■71歳現職市長と39歳トップ当選女性市議という横須賀市長選挙の構図
進次郎の地元・横須賀市長選挙の構図はある意味では最近の流行り通りの典型的なものだ。
「71歳の現職市長と、39歳新人トップ当選女性市議。
しかし、ここに来て新人候補が出した横須賀市長選挙ビラ1号に苦情の声が殺到しているという。
「信じがたいチラシです。例えば市長が推進してきた不妊対策の政策がなぜか(新しい横須賀)の方に入っていますし、(これまでの横須賀)のところにAIとVRとNintendoSwitchが入ってます。この候補の価値観ではAIとVRとNintendoSwitchはこれまでの横須賀なんでしょうか? そもそもNintendoSwitchは民間企業の商品なので市長が誰であれ販売されます」(横須賀政界関係者A)
このチラシから明らかになるのが見た目は若い39歳のトップ当選市議が持つ「信じがたく昭和な価値観」だ。
■「49歳までヒモだった」苦労人の現役市長が成功した「AI&メタバース革命」
そもそも現在の横須賀市長である上地克明氏は苦労人として知られている。
「早稲田大学卒業後、議員秘書などを経て49歳までは定職がなく、大手航空会社に管理職として勤務していた奥さんに生活の面倒を見てもらっていました。有名芸能人の長男と地元でも愛されている次男の四人家族で大の愛妻家・新しもの好きとして知られています。ミュージシャンとしての実力は玄人はだしでプロデビューもしているほどです。この市長はここ数年、AIとメタバースにハマり、横須賀市役所では全庁でChatGPTを導入しています。業務効率が上がったことから、市職員は市民の声に対応できるようになり、日曜日でも市役所の相談窓口はオープンにしているほどです」(横須賀政界関係者A)
対立候補として出馬したトップ当選市議との関係も良好だったという。
「昨年12月までは市長を尊敬していますと繰り返し発言し、4~5回も政策懇談としてディナーもともにするほどの仲でした。
「実際に市議会議員として8年間、上地市長案の議案に反対したことは一度もありません。それがこんなふうになるなんて思ってもみませんでした」(横須賀市役所幹部D)
■参政党風の政策に寄せてきた39歳トップ当選女性市議
トップ当選女性市議の政策の異様さを指摘する別の声もある。
「どうも最近の政策が参政党っぽいんです。新人候補のインスタでも"観光客ではなく住民のための横須賀に"[注1]という話しをしていますが、横須賀に来る観光客の多くはインバウンド、つまり外国人です。外国人排斥と言わずに外国人排斥を意図する。このあたりも参政党っぽさを感じます。他にも公約の中にある地産地消給食、これは適地栽培適地消費を進めてきた近代経済学、グローバリズムの否定です。オーガニック給食など参政党の支持者、もっと言えばいままでの自民党の支持者の1/4ぐらいも取り込みたいという意欲を感じずにはいられません」(横須賀政界関係者C)
さらに他の関係者が続ける。
■39歳トップ当選女性市議の信じがたく昭和な価値観
「そもそも、このチラシは高齢者向け、あるいは子どもからゲームを取り上げる教育ママ向けに書いてあるものです。AIってなんか怖い、VRってなんか怖い、ゲームは有害だからとりあえず取り上げておこう、そういう明治時代に電話が怖いからと言って電線を切ったような守旧派向けのチラシと言えるでしょう」(横須賀政界関係者A)
39歳のトップ当選市議がこのような信じがたく昭和な価値観に基づくチラシを配布しているのはなぜだろうか。
ここで、横須賀市の人口推移を見ると、2025年の段階で、現役世代(15歳-64歳)は214,067人、老年世代(65歳-)は121,201人。市長選挙の投票率がだいたい3割であることや年代別の投票率の違いを考えると老年世代にウケがいい政策を出せば当選するという計算があるのかもしれない。
「現職の上地陣営の政策は上地市長本人が息子世代(30~40代)の意見をバンバン取り入れており、AI・VR・最新政策のオンパレードです。一方で10年以上前にアメリカ一の公立大学であるUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で学んだ39歳の女性候補が出している政策がAI・VRといったここ最近の最新技術をことごとく否定するものであることは興味深いことでしょう」(横須賀政界関係者A)
そもそも、野党陣営にこうした明治時代に電話の電線を切ったような最新技術を認めない守旧派が集まるのはなぜだろうか。この稿では、そうした政策の背景にある与野党の選挙事務所に集まる人達がどのような人たちなのか、与野党の候補者はそれぞれどんな戦略で運動員を集めているのか、なぜ革新をリードすべき野党陣営の候補者がイスラム過激派のような超保守派の政策を掲げるのかについて考えていきたい。
■AI・VR・NintendoSwitchはネガティブコンテンツなのか?
そもそも、AIやVR、NintendoSwitchはネガティブコンテンツなのか?
それぞれについて考えてみよう。
まず、AIの導入についてだが、これはこれからの社会で導入は不可避だ。なぜか。中央省庁でキャリア官僚としての経験がある関係者に聞いた。
「私が入省したときは朝5時まで勤務がありました。朝9時に出勤して朝5時ですよ。今でも新しく立ち上がる省庁などでは五十歩百歩の勤務形態だと思います。当然そんな職場を志望する大学生は年々少なくなりつつあります。そうした中で、優秀な人材が様々なAIを使って自分の仕事を進めていく"AIエージェント"になることはもはや不可避です」(元キャリア官僚B・本庁勤務経験者)
VRについてはどうだろうか。
「やはり行政の仕事は移動時間が長かったり、複数の関係者が同行して現地視察しなければならない、それらが終わった後にデスクワークをしなければならないのが勤務時間の肥大化に繋がります。VRの導入はこうした移動時間を短縮し、朝9時に出勤して、夜18時には退勤して、横須賀駅前で音楽を楽しんだり、自分自身が音楽のプレーヤーになったり、一杯ひっかけたりする、そういうワークライフバランスの充実に繋がります」(元キャリア官僚B・本庁勤務経験者)
NintendoSwitchはどうだろうか。
「民間企業の一商品です。民間企業がやることにとやかく言う必要はないでしょう。民間でできることは民間でやる、民間活力を十二分に活かす。これが純一郎さんのときからの横須賀のレガシーです。横須賀の日産・追浜工場が撤退するなど日本の自動車産業が壊滅的な打撃を受けている中でアニメやVRは日本がほとんど唯一伸ばしていける輸出産業です。対立候補はインバウンドの受け入れにも反対していますが、アニメを潰して、インバウンドを潰して、日本がこれからどうやって外貨を稼いでいくんですか」(横須賀政界関係者A)
■革新派でも割れる表現規制・風俗規制の是非
いわゆる革新派でもアニメ規制・ゲーム規制・表現規制・風俗規制の是非は分かれる。
「たとえば立憲民主党の五十嵐衆議院議員は都議の時代から表現規制の是正に熱心です。彼女とは思想は違うけど優秀な議員であることは間違いないですよね。一方で革新派の議員でなにがなんでも全部規制してやろうという人がいるのも事実です。個人の自由な表現、自由な行動を認めようとしない議員もいるんです」(元キャリア官僚B・本庁勤務経験者)
なぜ社会の革新をリードしていくべき野党陣営から、AIもVRもゲームもすべての最新技術を否定する、インバウンドさえも否定する[注1]イスラム過激派のような超保守派の政策が誕生するのか。
「与党陣営の選挙事務所というのは会社の社長や民間企業に勤めている運動員が多いんです。勢いAIもVRもゲームももとにかく経済発展に役立つものはすべて取り入れようという進取の気性がある。一方で野党陣営の選挙事務所は違います。それこそ最初の頃は他の選挙事務所で出禁を食らったような人とかをかき集めながらどうにか運営しているのが実態で、AIとかVRとかゲームとかインバウンドとかよくわからないものにはすべて反対します。お金を稼ごうという気がそもそもない支援者が多いですからね」(政令指定都市トップ当選市議)
お金を稼ごうという気がない支援者が作った政策を実行した先には、かつてのイギリスのような長期停滞が待っている。
文:林直人
[注1] おばたさおり 2025/06/15
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