早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。
✴︎連載全50回分を加筆修正し、書き下ろし原稿を加えて一冊に編んだ単行本『私をほどく~ AV女優「渡辺まお」回顧録~』が6月17日に発売決定・予約開始!作家・鈴木涼美さんも絶賛した衝撃エッセイ!
あの頃の私へ
お元気ですか? デビューして4年、引退して2年が経過した今、この手紙を書いています。
デビューしたあの頃、貴方の世界はがらりと変わり、今まで言われたことがないような誹謗中傷を浴びせられ、文字通り全てをこの世の中に晒し、晒されてしまった。
怖かったし、苦しかった。でも誰にもそんな感情を漏らすことなく、「そんなこと言うやつのお陰で売れてよかった」と気丈に振る舞ってたのを覚えています。
「専属だからもう少し努力しないと」という言葉で全て片付けていたけれど、デビューして1ヶ月で落ちた5kgの体重は努力なんかではなく、私の心の悲鳴でした。
何かあったときに人を頼れないのは私らしいなと思うけれど、もう少し年齢相応に騒いで、感情を飲み込まずに素直に傷ついたと言っていればと今でも考えます。
でも、あのとき絶望から這い上がり、戦い続けたから今の私がちゃんと生きています。未来へ時間を続けてくれて本当にありがとう。貴方の苦しみは私が責任を持って引き受けます。
あの2年間にあったもの。
現場の人やマネージャーからの褒め言葉、クラファンの成功、ファンの人からもらう応援の言葉、「楽しい」と素直に思ったきらきらとした眩しい時間。
「私なんてもう幸せになれない」と咽び泣いた夜、かつての友人からの「セックスさせて欲しい」という嘆願、何日も消えなかった内出血の跡、数え切れないくらいの誹謗中傷、手放せなくなった睡眠薬。
眩しさの反面、深い影が纏わりついて貴方を苦しませていると思います。
それは今も変わりません。苦しかった記憶を辿れば、今も涙が出てきます。活動した期間と同じくらいの時間が経てば、傷は癒えるだろうと思っていたけれど、それは少し見通しが甘かったと思いました。しかしながら、ただ苦しむだけではありません。膿んだ傷口はいつのまにか分厚い瘡蓋を作り、徐々に痛みが薄れていっています。少しずつ苦しみを手放すことができています。
「私なんかが幸せになれない」
そんなことを二度と口にしないで欲しい、私からのお願いです。
私がそう思って諦めているうちは、何も手に入らないし、寄ってくるのは隙あれば貴方を貶めるか、首輪をつけようとしてくる人間ばかりで、貴方が求めているものがどんどん遠くなるばかり。
今の私はとても幸せです。
大事な人たちが私の周りで支えてくれていて、「助けて」といえば、すぐに駆けつけてくれるような人たちです。誰も貴方の過去を笑ったり気にしたりすることはありません。
あの頃より私は笑えています。ちゃんと等身大の私として、今の時間をしっかりと歩んでいます。
貴方がいたから今の私がいます。渡辺まおとして、生きてくれてありがとう。
私はいつまでも絶対の味方です。
私より
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読者の皆様、『私をほどく』を読んでいただきありがとうございます。
50回の節目、そして最終回を無事迎えることができました。
書くという行為を通じて、私が抱えている言葉にできない苦しみと向き合うことができればと思い『私をほどく』というタイトルをつけました。その願い通りの内容となったかと思います。
ここに書かれていることはすぐに役立つわけでも、万人の悩みに寄り添うものでもありません。しかしながらその種類や深さは違えど誰しもが傷を抱えて生きているこの世の中で、
真正面から傷と向き合う過程を言葉にして発信することによって、これを読んだ誰かが一歩踏み出すきっかけになれればと思い書き続けてきました。
一年前に想像していた未来とは全く違う場所に今私は立っています。
それが「私をほどいた結果」で、人生の一区切りを迎えたような清々しい気持ちで溢れています。
連載という形は終了となりますが、私が私と向き合う旅は一生続いていくでしょう。
改めて、『私をほどく』を読んでいただき本当にありがとうございました。
これからも神野藍をよろしくお願いいたします。
2024.05.24 神野藍
文:神野藍
※連載「私をほどく」は今回で最終回となります