STARTO ENTERTAINMENTアイドルのファンたちの間に激震が走った。2月16日、メジャーデビュー前の「ジュニア」の人気グループ3組が解体、メンバーをシャッフルして新グループが組まれた。

しかし、反応は芳しくなく、発表からファンたちの阿鼻叫喚が止まないという。なぜなのか。新グループ名に決定的に欠落しているものとは。ジャニーズを見つめ続けてきた筆者が断罪する。



■漂白されたジャニー氏のエッセンス

 今回、解体されたのは、2015年結成の「HiHi Jets(ハイハイジェッツ)」、2016年結成の「美 少年」、2018年結成の「7 MEN 侍(セブンメンサムライ)」。いずれもキャリアが長く、アリーナクラスのライブを行うなどデビュー組とほぼ変わらない活動をしていたグループもある。



 新たに作られた3グループが、「ACEes(エーシーズ)」、「KEY TO LET(キテレツ)」、「B&ZAI(バンザイ)」。解体グループのメンバーのほか、既存グループ「少年忍者」から移籍した若干名で構成されている。明らかな売り出し組の「ACEes」には過去に問題を起こして謹慎したメンバーもおり、コンプラ対策というよりは、福田淳新社長にとって売りやすい形に仕上げたものと思われる。



「HiHi Jets」「美 少年」「7 MEN 侍」は、故・ジャニー喜多川氏が最後に育成した世代に当たる。特に「HiHi Jets」は、2024年秋に脱退・退所した、“ジャニーさん最後のお気に入り”こと髙橋優斗が在籍し、ジュニアの中心的存在だった。



 ジャニーズ事務所がなくなった後、さまざまなグループが名前を変えたのと同じく、ジャニー氏を思わせる要素を排除するテコ入れとも言えるだろう。

「美 少年」という名前はジャニー氏の性加害疑惑を連想させるし、「7 MEN 侍」はメンバー変遷があり6人で定着していたため、そのままの名前ではデビューさせづらいという弱点も確かにあった。



 しかし新グループ3組には、アイドルグループとしての重大な欠陥があるように思えてならない。



 ジャニー氏が作った3グループの名前には、ジャニー氏ならではのエッセンスがこれでもかと詰まっていた。まさに“読んで字のごとく”な「美 少年」だけでなく、「HiHi Jets」は初代ジャニーズ結成のきっかけとなった『ウエスト・サイド物語』のジェット団を思わせるし、「7 MEN 侍」は『七人の侍』が元ネタだ。



 メンバーを見ても、「HiHi Jets」には近藤真彦とそっくりな声色の野球少年・髙橋優斗のほか、これまた口元にマッチの面影がある猪狩蒼弥、やんちゃな不良感のある橋本涼などが揃い、光GENJIからの伝統のローラースケートを履いて踊るグループだった。メンバー5人の佇まいは、SMAPや嵐を彷彿とさせるとファンから評価されていた。かたや「美 少年」は、田原俊彦ふうの可愛らしい正統派キラキラアイドルグループで、トシちゃんの面影を感じる顔立ちの浮所飛貴や、ヨッちゃんこと野村義男に驚くほど瓜二つの藤井直樹(彼は新グループの選に漏れてしまった)らがいた。



「7 MEN 侍」はTHE GOOD-BYE、男闘呼組、TOKIO、関ジャニ∞の流れを継ぐバンドグループだった。新グループの「B&ZAI」もバンドだが、楽器が弾けることだけが強みとは限らない。かつて男闘呼組はアイドル事務所の中のはぐれものの“不良”としてバンドを始めたが、「7 MEN 侍」にはアングラなファッションやイラストを好む中村嶺亜、ネット文化に詳しく音楽オタクでもある矢花黎、魚オタクの理系男子・本髙克樹など、はぐれもの的な存在としての“オタク”が揃っており、2020年代のバンドグループとしての(アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』にも通ずる)文化的な説得力があると個人的には評価していた。また、SMAPの前身・スケートボーイズのように、スケートボードを乗りこなすグループでもあった。





■そこに身体性、欲望はあるか

 このように、「HiHi Jets」「美 少年」「7 MEN 侍」にはジャニーズの歴史、ジャニー氏が作りたかった世界観が凝縮されていた。

だからこそテコ入れの対象になってしまったのかもしれないが。3グループに込められていたのは、ジャニー氏が生涯をかけた夢であり、欲望だった。



 翻って、新グループはどうか。「ACEes」=エース格、「KEY TO LET」=キテレツな変わり者、「B&ZAI」=楽器ができるアイドルを集めたバンドと、名前の由来はすぐにわかる。そこには表現したい世界観や、誰かの強烈な欲望は感じられない(金銭欲は感じるかもしれないが)。エース、変わり者、バンド、ただそれだけの記号だ。端的に言って薄っぺらい。これでは、ファンの欲望をかき立てることはできない。



 そもそも、顧客はあらかじめ欲望を持っていない。アイドルのプロデューサーは、己の中にある欲望をありったけ膨らませて具現化することで、顧客を欲望へと引きずり込んでいく。それだけのエネルギーがなければ、エポックメイキングなアイドルは作れない。



 たとえば、K-POPのクリエイティブの常識を変えたと言われるアートディレクター、ミン・ヒジン。

彼女もまた、ソフィア・コッポラの映画などを彷彿とさせる、独特の少女趣味的世界観を持ち味としている。大手事務所SMエンターテインメントでの仕事でK-POPの歴史を変えたのち、新興大手HYBEの傘下でNewJeansを手掛け、またもやK-POPのブームをがらりと変えてしまった。その渦の中心には、ペドフィリア疑惑が囁かれるほどの、ミン・ヒジンの剥き出しのフェティシズムがある。







 彼女はHYBE社長パン・シヒョクと敵対し、会社を追われた。パン・シヒョクはBTSを世界的トップスターに育て上げた張本人だが、彼が手掛けるアイドルグループの作品にもまた、鼻血や墓地など、少年が死に近接するようなフェティッシュなモチーフがふんだんに盛り込まれている。さらに、ミン・ヒジンが元いたSMエンタの前社長イ・スマンも、“鹿顔”や“恐竜顔”などいくつかの系統の顔立ちを執拗に好み、彼の欲望を全面に出した人選によって、東方神起や少女時代といったモンスターグループを次々と輩出した。



 ジャニー氏だけでなく、世界を席巻するK-POPにおいてもやはりそうなのだ。ジャニー氏の要素を排除しなければならないからといって、アイドルが人を引き込むエネルギー源である欲望の表現を取り去ってしまっては、アイドルそのものの根幹が崩れてしまう。身体性のない、薄っぺらい、大量生産の記号を使い回すばかりになる。そうなりきってしまったら、STARTOアイドルはいよいよ終わりだと言わざるをえない。アイドルの力は、人間そのものから湧き出る力なのだ。それを知らない者に、アイドルをプロデュースする資格はない。



文:梁木みのり(BEST T!MES)

編集部おすすめ