7月の都知事選で小池百合子が三選を果たした。学歴詐称が疑われる「カイロ大学卒業」も選挙公報に堂々と記し、押し切った形だ。

しかし、その疑いは依然として晴れていない。それどころか小池百合子の学歴詐称疑惑はもう一つあるのはご存知だろうか。カイロ大学前に在籍し、これも卒業を自称する「カイロ・アメリカン大学」を巡る経歴である。新刊『エジプトの国家エージェント 小池百合子』(ベスト新書)からBEST T!MES編集部が抜粋・編集してお届けする。



■「カイロ・アメリカン大学東洋学科卒」とも自称

 小池百合子がカイロ大学入学前に通ったとされる「カイロ・アメリカン大学(American University in Cairo)」での学歴について検証してみよう。



 書籍・雑誌等でのプロフィール欄、政治家としての学歴表記、インタビューでの発言を以下にまとめた。



❶ 1971年10月 カイロ・アメリカン大学入学



❷ 1971年11月 カイロ・アメリカン大学東洋学入学



❸ 1971年 カイロ・アメリカン大学東洋学科入学(翌年終了)



❹ 1972年 カイロ・アメリカン大学東洋学科卒業



❺ 1972年6月 カイロ・アメリカン大学アラビア速修科



❻ 1972年9月まで カイロ・アメリカン大学で一年間のアラビア語特訓



❼ 1972 Arabic Intensive Course, Oriental Studies, American University of Cairo, Egypt.



❽ 1976年 カイロ・アメリカン大学 東洋学科卒業



 以上のとおり、入学時期も卒業時期も、専攻した学科さえもバラバラな情報がみつかる。ただ、長年、学歴に記されていたのは❹の東洋学科卒業である。



 事実はカイロ・アメリカン大学の公式ウェブサイトをみれば簡単にわかる。



 アメリカン大学でアラビア語を学んだ著名人の紹介欄に「YURIKO KOIKE(ALU '71)」とある。



 ALU(Arabic Language Unit)とは、同大アラビア語教育学科に付属する外国人向けアラビア語ユニット(=学習)講座の名称だ。入学試験もなく、申し込めば原則誰でも入れるノン・ディグリー(非学位)コースである。



 ここでは、最長の3年の上級コースを終えても、大学卒業(=学士号取得)とはいえない。



 学位がとれ、卒業といえるのは、同大の文学部アラブ研究学科学士号やTAFL(外国語としてのアラビア語教育法)修士号だ。アラビア語を学ぶためではなく、アラビア語を言語・文学として研究する、あるいはアラビア語教師を育成する専門課程である。



 日本でいえば、国文学部や日本語教育学科に相当する。



 小池のエジプトでのカイロ・アメリカン大東洋学科卒の学歴は、日本で例えるなら、ある大学の外国人向け日本語初級講座に参加したから、その「大学の国文科を卒業した」と言い張っているようなものだ。



 しかも、卒業したという肝心の「東洋学科」は存在すらしない。同大の沿革を子細にみると、1921年に名前の似ている「東洋学部」が設立されているが、1956年にアラビア語研究センターと名称変更し、文理学部に編入されている。その後同センターは1970年代、アラビア語教育学科と変更され、現在に至る。



 かつて存在した学部の名称を用い、「東洋学科卒」と学歴を水増ししたかったのだろうか。





■大学の公式発表と食い違う修了年

【ゴリ押し三選】小池百合子の学歴詐称はもう一つあった!「カイ...の画像はこちら >>



 とはいえ、首相官邸ウェブサイト(英語)には「東洋学(Oriental Studies)」という学歴(❼1972 Arabic Intensive Course, Oriental Studies, American University of Cairo, Egypt.)が掲載されている。



 この内容を検証しておこう。



 東洋学の前にある「Arabic Intensive Course(アラビア語集中コース)」は、ほぼ正しい表記といえる。

アメリカン大学のウェブサイトで、小池が在籍したと発表したALU(アラビア語ユニット)提供の講座名を調べると、語順は違うが「Intensive Arabic Course(集中アラビア語コース)」は存在する。



 おそらく入閣時のチェックで東洋学科卒の真偽が指摘され、卒業の表記は消して、自身が覚えていたコース名に修正したものだろう。



 ただ、修了年が大学の公式発表とは異なる。アメリカン大学は1971年と記し、小池は1972年と書いている。



 そもそも1971年が正しければ、アラビア語講座も修了していないことになる。「1971年度」の講座生との解釈もできるが、同講座を修了したアメリカの著名なジャーナリスト(ピューリッツァー賞を3度受賞したトーマス・フリードマン)の経歴をチェックすると、大学と本人発表の修了年が一致している(当然だが……)。



 ルームメイトだった北原氏の証言では「カイロ・アメリカン大学に通った数か月」(文藝春秋「小池百合子『虚飾の履歴書』石井妙子」2018年7月号)と小池は語ったとある。北原氏によれば、当時の「アラビア語の能力は……3歳児レベルでした。『このお肉を1㎏ください』『お砂糖を一袋ください』など、お使い程度の日常会話ならできる程度」(「FRIDAY」ネット版2024年5月17日)



 数カ月の在学を正しいとすれば、「本人証言❶1971年10月または❷1971年11月入学+北原証言の数カ月」=「大学発表の1971年在学」とぴったり一致する。



 一方、自叙伝『振り袖、ピラミッドを登る』(講談社)には「1972年9月。一年間のアラビア語特訓をカイロにあるアメリカ大学で終えた私」と言いきっている。これが本当であれば、北原氏の言うような稚拙な語学力であるはずはない。



 自叙伝はこう続く。



《アメリカ大学でのアラビア語特訓を終え、カイロ大学で初授業に耳を傾けた…二時間近い授業の間に理解できたのは、「そして」「しかし」「つまり」など、2、3の接続詞と、「今日はこれまで」の終わりの合図だけ》



 語学力のなさを自ら認めている点は評価できるが、今度は、自身が語る特訓の内容=アメリカン大学「集中アラビア語初級コース」の学習達成要領(以下)と矛盾してしまう。



《主に現代標準アラビア語に重点を置くが、エジプト口語アラビア語の授業も同時に実施(授業時間の約30%が口語に当てられる)。プログラムの後半ではアラビア語が主な授業言語として使用される。このコースは、言語実験室での作業を含む、週最大20時間の教室での指導と、最大20時間の宿題で構成される。この初級集中コースを無事に完了した学生は、現代標準アラビア語の読み書きと、エジプト口語および現代標準アラビア語の理解と会話の実用的な能力を身につけられる》



 以上から判断すれば、北原証言ならびにカイロ・アメリカン大学の公式発表の方が正しいと断定してもいいだろう。



 それを学歴に正しく変換すれば、「カイロ・アメリカン大学付属外国人向け集中アラビア語初級コースに1971年の数か月在籍(未修了)」となる。少なくとも、東洋学科卒業の学歴詐称は明白である。



 しかし、首相官邸ウェブサイトではアメリカン大学東洋学(Oriental Studies)の記録が小池の学歴にまだ残っており、そもそも大学名さえ間違って掲載されている(「in Cairo」が正しいが「of Cairo」と記載)。





■都議会で嘘に嘘を重ねるエジプト仕込みの答弁

 ここまで検証したところで、念のため、学歴詐称に関する都議会議事録をチェックしてみた。



 議員から東洋学科卒の真偽を問われた小池は、「ミドルイーストスタディーズセンターだと思いますけれども、そこに付設されております語学校がございます。そちらの方で一年間、アラビア語を英語で学んだ。

その上で、カイロ大学に移りまして、76年に卒業したと、先ほどお答えしたとおりでございます」(2020年予算特別委員会)。



 1980年代から「東洋学(Oriental Studies)」と長年、嘘をのたまっておきながら、2020年都議会で平然と「ミドルイーストスタディーズ(Middle East Studies)センター」という新手をさく裂させている。



 質問した議員もさすがに混乱したのか、小池に確認する。



議員 ミドルイースト何とかとおっしゃいましたが、これ、東洋学科とは違うということでよろしいんでしょうかね。これが間違っているという……。



小池 それは訳し方の問題だと思います。



議員 じゃあ、日本語で何て訳せばいいんでしょう。すみません、教えてください。



小池 今申し上げましたように、ミドルイーストというのは中東でございます。スタディーズ、学ぶ、センターであります。略しまして、MESCといいます。そして、これをどう訳すかは、それぞれ、先生は英語もおできになるでしょうから、訳していただければと存じます。



 さすがの手練手管で議員をはぐらかし、事実は追及されぬまま質疑は終了した。



 事実は同大ミドルイーストスタディーズセンター(MESC)の沿革を確認すれば、すぐわかる。結論としては、MESCは中東研究のための純粋な学部・研究機関として設立され、現在に至るまで、小池が議会で語ったアラビア語学校が付設された事実はない。詐称の上塗りを都議会でしたのだ。



 小池に取材した現地記事では「小池都知事は1972年にカイロ・アメリカン大学で社会学を学んだ」(「アハラーム紙」2015年10月21日)と東洋学でも中東研究でもない専攻が登場する。



 ごく短期間在学したに過ぎない関西学院大学とカイロ・アメリカン大学の学歴ついて、これだけの嘘と問題があるのだ。カイロ大学の学歴検証の前に、すでに学歴詐称の"実行犯"である。



 ちなみに、小池は2019年、カイロ・アメリカン大学(AUC)に東京都から代表団を送り込んでいる。



《「AUC、東京都庁代表団を迎える」



AUCは、日本の東京都政府機関が我が大学の学部・大学院プログラムについて学び、日本の大学とAUCの今後の協力について話し合うため、訪れた代表団を受け入れた。



 代表団には、1971年にAUCでアラビア語を学んだ小池百合子東京都知事付きの国際担当特別顧問及び知事公室国際課プロジェクト担当責任者が参加した》(「ドストール紙」2019年11月21日)



 東京都政と何の関係もない、税金を無駄に使った出張であることは言うまでもない。



※浅川芳裕著『エジプトの国家エージェント小池百合子』(ベスト新書)より抜粋

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