早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。

その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、神野藍がしずかにほどきはじめた。「どうか私から目をそらさないでいてほしい・・・」赤裸々に綴る連載エッセイ第19回。



「AV女優」というラベルに近づいてくる人とは? 「善意の皮を...の画像はこちら >>



  



■「AV女優」というラベルに近づいてくる人とは?

 



 「人間誰しもが程度はどうであれ、必ず良心や善意といったものを持ち合わせている」



 そんな風に信じて疑わない人を見ると、ものすごく平和で慈愛に溢れた世界で生きてきたのだろうなと思ってしまう。そのことに対して眩しいなと羨む気持ちもあるけれど、私はそう信じられない私で良いと思うのだ。



 一年ぐらいの付き合いの友人から「初めて会ったときに思ったんだけど、相手のことをすごく観察するタイプだよね。」と言われたことがある。自分自身では「よく観察しよう」と強く意識して行動しているわけではなかったので少し驚いてしまったが、何となくそういった行動をとってしまう理由は分かっていた。



 



 今よりもずっと若くて、もう少し精神的に幼くて危うさを抱えているころ、自分の知らない世界を知りたい欲望を持っていた。どちらかというと私は十数年安全な場所で大事に育てられてきて、その反動かもしれないが、私の中には抱えきれないほどの好奇心が生まれていた。初めはどれも刺激的で、ある意味観光客のような気持ちで眺めていた。しかしながら、AV女優としてデビューした頃ぐらいから少しずつ様子が変わっていった。



 これまでは一定のラインを踏み越えないように「ああ、こんなこともあるんだな」ぐらいのどこか他人事のような気持ちを持っていた。

それが私にAV女優というラベルが張り付けられた途端に、私に近づいてくる人がじわじわと増え始めた。もちろんその中には出会えてよかったと思う人もいるが、そうやって近づいてくる人のほとんどは「善意の皮を被った欲の怪物たち」であった。セックスがしたいと持ち掛けてくる者、自分の良いようにコントロールしようとする者、私という存在でお金を稼ごうとする者など様々であるが、共通しているのは皆が初めは綺麗な言葉で取り繕い、「あなたの味方です」という態度をとってくること、そして1を100に誇張することで「自分は色々な分野で成功している凄い人間である」と信じ込ませようとしてくることだ。



  



■初対面で注意しなければいけない人とは?

 



 そんな怪物たちにとって「AV女優」というラベルはカモの印のようなものである。一人一人がそうでないにせよ、長い時間をかけて刷り込まれてきたAV女優のイメージ、例えば周囲との繋がりが薄い、自己顕示欲が強い、お金への欲があるなど、そういった要素を持ち合わせている可能性があるというだけで、彼らからすれば美味しい獲物に見えてしまうのだ。彼らからしても有象無象の中から探し出すよりも、ある程度絞り込んだ中から捕まえる方が楽である。きっとそのあたりはAV女優じゃなくても、同様に「老人」「お金に困った学生」など標的にされやすいカテゴリは他にもあるだろう。



  幸いにも、そういう人間たちとはうまく距離を置いていたし、実被害は何一つ被っていないが、きっと私の選択次第では今頃生き地獄のような生活を送っていただろう。想像するだけでぞっとしてしまう。辞めてからは必要がなければ、「元AV女優」と話すことは少なくなった。後ろ盾となる事務所もなく、一人で活動していくのにあまり悩みの種は増やしたくないからだ。



 そういった経験が積み重なることによって、「これ以上は踏み込んじゃいけない」だとか「この人きな臭いな」という直感は働くようになった。

特に初対面で、必要以上に距離を詰めてこようとする人や馴れ馴れしくしてくる人には用心するようになった。「そんな人を疑ってかかるなんて」と思う人もいるかもしれないが、何かあったときに傷つくのは自分自身だし、何か起こる前に気がつけないとそんな怪物たちに太刀打ちできない。



 



■ハイリスクハイリターンの仕事には必ず怪物が潜む

 



 最近はSNSを眺めていると気が滅入るような話題が流れてくる。特に自分より若い世代の人が「お金が足りない」といって、ハイリスクハイリターンの仕事に安易に手を出しているのを見ると、どことなくやるせなさを感じてしまう。そういう仕事は必ず善意の皮を被った怪物たちが後ろに潜んでいて、すぐに辞められると軽い気持ちで始めても、ずるずるとあの手この手を使われて深みへとのめり込ませていく。「何かあったら警察に頼れる」なんて思っていても、それすら奴らは封じて、横暴な要求を突きつけるようになる。そこに人間の善意なんて存在していない。そうやって追い込まれていった人間を見てきた。自業自得と言えばそれまでであるが、安直に未来を断つような選択をしないでほしいと祈ってしまうのだ。



  多少の直感とこれまで得てきた知識のおかげもあって、怪物たちに縛り付けられることなく、搾取されることなく、今一人で歩けている。これから先、欲が溢れ出る場面や精神的にぐらいついてしまう場面がきたとしても、変な脇道に迷い込むことなく、一番信頼できる自分という存在で真っすぐ道を切り開いていきたい。



 



(第20回へつづく)





文:神野藍





※毎週金曜日、午前8時に配信予定



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