2024年9月13日、Netflixにて、菊池風磨・佐藤勝利・松島聡によるアイドルグループ「timelesz(タイムレス)」の新メンバーを決めるオーディション番組「timelesz project -AUDITION-」(通称・タイプロ)が、配信開始された。
K-POPを中心に、オーディション番組はアイドルの人気コンテンツの一つ。
タイプロは、視聴者は選考に参加できず、現メンバーが直接選考していく過程を撮影して編集したもの。それだけに、旧ジャニーズアイドルたち本人が考える“理想のアイドル像”が色濃く見えてくるのではないかと、筆者は期待している。
完璧なスキルが求められるK-POPアイドルのオーディションでは、歌・ダンス・ラップの実力やビジュアル・スター性が厳しく審査される。一方で、従来の日本のアイドルは、一般的に「未熟なところから成長していく姿がファンにウケる」とされている。それは果たして本当なのだろうか?
13日に配信されたエピソード1では、さっそく3人が「どんな仲間(新メンバー)に出会いたいか」という質問に答えていた。1人ずつ見ていきたい。
まず佐藤勝利は、「華・目を惹くもの」と答えた。「華」は、ある程度年数を積んだジャニーズファンの間では最も広く言われている、人気アイドルの条件の一つだ。ステージでパッと目を惹く「華」さえあれば、歌やダンスの上手さは重要ではないとよく言われてきた。
確かにK-POPの基準とはずれるように見えるが、この「華」は成長とは関係なく、生まれ持ったオーラが物を言う。
抜群の美形で、生前のジャニー喜多川氏のお気に入りだった佐藤。ジャニー氏のそばで、ジャニーズアイドルが選ばれていく過程を目にしてきたからこその価値観なのかもしれない。
また佐藤は、timeleszの前身・Sexy Zoneのセンターポジションで、ジャニーズファンの間では「華」があるとされているが、筆者はそこに少し疑問がある。確かにジャニー氏激推しの佐藤だったが、いざデビューすると、年長メンバーの中島健人(卒業済み)や菊池風磨がブレイクし、佐藤はパッとしなかった印象だ。
「華」を背負って世に出たものの、実は「華」が足りなかった……そんな人物だからこそ、新たな「華」を求めるのだろうか。
続いて松島聡が答えたのは、「仲間意識・協調性」。こちらも、心優しくフレンドリーな性格で知られる松島らしい価値観だ。
旧ジャニーズアイドルは、ごく少数ソロも出たものの、ほとんどはグループとして売り出されてきた。ファンは、お目当てを1人に絞って熱狂する他に、メンバー同士の仲の良さ・“わちゃわちゃ”感・結束の強さも消費している。
松島は、タイプロの企画段階では「新メンバーを入れず、3人でやっていけないか」と打診したこともあったと、配信された映像の中で話している。また選考中にも、候補生に「timeleszをどれくらい知っていますか?」と、グループ愛を確かめる質問を何度もしていた。
SNS上では、卒業した中島健人とマリウス葉や、Sexy Zone時代の思い出を惜しみ、新メンバーを入れてほしくないという声も少なからずあった。松島は、そんなコアファンたちの思いに応えるアイドル像を実践していると言えるだろう。
ただし、グループ愛のみを優先すれば、コアファンは囲い込めるものの、内輪ノリ感が出てしまい、一般認知度を上げる爆発力は足りなくなりそうだ。それこそジャニー氏は、姉や友達に応募されただけの右も左も分からないジュニアを、いきなりステージに上げるという手法も取ってきた。Sexy Zoneやtimeleszをあまり知らなかった候補生が、全く新しい風を吹かせるというパターンも期待できるのではないだろうか。
最後に、現在timeleszの中で抜群の知名度と仕事量を持つ菊池風磨は、「“自分をこう見せたい”という思いの強さ」と答えた。平たく言い換えれば、自己プロデュース能力やガッツといったものだろうか。テレビのバラエティ番組を主戦場として勝ち抜いてきたタレントらしい考え方だ。
SUPER EIGHTのメンバーでなにわ男子のプロデュースも手がける大倉忠義は、2022年8月放送のNHK「クローズアップ現代」で、アイドルが売れるためには「個性を打ち出す」ことが大事だと発言していた。菊池の回答ともかなり重なるところがありそうだ。
テレビの全盛とともにあった旧ジャニーズ事務所。数々の俳優アイドルをはじめ、元SMAP中居正広やSUPER EIGHT村上信五のツッコミ・進行スキル、Kis-My-Ft2宮田俊哉やSnow Man佐久間大介のオタクキャラなど、歌やダンスにはとどまらない、一見アイドル業には関係なさそうな才能や個性が、個人個人の大きな躍進を生んできた。
旧ジャニーズアイドルにおける成長は、K-POPのようにステージスキルを磨くことだけにとどまらず、「自分はこういう人間だ」と示せるようになる自己実現が中心にありそうだ。人間力を成長させる仕事とも言えるかもしれない。
新鮮な個性を持ったメンバーがtimeleszに入れば、それ自体が華にもなり、グループとしての見栄えもよくなりそうだ。反面、菊池自身が、センターの佐藤よりも目立ってしまい、ジャニー氏が想定していたはずのバランスを崩してしまっていた面もある。新生timeleszは、全体のバランスを慎重に見ていかなくてはいけなさそうだ。
また、タイプロエピソード1の終盤では、期待の持てる候補生に対して、アイドルとして磨かれていく変化を見たいと佐藤と松島が話していた。これはまさしく、「日本のアイドルは成長型」の典型だろう。
ただし本稿で見てきたように、旧ジャニーズアイドルの文脈上で求められる成長は、まるっきり未熟なところからの成長ではない。生まれつき「華」のある原石だという前提で、グループに貢献しながら、自分だけの個性を打ち出すという、かなりハードルの高い成長だ。
この成長を果たして、旧ジャニーズアイドルたちと互角に輝けるようになり、ジャニーズファンが納得する原石が、旧ジャニーズの外にもいるのだろうか。それとも大勢のファンが主張するように、元ジャニーズや、現ジャニーズジュニアの中にしか適任はいないのか。引き続き、オーディションの行方を見守りたい。
文:梁木みのり