2024年7月3日にマクドナルドからチョコミントフラッペが、7月9日にハーゲンダッツからショコラミントクランチバーが、それぞれ期間限定商品として発売された。
5月には、ファミリーマートで初のチョコミントフェアが開催されたことも記憶に新しい。
2010年代から徐々に根強いファンを増やしてきた、チョコミントフレーバー。2024年はついにその人気が爆発し、メジャーシーンへ躍り出た年と言える。
かく言う筆者もいわゆる〈チョコミン党〉の一人だ。〈チョコミン党〉として少し思うところがある。こんなにもメジャーシーンで活躍するようになったチョコミントだが、筆者の会社の同僚(筆者を含めて4人)のうち、3人は苦手で食べられないと言うのだ。いわく常套句、「歯磨き粉の味がする」。
超大手コンビニ、天下のマック、世界のハーゲンダッツがキャンペーン商品として大々的に売り出している味なのに、4人中3人が「食べられない」とはいかがなものか。いや、3人を責めているわけではない。決して少なくない人数が「食べられない」味なのに、有名チェーンが次々とキャンペーンに採用しているのが不思議なのだ。
この現象に、筆者は昨今の“推し”ブームとの共通点を見出した。
ある音楽番組にて、旧ジャニーズグループの出演組数が大幅に減り、かわりにK-POPグループが多く出演したことに、さまざまな不満の声が上がった。
そしてどちらのファンでもない視聴者からすれば、もちろん「どっちも興味ない」。Xでは「音楽サブスクの日本のヒット曲を上から順にやればいい」といったポストも目にした。
ではなぜ音楽番組は、サブスクのトップアーティストではなく、アイドルを出演させるのか。それは簡単、有名なポップスを日頃聴いている人たちは、そのアーティストがテレビに出るからと言って必ずしも見るわけではない。一方でアイドルのファンは、推しがテレビに出れば“必ず見る”からだ。
歴史的に、アイドルはそもそも「大人には理解されないもの」だ。大人という仮想敵がいると、ファンの気持ちはよりいっそう燃え上がる。何にしても、やるなと言われるほどやりたくなるように。
そして、大人にわかってもらえないファン同士は連帯する。「敵と戦う」という目的があると、連帯感・所属感はより強くなりやすい。
アイドルを“応援する”という言葉からしてその通りだ。
「歯磨き粉みたい」と嫌われながら、同志たちは〈チョコミン党〉という名のもとに集って連帯する。……つまり、チョコミントフレーバーのファンたちは、単なる食べ物の好き嫌いを超えて、まさにチョコミントを“応援”し、“推し”ている。
どんなにその味に興味がない、いや嫌ってすらいる人が多かろうと、ファンはチョコミント味の商品を“必ず買う”。だから有名チェーンのキャンペーンとして成り立つのだ。
バニラ味やイチゴ味がどんなに広く愛されていようと、チョコミン党のように“必ず買う”という人はそう多くはないはずだ。
アイドルという存在自体に限らず、アイドル個人を見ても、チョコミントのような現象が起こっている例がある。
たとえばなにわ男子。人気だと思われそうなメンバーを挙げると、デビュー時のセンターは西畑大吾、一般的な知名度ダントツ1位は道枝駿佑だ。
しかし、コアファン内で道枝と同じくらい、いやそれ以上に人気とされているのが、「プリン食べすぎてお尻プリンプリン」の自己紹介ギャグで知られる、癒しマスコット系の大橋和也なのだ。
大橋は正統派の美形でも、正統派のイケメンキャラでもないが、だからこそファンの心をくすぐって離さない独自の魅力がある。
雑なたとえにはなるが、西畑がアイスのバニラ味、道枝がイチゴ味、そして大橋がチョコミント味なのではないか。
また、アニメ化もされた人気漫画『推しが武道館いってくれたら死ぬ』で主人公のえりぴよが推しているアイドル・舞菜は、7人グループの中でもダントツで人気最下位という設定だ。
人気がないからこそ推しがいがあり、そのファン活動は、ドラマチックなストーリーとして描くことができる。
アイドルはセンター級の美形だけが正解ではない。主役にはなれそうもないアイドルにこそ、ファン心理は掻き立てられるのだ。
チョコミントはこういった、逆境の中にいる誰か・何かを応援したい、そして一緒に応援してくれる味方と連帯したいという、“推し”ブーム時代の消費者心理を、食べ物のフィールドであぶり出している存在ではないだろうか。
似た食べ物としてはパクチーが思い浮かぶが、ヘルシーな野菜に対して、やはりスイーツの依存性は段違いだ。キラキラした衣装をまとっているかのように。
きのこの山vsたけのこの里論争も、応援・連帯が激化する場だ。しかし、二派で争う構図はアイドル界でも少し古い(KinKi Kidsの光一派・剛派、モーニング娘。の辻派・加護派、KAT-TUNの赤西派・亀梨派、AKB48の前田派・大島派など)。
〈チョコミン党〉こそ、「世の中の大半の人に理解されない」という逆境の大海原へ漕ぎ出し、隠れている仲間をどんどん見つけ出して連帯を広げる、強力なファンダムだ。彼らの“推し活”は、まだまだ続いていく。
文:梁木みのり