時代を鋭く抉ってきた作家・適菜収氏。当サイト「BEST T!MES」の長期連載「だから何度も言ったのに」が大幅加筆修正され、書籍化(『日本崩壊 百の兆候』)された。
■デブをやめる
私は小さな人間になりたい。その話を某所でしたら、「具体的にはどのぐらい小さくなれば満足するのか?」と聞かれた。池乃めだかまで行くのは無理でも、藤井フミヤくらいにはなりたい。もしフミヤの体重が100キロくらいあったら、ああいう声は出ないと思うし、人気も出なかったと思う。
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池乃と言えば、持ちネタのチェッカーズの替え歌「小さな頃から悪ガキで、15で背丈が止まったよ」を思い出す。昔、さらにその替え歌の安倍晋三バージョンを作ったことがある。「小さな頃から悪ガキで、15で知能が止まったよ」。
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私の身長は、去年は176センチだったが、今年は175センチになっていた。来年は174センチを目指したい。
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有島武郎の『小さき者へ』は「前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。行け。勇んで。小さき者よ」と結ばれている。モーパッサンの『脂肪の塊』は読んだことはないが、多分、太りすぎはよくないという話だと思う。
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私が小学生の頃、「林間学校」には2つの意味があった。1つは小学5年生が行く普通の学習旅行である。そして2つ目はデブの矯正施設である。当時は今のような人権感覚がないので、夏休みが近づくと、太った女児(私が見たケースでは女児だけだった)が呼び出される。
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以前のダイエットはひたすらカロリー制限だったが、今は糖質や脂質をとらないと、逆に太ると説明されることが多い。朝ごはんもきちんと食べたほうがいい。私は小さな人間になるために、書籍やネットで情報を集めるようになった。結論としてはPFCバランス(たんぱく質・脂質・炭水化物の摂取比率)を整え、運動をすることにより、少しずつ体重を減らしていくのが一番いいとわかった。極端な糖質制限や脂質制限を行うと、筋肉が落ち、基礎代謝が下がり、やせない体質になっていく。短期的には体重は減っても、リバウンドする。
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デブは基本的にバカである。それだけだと語弊があるので、より正確に言えば、やせたいと思っているのにデブのままでいる人間はバカである。
やせるのは簡単だ。科学的にやせる方法があるのだから、それに従えばいいだけ。にもかかわらず、根拠のない自己流のダイエットを始めたり、ネット上のデマを信じ込んだりする人がいる。ユーチューブのダイエット動画には、「1カ月で14キロ痩せた」といった類の極端なものもある。それにより視聴者を「釣る」わけだ。そういうものに騙されるから、いつまでたってもデブなのである。
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ダイエットは勉強に似ている。たとえば大学受験では闇雲に勉強しても合格しない。大学側が何を求めているのかを過去問題を見て把握し、それに沿って勉強する。大事なことは、現状を把握することだ。
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私も最初は面倒だった。しかし、「あすけん」という無料アプリを使うようになって、問題は解決した。朝昼晩に食べたものと間食、運動量を記入すれば、カロリー計算をしてくれる。入力は簡単でキーワードを入れれば候補が出てくるし、よく食べるものを登録したり、履歴からクリックすることもできる。
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1日分の情報を入れ終わると、点数とグラフが出てくる。「栄養価の過不足」のグラフで、適正範囲に到達していないものは、ビタミン剤などで調整する。私の場合、炭水化物が足りないとよく指摘されるので、コンビニのおにぎりを追加で食べたりする。
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こうして高得点を狙うようにしていたら、体重も減っていった。そんなことに夢中になるのはみみっちいと言われるかもしれない。それこそが狙いである。精神的な側面においても、みみっちい人間になりたい。

■有酸素運動に意味はないのか
旅館で部屋食のとき、お櫃でご飯が出てくる。私はぬるい温泉が好きなので、函南にある伊豆畑毛温泉に何回か行った。温泉街はなく、三軒ほどの温泉旅館があるだけだ。私は三軒とも泊まったが、そのうちの一軒を「食事控えめプラン」で予約した。
しかし、夕食の量は多く、さらにお櫃にご飯が二合くらい入っていた。茶碗だと5杯分くらいか。部屋に食事を運んできたおばさんが「ご飯足りなかったら言ってくださいね」と言う。
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昔から疑問に思っているのだが、お櫃に残ったご飯はどうしているのか?
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「ウォーキングなどの有酸素運動より、筋肉をつけて基礎代謝をあげたほうがいい」と言う人もいる。それ自体は間違ってはいないが、歩けば気分がいいし、精神的にも健康になる。ちりも積もれば山となる。1万歩で約300キロカロリーが消費されるので、毎日1万歩なら、月に9000キロカロリーになる。脂肪1キロを減らすには7200キロカロリーの消費が必要になるので、歩いていれば確実に痩せる。
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ダイエットはスポーツの面白さにも近い。メソッド通りにやれば自然に体は仕上がっていく。私は高校生の頃、毎日走っていたのでよくわかるが、理屈がわかれば、誰でも長距離を走ることができる。普通の人がいきなり走ろうとしても無理だが、順番にメニューをこなせば、無理なくスピードが上がっていく。そうなると、走るのが面白くなる。
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面白いことは長続きする。続けることで、さらに面白さを知る。人間の体は我慢することに向いていない。向いていないのだからしないほうがいい。体が軽くなること、小さくなること自体が快感になれば、体は自然に小さくなる。
文:適菜収