2023年8月、新宿歌舞伎町に誕生したシアターミラノ座で、関ジャニ∞安田章大の主演舞台『少女都市からの呼び声』を鑑賞した。唐十郎原作で初演は1985年。
同時に、その主演に安田を据えることにも非常に納得感があった。唐十郎の息子・大鶴佐助と親交があり、唐組に大変な関心を持っているというのがキャスティングの理由だそうだが、安田のアイドルとしてのあり方という面から見ても、このテーマには適任だろうと思う。
旧ジャニーズが屋号を下ろし、「関ジャニ∞」というグループ名ももうすぐ変更になるというタイミングだが、旧ジャニーズの伝統の中を脈々と流れる女性性・クィア史をここでまとめておきたい。
クィアは非典型な性をもつ人々を表す言葉だ。今でこそ多様な性のあり方が広く受け入れられるようになったが、旧ジャニーズには、古典的な男性性にとらわれない表現を先駆けて取り入れてきたタレントが多くいた。ホモソーシャルな体質をもつ事務所ではある一方で、男性のみで構成される集団だからこそ、その中でのグラデーションが生まれやすい。
性自認と性的嗜好については、LGBTQを公表しているタレントが現時点でいないのでここでは触れない。あくまでも観客から見えるファッションやキャラクターに焦点を当てていく。
古くは郷ひろみ、そして光GENJIやV6のComing Centuryなど、子どもっぽい可愛さはジャニーズ事務所の得意分野の一つだった。しかしこの類の“可愛さ”は、男性性・女性性とは関係がない。
いち早く己の中の女性性を見出したのは、KinKi Kids堂本剛だ。
2000年代に入ると、前述の関ジャニ∞安田、そしてKAT-TUN上田竜也が、それぞれグループの“可愛いキャラ担当”として認知されるようになる。ただし現在いずれも女性的な可愛さとはかけ離れた立ち位置にいることからわかる通り、芯からの自己表現だった堂本剛とは違い、安田と上田の“可愛いキャラ”は個性を打ち出す戦略であった。
ファンに“甘栗”と呼ばれている時期の上田は、まるで女性と見紛うようなビジュアル。対して安田は、体は小さいものの顔立ちや骨格が男性的なため、堂本剛のような男性性と女性性をミックスしたクィア的原宿系ファッションに身を包んでいた。上田は「~again」、安田は「わたし鏡」という、いずれも本人作詞の女性一人称のソロ曲を持っている。
関ジャニ∞を初期に脱退した内博貴が、メンバーカラーピンク、可愛いもの好き、最年少でメンバーからも可愛がられていたという、まさに現在でいう「姫ポジ」の王道だったため、安田のキャラづけは内の埋め合わせという面もあったかもしれない。かつてはバラエティ番組などで「オネエ疑惑」とイジられ、現在でもレディース服やネイルといった、性規範にとらわれない自己表現をしている安田が、冒頭で触れた「男性の中の女性性」を体現する役を演じる意義は大変大きい。
安田・上田よりは“可愛いキャラ”のイメージは薄いが、嵐二宮和也もクィア文脈に含めてよいだろう。自身作詞のソロ曲「虹」と「Gimmick Game」は女性視点であり、ファンの間では「女子宮」「あざと宮」と呼ばれることもあった。
さらに、中性的なビジュアルは元NEWS手越祐也、クィア的なファッションはNEWS増田貴久やWEST.(旧ジャニーズWEST)神山智洋も担ってきた。安田・増田・神山は衣装でスカートを履きこなすこともあった。まだ2010年前後の話だ。
2015年、Hey!Say!JUMP伊野尾慧が茶髪マッシュのヘアスタイルで「女の子みたい」と話題になってブレイクすると、風向きが変化する。伊野尾を筆頭に、Hey!Say!JUMPには中性的な美貌をもつ山田涼介や、身長159cmと小柄な知念侑李など、フェミニンな魅力のあるメンバーが揃っている(もちろん全員ではないが)。彼らはグループ単位で女性的な可愛らしさを表現することができた。クィアファッションの系譜はここで鳴りを潜める。
ちなみに伊野尾のブレイクと時を同じくして、今では故人となってしまったりゅうちぇるがテレビで引っ張りだこになっていた。さらに、男性的なかっこいい魅力をもつ女性アイドル・欅坂46平手友梨奈がデビュー。まさに現在につながる多様な性のあり方がメインストリームで盛り上がってきた時期だった。
上田・伊野尾のような女性と見紛うビジュアルをもつアイドルとして、元King & Prince岩橋玄樹もいた。国民的認知を得る前に脱退してしまったのが口惜しい。
なにわ男子大西流星は、ビジュアルの可愛さだけでなく、メンズメイクの知識で活躍の場を広げている。かつて旧ジャニーズタレントの性規範にとらわれない表現はファッションが中心だったが、現在はメイク・美容へと移り変わっている。
世界を席巻するK-POPに目を転じると、可愛らしいビジュアルの先駆けはSUPER JUNIORのリョウクだろうか。BTSで中性的な印象を受けるのは、曲線的な骨格と透き通った高音ボイスをもつジミンだ。
SEVENTEENジョンハンとスングァン、Stray Kidsフィリックス、THE BOYZニュー、ATEEZヨサンなど、どのグループにも中性的な外見やキャラクターのメンバーがいる。現在総勢20名のNCTでは、テン、ウィンウィン、ジョンウ、ロンジュンとずらりと挙げることができる。
2020年代の今、「姫ポジ」は男性アイドルグループに必要不可欠な存在と言えるだろう。
現在旧ジャニーズでクィアの最先端を走っているのが、関西Jr.の伯井太陽(ひかる)だ。2011年生まれの12歳ながら、ダンスコンテストで数々の優勝を掴んできた実力者。耳の上を刈り上げて後ろ髪を伸ばした特徴的な髪型が目を引く。
大きく揺れる旧ジャニーズだが、この大魚を逃さず育て上げられるか。「姫ポジ」の先を見せる、新たなアイドルのブレイクを期待している。
文:梁木みのり