元TBSワシントン支局長でフリージャーナリストの山口敬之氏が、れいわ新選組共同代表の大石晃子衆議院議員を名誉教授で訴えた裁判が、3月13日東京高裁で開かれ判決が出された。この裁判は、2019年12月19日に大石議員が代議士になる前にTwitter(現在のX)へ投稿した内容が、山口氏の名誉を傷つけたというもの。
「元TBS記者で安倍総理の御用、山口敬之氏。伊藤詩織さんに対して計画的な強姦をおこなった。その山口氏側の敗訴不服の記者会見に、伊藤詩織さんが出席している。強くて真っすぐな人だ。たくさんの絶望を支援者と乗り越えてきたんだろうな。」(大石あきこ議員のXより引用)
「山口敬之。1億円超のスラップ訴訟を伊藤さんに仕掛けた、とことんまで人を暴力で屈服させようという思い上がったクソ野郎。そんな奴が、安倍政権を支えている。絶対許せない。怒りはこんな言葉では言い表せない。」(大石あきこ議員のXより引用)
大石議員側は「事実に誤りがない限り、論評は自由。いずれのツイートも公正な論評である」とし、請求棄却を求めていた。
◾️一審では大石議員側に22万円の損害賠償命令の判決
2023年7月18日東京地方裁判所で一審の判決が出された。それによると、大石議員がXの投稿で、「元TBS記者で安倍総理の御用、山口敬之氏。伊藤詩織さんに対して計画的な強姦をおこなった」「1億円超のスラップ訴訟を伊藤さんに仕掛けた」という点は、「重要な部分は真実と認められる」と判断したが、「くそ野郎」は「全体として人身攻撃に及んでおり、意見・論評の域を超えている」として、名誉毀損と名誉感情の侵害が成立すると判断した。
地裁は、大石議員に22万円の賠償と投稿の削除を命じ、山口氏の勝訴となった。大石議員側は判決を不服とし、一方山口氏側も賠償金額が少ないとして双方が控訴していた。

◾️一審判決が覆った理由を大石議員側が記者会見で説明
高裁では一審判決を支持せず、大石議員側の全面勝訴という結果になった。一審で指摘された「くそ野郎」発言だが、高裁では「論評の域を脱していない」としている。この判決が出た後、記者会見を行った大石議員側の代理人である佃克彦弁護士は以下のように述べている。
「『くそ野郎』が言いすぎかどうかというところについては、その『くそ野郎』という4文字を見ても仕方ありません。
何について『くそ野郎』と言ったのかというところが、検討されないといけないところでした。そこを今回の高等裁判所はきちんと検討して判断をしてくれたわけです」
佃弁護士は、高裁が山口氏と伊藤詩織氏との関係を見たとしている。山口氏は、伊藤氏に対して彼女の同意がないまま性行為に及んだ。
こうした山口氏の行動を見た上での「くそ野郎」は、論評の域を逸脱したものとは言えないと判断したという。「くそ野郎」の4文字だけを見ると不当判決のように見えるが、山口敬之氏の2019年当時の行動を見て、あまりにも良識に欠けていたと判断したのだろう。
ただ「くそ野郎」という表現は、通常であれば山口氏の社会的な評価を下げてしまう。しかし名誉毀損というのは、公益目的の論評であった場合は適法であるとか考えられる。今回の訴訟では「公益目的」であったと認められたので大石議員側が勝訴した格好だ。
佃克彦弁護士は会見で一審と二審の違いについて以下のように述べた。
「一審判決をもらったときに思ったのが「くそ野郎」というその語感に対して、非常に心理的な反発をして違法だと判断したのではないかという印象を受けたのです。裁判長の「くそ野郎」は論評の域を逸脱しているという説明に説得力があんまり感じられませんでした。
一方、高裁では、どんな理由で「くそ野郎」と言ったのかを認識した上で、発言について論評の域を逸脱したとまでは言えないだろうと判断をしてくれました。
その違いはどこから出てくるのかというと、やはりこの事件全体を見たときの裁判所の正義感というか、あるいは裁判所のリーガルマインドが一審と二審では違ったんじゃないのかなというふうに想像します」

◾️該当ツイートだけで判断しなかった裁判所
大石議員側からの説明が終わった後に行われた質疑応答では、やはり「くそ野郎」について疑問を呈する声も上がった。フリージャーナリストの田中龍作氏は「一審判決では「くそ野郎」が名誉毀損にあたったのに、どうして高裁では認められたのか?」改めて質問してきた。
佃弁護士は先述した「何についてくそ野郎と言ったのかについて」を高裁がしっかりと判断した点だと回答。大石議員は「私見です」と述べた上で見解を語った。
「『1億円超のスラップ訴訟を伊藤さんに仕掛けた。とことんまで人を暴力で屈服させようという思い上がったくそ野郎』というツイートは、「思い上がった」までは許されても『くそ野郎』の4文字は駄目だっていう一審に対して、二審が当たり前といえば当たり前ですよねと判断してくれた。私はわかりやすく、悪いことをしたら反省しないとダメだと言う言論は、非常に大事だと思いますのでその言論の幅といいますか、合理性というものを、今回判決で認められたというのは非常に大きなことだと思います」
このように高裁の判断を支持した。
さらに例として伊藤詩織氏が自民党杉田水脈衆議院議員に対して起こした訴訟も似たような判断だと述べている。伊藤詩織氏は、杉田議員が自身を誹謗中傷するツイートに対して「いいね」を押したことで名誉を傷つけたとし、訴訟を起こしていた。裁判は伊藤氏側が勝訴している。この結果に杉田議員の支持者から、「いいね」をしただけで裁判に負けるのはおかしいという意見も出ていた。
「杉田議員がずっと伊藤さんを攻撃していたという一連の流れがあって、その中の一つがその(判決文の)終盤を構成するんですけど、終盤にその大量の悪口ツイートに対する大量のいいねという事柄がありました。
その全体の流れの中で「いいね」を見ると、どう考えても杉田氏が伊藤さんに対して加害をしている。加害の目的を持って「いいね」をしているというふうに見えた事案だったということです」
つまり、杉田議員が伊藤氏をTwitter以外でも誹謗中傷していた点を考慮したということである。彼女が伊藤氏へ悪意を持って攻撃していたのは明白な事実であり、証拠も多数残っている。司法は該当部分のみを見たわけではなかったということだろう。
それが今回の裁判でも判決の要素になったというわけだ。

最後にフリー記者より「大石議員は品がない」と苦言を呈されるシーンも出てきたが、当人は「純粋なアドバイス、ご意見として重要だと思っています」と返して会見は終了した。
一方、原告である山口敬之氏は、判決について一言もコメントを発していない。Xでも、Facebookでも、YouTubeでも、メールマガジンでも何も述べていない。上告するのかどうかも不明である。
今回の裁判で改めて認識したのは、全体を見て判断することが重要であるということだ。
文:篁五郎