時代を鋭く抉ってきた作家・適菜収氏。当サイト「BEST T!MES」の長期連載「だから何度も言ったのに」が大幅加筆修正され、単行本『日本崩壊  百の兆候』として書籍化された。

新連載「厭世的生き方のすすめ」では、狂気にまみれたこのご時世、ハッピーにネガティブな生活を送るためのヒントを紹介する。そのカギとなるのはなんとフルーツ。世を捨ててもフルーツは捨てないほうがいいと説く適菜氏の連載第6回。



真っ当に生きようと思うならフルーツを食べるべきである!【適菜...の画像はこちら >>



■果物は人生の伴侶



 私は酒を飲まなくなったので、酒場でカネを使わなくなった。そして浮いたカネで頻繁にフルーツを買うようになった。フルーツはおいしい。それに酒代に比べたら、フルーツ代などたかが知れている。以前はフルーツを食べるのは面倒くさいと思っていたが、カットされているフルーツもある。カットされて小分けになっているリンゴもある。小さい袋に2ピース入っており、それが5セットで500円くらい。少し高いが、手間を考えれば問題ない。むしろ、感謝したいくらいだ。



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 カットされたパイナップルもよく買う。パイナップルにメロンやぶどうの粒が入ったパックもたまに買う。以前の私の中では、フルーツはおやつに過ぎなかったが、今は人生の伴侶のような存在だ。



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 2025年はイチゴもよかった。スカイベリー(栃木県農業試験場いちご研究所が開発)は、少し高いが、他のイチゴに比べてかなり大きいので、食べ応えがあり、結局は安い。イチゴは軽く洗っただけでそのまま食べることができるので、面倒でないところもいい。



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 ここ10年くらいで、改良されたオレンジが一気に出てきたような気がする。1個500円くらいする紅まどんな(愛媛県立果樹試験場が開発)というオレンジがあり、出てきた当時は、夢中になった。それを探す過程で甘平や清見タンゴールなどのいろいろなオレンジも買った。



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 フルーツには果糖が含まれているが、過剰摂取しなければ問題ない。むしろ、現代人はフルーツの摂取量が足りていない。厚生労働省が推奨しているのは一日に200グラム。

りんごなら1個(8ピース)、パイナップルなら13ピースくらいだが、日本人のフルーツの平均摂取量は20代から40代で30グラムから55グラム程度と、大幅に下回っている。なお、フルーツジュースは100パーセントであっても、飲まないほうがいいようだ。栄養素や食物繊維がなくなっているものが多い。



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 昔、アントニオ猪木が中心になってスポーツ平和党が結成された。スポーツの精神を政治に取り込み、全国民が健康体を維持することで平和を実現しようとしたとのこと。私は政治のことはよく知らないし興味もないが、もしこの先、政治に関わることがあったら、フルーツ平和党をつくりたい。目的も似たようなものだ。フルーツを食事に取り込み、全国民が健康体を維持することで平和を実現するといったものだ。



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 これは単なる言葉遊びではない。フルーツには心身のリラックス効果、ストレス解消効果があり、フルーツに含まれる香り成分やGABAは精神的な安定をもたらす。



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 たとえば、迷惑系ユーチューバーの三浦瑠麗や「森の賢人」の異名を持つほんこんに毎日1個ヤシの実を与えたとする。ヤシの実にはデトックス効果があるので、長期的には精神の安定につながる可能性がある。





真っ当に生きようと思うならフルーツを食べるべきである!【適菜収】
写真:PIXTA



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 安倍晋三は砂糖がたくさん入ったフルーツジュースが大好きだった。政治資金ではサントリーフーズ「なっちゃん」を買っていた。テレビ番組の党首討論でそれを指摘されると、安倍は逆切れし「そんなもの政治資金で買いませんよ!」と声を荒げた。大好きな「なっちゃん」を「そんなもの」呼ばわり。砂糖の取りすぎは精神を不安定にする。フルーツ平和党では、食生活の改善から、人生に対する姿勢を見直し、知育、徳育、体育の基礎を整えていくことを提唱する。いわば、まさに、徳育である。



真っ当に生きようと思うならフルーツを食べるべきである!【適菜収】
写真:PIXTA



■栗やアーモンドはフルーツなのか?



 体重を落とすためには、間食をしたほうがいい。間食は血糖値の変動を穏やかにし、過食を防ぐ。もちろん、お菓子は駄目なので、ドライフルーツやナッツがいい。今、私の仕事場の机の上には、イチジク、クランベリー、ブルーベリー、レーズン、アプリコット(アンズ)などのドライフルーツがある。レーズンはオイルコーティングされていないもの、アプリコットは漂白されていないものを買っている。

アーモンドは、塩や油を使っていない素焼きのものを買う。フルーツ平和党はオーガニックだが、参政党のような陰謀論系カルトとは一線を画す。



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 昔、甘栗をたまに食べていた。そのとき「栗はフルーツなのか」と疑問に思った。結論から言えば、食品分類上、栗はフルーツである。アーモンドもフルーツである。



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 シンガポールには20回以上行ったが、よくフルーツを食べた。「フルーツの女王」はマンゴスチン、「フルーツの王様」はドリアンである。日本では「ドリアンは臭い」と言う人がいるが、その感覚はよくわからない。ドリアンはお腹にもたれるので私は食べないが、あれほど甘くてクリーミーで素晴らしい香りはない。Fairpriceなどの安いスーパーに行けば、店頭に積んであったりするので、つい近くに行きたくなる。



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 シンガポールのスーパーではヤシの実が一個100~150円くらいで売っている。

それをまとめて買って、冷蔵庫で冷やしておく。皮が削られて薄くなったところがあるので、そこにストローを刺して飲む。慣れてくると、その場所はすぐに見つかる。



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 フルーツの香りは人間を幸せにする。人間はもっとフルーツを大切にしたほうがいい。すべてをカネに換算するやつがいる。そういう人間は薄っぺらい。それなら、すべてをフルーツに換算したほうがいい。「今日の失敗はバナナ2本分だな」といったふうに。



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 人間だもの、果物だもの。



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 山梨県は「フルーツ王国」と呼ばれる。国道20号線を車で走ると、「モモ狩り」「ブドウ狩り」といったのぼり旗が立っている。

私は昔からあれが嫌だった。なぜ冷えていないモモやブドウを食べなければならないのかと。「狩り」という言葉も「おやじ狩り」みたいで暴力的で嫌な感じがする。それ以前に、モモやブドウなど大量に食べるようなものではない。



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 酒を飲まなくなった後、ミスタードーナツを買ったことがある。チョコレートがかけてあるエンゼルフレンチとオールドファッションを食べたが、なかなかおいしかった。でもあれは高カロリーなので確実に太る。私はドーナツ屋に近づくのはやめた。



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 オールドファッションというカクテルがある。グラスに角砂糖を入れ、ビターズを振りかける。そこに氷とバーボンを加えて、レモンやオレンジ、ライムなどを添える。それをマドラーで動かしたり、軽くつぶしたりしながら飲む。完成されたカクテルもいいが、変化していくカクテルもいい。



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 世を捨ててもフルーツは捨てないほうがいい。





文:適菜収

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