■いきなりのAV新法可決によるAV業界の混乱

 



 「私たちが政権を取ったら、天下の悪法、AV新法を潰します!」



 10月17日、東京都内で開かれた行われた日本保守党の結党記念パーティーで、代表の百田尚樹氏は『全裸監督』のモデルでAV監督の村西とおる氏と共に壇上で叫んだ



 2022年7月、AVにスカウトされた女性を出演強要などの性被害から守るという趣旨で立憲民主党の塩村あやか参議院議員らは超党派の議員立法という形で、AV出演被害防止・救済法(以下、AV新法)を国会へ提出。

AV新法は審議を含めわずか1週間という異例のスピードで可決された。



 国会ではAV人権倫理機構に所属する人権派の弁護士や大学教授、婦人団体の意見を元に審議されたという。つまり、実際にAVの制作に関わる女優や製作スタッフの声はほとんど反映されずに可決されたのだった。



 そのため現場への影響を業界関係者のA氏は以下のように語る。



 「AV新法は実際のAV業界の撮影や販売習慣を反映しておらず、現場への周知の時間もなかったために大きな混乱をもたらしました。まず女優がAVプロダクションと契約後にAVメーカーに面接に行きます。作品への出演が決定してからは撮影まで1カ月間空ける必要があり、撮影後も4カ月は作品を販売してはならないという、いわゆる『1カ月・4カ月ルール』が設けられ、女優は出演契約から作品が発売されるまで約半年間も待たなければならなくなったんです。その間、女優は無条件に取り消しができるクーリングオフ制度も導入されました。あまりに急な施行であったために、現場ではすでに決まっていた撮影も数カ月先までキャンセルしなければなりませんでした。中には撮影が無くなり報酬が途絶えたため、引退に追い込まれる女優まで出てきてしまったんです」



 そもそも、AV新法が制定された背景には2016年に女優への出演の強制や出演料の未払いなどが問題となった事件がきっかけだと言われる。



 「ほとんどのAVプロダクションは契約により定められた出演料を女優に支払い、女優も合意の元でAVに出演をしていました。しかしこの事件が大きく報道されたことで、AV業界全体で女優への出演強要やギャラの未払いが頻発しているようなイメージを持たれてしまいました。

そのために、モデルプロダクション、制作会社、メーカーが一体となりAV業界全体で健全化とイメージの向上を目的に、第三者委員会となるAV人権倫理機構が設立されました」(A氏)



 これによりモデルプロダクションもAV人権倫理機構が定めた共通の契約書を使うこととなる。



「それまではごく一部、悪徳なプロダクションもあり、『モデル契約をしたら何年間も辞められない』『出演料の取り分はプロダクションが9割、モデルは1割』などと、悪質な契約条項が含まれている場合もありました。共通の契約書では『悪質な契約期間の禁止』『モデルへの出演料の最低基準』等の条件が定められ、業界全体にも浸透しました。これについては世間からのAV業界のイメージを向上させるという目的にも沿っており、多くの業界関係者も賛同しています」(A氏)



 しかしその一方で新たな問題が起こってきたという。



「AV新法」によりインディーズAVが続々摘発中!女優が食べて...の画像はこちら >>



■「適正AV」以外のインディーズAVはすべて違法か?



 「警察はAV新法が施行される数年前から、『カリビアンコム』など日本のAV女優が出演する海外の無修正アダルト動画サイトを問題視していました。これらのサイトはアメリカなど無修正作品が合法とされる国にサーバーがあり、日本でも視聴することができました。しかし日本の警察は何とかこれらの作品を撲滅したいと考えていたのです」(A氏) 



 そのため仮にサイトのサーバーが海外に設置されていても、日本で撮影され、作品タイトルや解説が日本語で書かれていれば、日本の法律に則って取り締まるという方針になったという。



 さらにAV新法施行前に、警察からAV業界団体に対し、このような『無修正作品』の販売を禁止すると通達がなされた。この警察の対応を受けて、AV業界内では、「AV人権倫理機構に入会して正規の審査団体の厳格な審査を受けた、『審査済のマーク』を付けた『適正AV』と呼ばれる作品でなければ違法なAVであると定義された。 



 しかしこの『適正AV』以外にも、インディーズ系と呼ばれる個人が制作する同人AVや個人撮影と呼ばれる素人AVがある。これらの作品は女の子のリアルな姿や内容の過激さに加え、お手軽にアダルト動画を観たいファンから支持を受け、作品数も急増している。しかしAV業界団体からはそれらは『無審査作品』と見なされ、制作・販売は違法である、と定義されているのだ。



 「この動きを追認するため、AVメーカーの自主審査機関である日本映像ソフト制作・販売倫理機構(JVPS)はモデルプロダクションに対し、インディーズ系と呼ばれる作品に女優を派遣したり、出演させたりしてはいけない、と通達を出したんです。警察に対してもインディーズ作品に出演しているモデルを積極的に取り締まるように働きかけているとも言われています。インディーズ作品に女優を出演させていたモデルプロダクションからは、AV業界団体の審査を受けていない『無審査作品』と、モザイク無しで違法な『無修正作品』はまったく違うものだ、という声も多いのですが『無審査作品はすべて違法で取り締まれ!』、みたいな動きになっている。確かにインディーズ作品は『FC2』や『Pornohub』などの動画サイトでの配信がメインで、モデルからはどこで配信されているかわからない、一部でギャラを払ってもらえなかったなどの声も聞いています。しかしそれは個別の事件を摘発すれば良いことで、出演するモデルまですべて一律に取り締まるなどの措置はやり過ぎだと感じますね」(A氏)



 しかし「適正AV」以外の作品を規制したことにより、拡大傾向にあった同人AVへの敵対意識が強まったり、単体女優と呼ばれる有名モデルが所属していないプロダクションの仕事が減るなどの弊害も出てきたりして、AV業界でも意見が分かれているのが現状である。





■現役国会議員からもAV新法の見直しを求める声が上がる



 AV新法により女優の出演被害や不当な契約を激減させたことには業界内でも評価する声は多い。しかし施行からすでに1年以上が経ち、AV業界からも法律の見直しを求めるべきだ、いう声が上がっているのが現状。



 「業界内でもすでに法律の趣旨は周知されていますが、あまりに性急に施行されたため、業界現場の意見や実態が反映されていません。ですからAV新法にも実態に沿った特例や改正ルールを設けてもらうような議論が今されています。AV業界に入ったばかりの新人モデルを法律で保護するという趣旨は理解できます。しかし既に一定期間活動をしてきたベテランの女優ならば自分の意志で出演しているのは明確です。ですからその場合は『1カ月、4カ月ルール』を撤廃して欲しいと関係各所と交渉をしているところなんです」(A氏)



 このAV新法の見直しについては11月13日に、「みんなでつくる党」の浜田聡参議院議員が国会で取り上げている。

「AV新法については規定により、法律が施行されてから2年以内となる2024年6月までに見直しが予定されている。業界の実態にそぐわない法律に対し、来年6月までに政府はどのような検討を進め、見直しをするのか」と、浜田氏からは質問がなされた。しかし政府側の答弁は「AVにスカウトされた女性を出演強要などの性被害から守る」という返答に終始し、AV業界の実態に沿った改善案などは提示されなかった。



 さらに浜田議員はアダルト動画配信の最大手であるFANZAによるAV配信市場の独占についても言及している。



 「この業界はFANZAの売り上げが7割以上を占めている独占市場であり、しかもFANZAに60%を超える手数料率を徴収されていることが判明している。実際にFANZAを運営するデジタルコマース社の売上げは1000億円を超えていると言われている。それにより、女優の取り分は16年前に比べて85%も減っており、作品売り上げの2~3%しかない。これが女優の収入を減少させ経済的貧困に追い込む原因の一つとなっている。だからといってFANZAに口応えしたり、文句を言ったら取引停止となり会社は即倒産となる」



と、指摘している。そのため現状では「適正AV」を配信し市場を独占するFANZAを中心に作られた枠組みに入らざるをえないというのである。





■インディーズ作品の取り締まりで地下に潜る可能性も



「AV業界内には『インディーズAV』への取り締まりを強化して撲滅することで、『適正AV』市場が拡大すると考える人も多いのですが、これは楽観的過ぎる見方でしょう。それにインディーズAVの摘発を強化するほど違法な撮影の作品も増え、より一層地下に潜ることが予想され女優が危険にさらされる可能性も増えるでしょう。

これではAV新法が女優の保護を目的としていたのに本末転倒となってしまいます」(A氏)



 インディーズ作品の撲滅に動くのか、それとも共存の道を選びAV市場を活性化させるのか、来年6月までのAV新法改正と共にAV業界の動きが注目される。





文:初田宗久

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