「女性は性的に無垢である」という偏見と性産業差別 「AV新...の画像はこちら >>



 



 「AV産業の適正化を考える会」が4月4日、都内で第2回「人権保護とAV製作を両立するにはどのようなルールが必要か?~ポスト適正AVにおける出演被害対策と表現の自由・職業選択の自由の両立について考える~」を開催した。



 このシンポジウムは、AV出演被害防止・救済法、いわゆるAV新法の問題点について意見交換をする会である。

内容は、各分野の有識者が国会議員へ説明をした後、お互いにディスカッションを交わす形式で行われた。シンポジウムには、同会の発起人であるAV監督の二村ヒトシ氏、セクシー女優の星乃莉子氏が参加。パネリストとして、制度アナリストの宇佐美典也氏、同会顧問で弁護士の平裕介氏、「エンターテインメント表現の自由の会」の坂井崇俊代表、関西大学社会学部の守如子教授がプレゼンをした。政治家の側からは、立憲民主党の川田龍平参議院議員(オンライン)、日本維新の会の堀場さち子衆議院議員、国民民主党のたるい良和元衆議院議員、NHKから国民を守る党の浜田聡参議院議員が出席した。



 



◾️18-19歳が対象だった規制を全年齢に引き上げたのは自民党と公明党



  AV新法は、施行後2年となる2024年6月の見直しが規定されている。同法をつくった関係議員は



 



①性行為映像制作物の公表期間について「○年以内」としなければならない旨の規定を設ける



②性交を実際に行う、いわゆる本番行為の撮影を内容とする契約のあり方について検討を行う



 



などとしている。

AV産業の適正化を考える会は、同法で規定された撮影禁止期間(1カ月)や公表禁止期間(4カ月)の“1カ月・4カ月ルール”など過度の規制が多様な働き方を妨げ、憲法22条の「職業選択の自由」に基づく「営業の自由」に反すると訴えており、同法改正を望む署名活動を行っている。 



 最初のパネリストとして登場した宇佐美氏は、AV業界が自主規制をしてきた経緯を説明。きっかけは、2016年に起きた大手AVプロダクションによる出演強要事件だという。内閣府男女共同参画局によるAV出演強要問題に関する実態調査が行われ、業界も自主規制が必要だと判断したという。規制によって出演強要をなくすのはもちろん、出演者の希望によって作品の販売休止も可能になった。これらの自主規制を行うAVを「適正AV」と呼んでいる。





「女性は性的に無垢である」という偏見と性産業差別  「AV新法」の暴かれた杜撰な中身【篁五郎】
筆者撮影:AV新法の問題点を指摘する宇佐美典也氏



 そんな中、2022年6月にAV新法が制定された。元々は成人年齢の引き下げに伴う問題点として立憲民主党が提示をし、岸田首相が前向きな姿勢を示す形でスタートした。元々適正AV業界は、自主規制によって18~19歳を出さないという方針を示しており、規制を守ろうとしない悪質業者や個人が法によって網にかかる優れた提案だったという。



 しかし自民党と公明党が「全年齢」に対象を広げたことで、業界へ大打撃を与えたと指摘。以前から言われていた同法の問題点である出演者への契約書の交付・説明義務、契約から撮影まで1カ月、公表まで4カ月というルールを課されることによって、甚大な被害をもたらした。



 AV新法制定後、作品数の減少、一部人気女優へ出演が集中し中堅・新人女優が適正AVでの仕事量が激減するという事態になった。

それに伴い、危険な同人AVへの出演や海外売春へ流れる現象が起きている。宇佐美氏は、18~19歳に対する前提を全年齢に拡大したことによってダメージを受けている点を指摘。過剰な規制は「自由権」を侵害していると述べた。



「女性は性的に無垢である」という偏見と性産業差別  「AV新法」の暴かれた杜撰な中身【篁五郎】
筆者撮影:平祐介弁護士



 



◾️憲法遵守すらできていない法律がAV新法だった!



 パネリストのひとり、平祐介弁護士は、AV新法の恐るべき欠陥を明らかにした。法律は条文1条ごとに意味や解釈等を解説している資料があり、法曹では逐条解説と呼んでいる。例えば、風営法には職業選択の自由とか表現の自由といった文言が出てくるのだが、AV新法に関しては「職業選択の自由」「表現の自由」といった言葉が一つも出てこなかったそうだ。



 平弁護士はこれには驚いたと語った。「これ(AV新法)を主導的に作った国会の先生方は、制限される側の人権について一切考慮をしなかった。その証拠ではないか」と批判。さらに「法律というルールを作る場合、制限によって守られる側、制限される側双方がプロセスの段階で対等な立場で議論を尽くし、情報が質量ともに十分に収集されてから制定すべき」と述べ、今回のAV新法には全くできていないと指摘。速やかに憲法遵守義務に則った内容の法改正を希望した。





◾️「女性は性的に無垢である」という偏見で性産業は差別されてきた



 その後は、「エンターテイメント表現の自由の会」代表の坂井崇敏氏によるパネルディスカッションがスタート。

表現は「上から目線の価値観で規制されてきたと感じている」と述べ、具体例を上げて表現規制の歴史を語った。現在は今まで以上に厳しくなっており、クレジットカード会社が、ダウンロードサイトの文言に対して「表現を変更しなさい」という規制をかけてきたという。性産業に対しても同様の規制が入る可能性を示唆した。 



 最後に関西大学社会学部守如子教授からは「女性たちの中にも、AVを見ている人がいるっていうことを忘れずに議論していく必要がある」と提言。男性には性的な自由を認めてきたが、女性は性的に無垢であるはずという偏見によって性産業は差別されてきたと述べた。AV新法についても、性産業で働く女性はイヤイヤ働いているという色眼鏡で見られている。

そんな間違った見方で現在性産業で働く女性を救うという救済的な視点に立っているという。





「女性は性的に無垢である」という偏見と性産業差別  「AV新法」の暴かれた杜撰な中身【篁五郎】
筆者撮影:パネルを使って説明している守如子関西大学社会学部教授



 AV新法の問題点についても救済的視点に立っていることを挙げ、「性産業で働く当事者、特に出演される方々の視点が置き去りになっていることが一番の大きな問題ではないか」と指摘した。守教授が指摘したことはパネラー全員が異口同音に問題点として挙げている。



「女性は性的に無垢である」という偏見と性産業差別  「AV新法」の暴かれた杜撰な中身【篁五郎】
筆者撮影:現場からの声を訴える星乃莉子氏



 



◾️立憲民主党をスケープゴートにして隠れている自民党と公明党

 



 参加した政治家からも「改正は必要」といった声がシンポジウムの最中から出ており、日本維新の会、浜田聡参議院議員が改正案を作成中だそうだ。立憲民主党の川田龍平参議院議員は「当初の規制から、法規制が大きくなったと感じます。業界の皆さんの意見を聞く時間がなかった、拙速に決めたところがあると思う」と検証が必要と述べた。日本維新の会の堀場さち子衆院議員は「法律があって(女性を)守ることができれば良いという1つの論点があった。労働として、女性が選択肢として持っておくべきだと考えている。非常に困っている人がいることもしっかり理解し、改正も頑張らせていただきたい」と語った。



 国民民主党の前衆議院議員・たるい良和氏は「AV業界で働いている人が職をなくしたら介護職員でもなればいいという国会議員もいる。でも、こっちが崇高な仕事で、こっちは駄目みたいなこと言ったらいけません。本当に強く思いますし、これはAV業界を潰しにかかってる法律だと思います」と語り、党へ持ち帰って提案すると約束した。



 同シンポジウムには、現職のセクシー女優・星乃莉子氏も当事者として発言している。



「私たちを全く知らない人から、職業の決めつけで制限される。真剣に取り組んでいる人たちでさえ、被害者だと決めつけてしまうところに、悲しいというか尊厳を害されている感じがする」



 星乃氏はAVに出演していることで被害者だと決めつけられていると訴えた。



 「生活に関わり、人生を左右する…女性1人の人生、尊厳を左右する。(それを)たった3カ月(の審議)で決めるのではなく、当事者の意見を聞いてほしい。私の表現の仕方、自由が奪われる。自分の人生を考えるきっかけになった。国会の方々に自分たちの小さい声が届くことを願っています」



 上記のように強い言葉で同法の改正を望んだ。



 宇佐美典也氏はシンポジウム終了後、メディアの取材に応じ、現状は立憲民主党をスケープゴートにして自公は隠れていると批判。自民党の牧原秀樹衆議院が、3月15日に投稿したX(旧Twitter)で「全会一致で成立した議員立法ですので改正するにしても全会一致が基本」と断言したが、宇佐美氏は「全会一致である必要はない」と否定した。さらに「ごまかさないで自民と公明は動いてください」と指摘。「自公による人権侵害と言ってもいいのか?」という問いには「大丈夫です」と答えた。



 自民党と公明党は「野党の理解が」と責任逃れをせず、現場からのヒアリングをして法改正をすべきだ。「表現の自由」、「職業選択の自由」は守られて当然である。できないなら憲法遵守義務違反なのを肝に銘じてほしい。





文:篁五郎