプローチする件数が大切だ。
たとえば飛び込み営業で、一日に10件営業をかけ、そのうち3件で契約が成立したとしよう。野球ならば打率3割。一流打者の証しだ。
一方で、一日に100件営業をかけて、そのうち10件で契約が成立したとしよう。野球ならば打率1割。ダメな選手だ。
しかし、現実社会の営業では評価は異なる。たとえ1割でも、10件の契約を獲得したほうが、たった3件よりもずっと評価は高い。率よりも獲得数のほうが大切だ。一日に100件も営業をかけたバイタリティこそが評価される。
婚活も同じ。率ではない。そもそも婚活は一人の大切な相手と出会えればいい。でもそれには、数を当たらなくてはいけない。アラカンが相手を選び抜いて100人アプローチしても、マッチングできるのは10人以下だ。そのうちアプリを通して会話が継続して会えるのは一人か二人だろう。さらに交際に進めることはほぼない。こちらにも好みはあるが、相手にも好みはある。
ただし、それは筆者のようなマイノリティの場合だ。容姿に恵まれた人、経済的に恵まれた人はもっと高い確率で出会えるし、交際できるだろう。
アラカンはとにかく、数を打たなければダメだ。分母を増やさなくては、分子も増えない。
(最新刊『婚活中毒』より 抜粋)
文:石神賢介