2025年6月9日、「スライ&ザ・ファミリー・ストーン」のスライ・ストーンが亡くなった。82歳。
■スライこそが一番画期的な音楽を作っていた!
適菜:スライ&ザ・ファミリー・ストーンのスライ・ストーン、死んじゃいましたね。私が最も影響を受けた人物のうちの一人でした。初めてスライに触れたのは高校1年生のとき。そのときすでに伝説のミュージシャンになっていて、私の中ではリンカーンとかエジソンに並んでいるような感じでした。大学生のころ、スライに会いに行こうと思いましたが、そのときは生存すら不明でした。ところが、2008年にいきなり来日。国際フォーラムとブルーノートで演ったのですが、当然、両方とも行きました。その後、RUFUSのトニー・メイデンと一緒に来日したときは、私は最前列に座り、スライと握手もしました。
近田:行ったんだぁ! これは先ほど(6月10日)書いた追悼文です。
「スライが亡くなった。スライは具体的にこういう画期的な音楽を作りたいと思いそれをカタチにしてみせ続けた真の天才だったのだと思う(作品を聴く限り私にはそこに偶然性はないように思えるのだ)。あきらかに作品は意志の産物だ。スライの魂が安らかに眠ることを祈る」。スライは一番画期的な音楽を作ってた人だと思う。
適菜:本当にそうですね。私は高校1年生のとき「in time」に衝撃を受けました。今回の訃報を受けてビルボード誌がスライの曲の中から10曲選んだそうですが、重要な曲が抜けていて「薄いな」と思ってしまいました。
近田:適菜さんの中ではどの曲が1位なの?
適菜:「in time」です。
近田:俺は「Everyday People」だったなぁ。このソドミとラドファの繰り返しだけで、その上に乗るメロディもモロ童謡みたいな平和なものなのにとてもドラッギーというこのコンセプト! それ以前には絶対になかったもん。
適菜:「Everyday People」は、たしか歌詞でも、ドレミファソラシドと歌っていましたよね。
近田:そうそう、歌ってたよ! あれ、でも別の曲かな。リフは思い出せるんだけど曲名が思い出せない。
適菜:すみません。「Sing a Simple Song」でした。
近田:そうだぁ! サンキュー。あとは「if you want me to stay」だね。このコードのループの切なさ!
適菜:「if you want me to stay」はアルバム『Fresh』の2曲目ですね。私も影響を受けました。Red Hot Chili Peppersもこの曲を演っていましたね。
近田:これ普通に名曲だもんね。
適菜:本当に。

近田:「Sex machine」てえ曲も相当強気で好きだった! スライの話を始めるとキリがないないなぁ!
適菜:『Fresh』に入っている曲もすばらしいですが、アルバム全体では『暴動』かなとも思ってしまいます。
近田:アルバムはやっぱ『stand』かも。でも嫌いな曲が一曲もないアーティストって他にはなかなかいない。
適菜:そうですね。どこかの双子の白人がスライに会いに行こうとして、それが映画になったのですが、その気持ちはよくわかります。どこかヨーロッパの人でしたが。
近田:いるんだねぇ、そういう人!
適菜:今日はノンアルコールビールを飲んで追悼します。
近田:マイケル・ジャクソンやプリンスにスライの影響を感じるって人は多いけど、俺は基本的に文脈の違う表現者だと思ってるのよ。どーお?
適菜:マイケルはむしろJBの影響が強いかもしれませんね。プリンスは影響を受けていると思います。『Sign o' the Times』の屈折した感じとかも。ディアンジェロもそうですね。
近田:プリンスもディアンジェロも馬鹿馬鹿しさに欠けてる? スライはどこかふざけてるところがある。歌詞にしろ音楽にしろ。プリンスは歌唱力みたいのを見せつけるところがあるでしょ? そこもattitude的になんか違うかなぁと。それこそドレミファソラシドなんて絶対にやらないし。スライの姿勢はなんか遊んでるっぽいっていうか……。

■スライが弾いているベースは病んでいて好きだった
適菜:スライには余裕がありますね。JBみたいにかちかちにやらない感覚が、P-FUNKにつながっていくのでしょうね。プリンスもラリー・グラハムと何回かツアーをしていて、スライの曲もいろいろ演っています。
近田:尊敬はしてるんだろうね.オタク的に! プリンスは真面目そうだからね。ラリー・グラハムは、技術職だから、スライの精神みたいなものはそこまで継承してないかも?
適菜:そうだと思います。だから私は初期のラリー・グラハムのベースより、後期のアルバムでスライが自分で(多分)弾いているベースのほうが病んでいて好きです。
近田:だよね! でも「if you want me to stay」は、ラリー・グラハムだったよね?
適菜:「if you want me to stay」のベースは、グラハムではないのでは? たしか71年にはグラハムはスライのバンドを脱退しているんですよね。
近田:そおかぁ、あのフレーズホントにいいのよ! ラスティ・アレンっていうベースかも?
適菜:そうだと思います。
近田:テンプテーションズの「happy people」って結構スライ意識してない? これさぁ、作曲ライオネル・リッチーも参加している。この時代のテンプテーションズ、サイケでいいのよね!「Bowl of confusion」とか。そういえば「happy people」は、最初日劇のウェスタンカーニバルでジャニーズの子達が演ってて、それがよくって調べてテンプテーションズに辿り着いたの覚えてる!
適菜:テンプテーションズはそうですね。
近田:この弔いのLINE、発表できたらいいのになぁ!
適菜:では、私が簡単にまとめましょうか。そして、ベストタイムズに載せます。
近田:おお! 楽しみっす!
適菜:というわけで、スライについて語り足りないところがあったら、教えてください。
近田:ディアンジェロはどこまで行っても地味じゃん! てのは、入れときたいね。
適菜:ロクに新作アルバムも出しませんしね。でも、『Black Messiah』には、スライの血が流れていると感じました。
近田:スライが来日したときは、どんな感じだったの?
適菜:ブルーノートのスライのライブでは、4曲くらいしか演らなくて、ビジーフォーの太ったほうが、「もう終わりかよ、カネ返せ」と叫んだそうです。私は直接聞いていないのですが、そいつと同じテーブルにいた知人のコックから聞きました。
近田:スガシカオ、スライ、好きだよね.前に番組で話したことあるもん。
適菜:そのコックがブルーノートの支配人と友人で、私は「立ち見」で無理やりねじ込んでもらったんです。
近田:おお! 聞かせて。
適菜:国際フォーラムの公演が終わった後、某所にあるバーに行ったんです。これがどのくらいすごいことなのか誰かに伝えたかった。その店のバーテンダーが以前、「僕はブラックミュージックが大好きなんです。僕の部屋には昔のレコードが山ほど積んであってね」と言っていたのを思い出したので、国際フォーラムでスライのライブを見てきたと言ったら、「スライって誰ですか?」と。すごいほら吹きなんですよ。
近田:そういう人、昔いたよね!
適菜:それでアホかと思い、店を出て、六本木のアモーレという店に行った。亡くなってしまった料理人の澤口知之さんの店。イタリアンです。彼はブルーノートの支配人と友達で、スライのライブに仲間で行くという。それで、その場で支配人に電話してもらい、立ち見で入ることができたんです。
近田:その時のスライ、どんな感じだったの? ヨレヨレ?
適菜:ヨレヨレでしたが、国際フォーラムでは30分以上演りました。前座がロベン・フォードで、次がサム・ムーアでした。ブルーノートは数曲演奏した後、スライは楽屋に引っ込んでしまい、他のメンバーが20分くらい演奏していたような気がします。
近田:サム・ムーアは、70年代なかば、ニューヨークの20人ぐらいしか入らない店で一人で演ってたの観たなぁ。こんな有名な人が!とびっくりしたの覚えてる。そろそろご飯食べるので!(^з^)-☆
適菜: はい。では、新連載「言葉とハサミは使いよう」番外編のLINE対談という形で、このままアップします。
文:近田春夫×適菜収