年々長くなる残暑。脳梗塞が増える現代では高血圧が気になる。

「80歳の壁」などベストセラー著書を持つ精神科医の和田秀樹さんは今夏の参院選で薬を減らすというスローガンで立党した。本誌でコロナ政策やメディア報道を論じた作家の松野大介氏が聞いた「薬」についての前編は、高血圧の基準と薬を減らす方法。



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■140から160までの血圧に薬は意味なし



 「140以上から危険なのか」「最新基準がまた変わった」と、専門家ではない人には何が本当かわかりにくい高血圧ライン。



 和田秀樹先生にお話を伺うと、ズバリこう話す。



 「イギリスで調査結果や論文などを精査した結果、血圧160以下なら降圧剤を飲んでいても飲んでいなくても、脳卒中の発症率と、先々の死亡率が変わらないとわかったんです。日本では140以上だと薬を出すわけですから、140から160までの人に出している薬は医療費としてもムダだし、本人にもムダになるわけです」



 その140という基準の決め方にも問題があるという。



 「日本は大規模調査の結果で140以上と決めているのではない。大先生たちの思いつきですから。だから科学的なデータに基づいて薬を出すようにしないといけない。これは高血圧の薬に限ったことではないんです。その結果、10種類も薬を飲ませている。そんな国は日本だけです」



 古い話になるが、還暦を迎えた私(松野)が記憶しているのは1999年に高血圧基準160/95mmHgから引き下げられ、(日本高血圧学会のガイドラインに基づいて)2000年に上は140で下は90と、最高血圧のほうは20ほどの数値が上がった。

早い段階で高血圧と判断し、早く治療することを目的としているが、この基準で高血圧の薬が多く出されるようになったという面もありそうだ。



「高血圧を気にしすぎるな!」ベストセラー作家の医師・和田秀樹が忠告する「高血圧数値」と「ムダな薬を減らす方法」
イメージ写真:PIXTA



■薬飲み過ぎ大国ニッポン



 なぜそんなに薬を飲むようになったのか。



 「10種類もの薬を飲む人がいる原因は臓器別診療にあります。一つ一つの臓器について別々に診療するわけですが、ある程度の年齢になると臓器は衰えていくわけだから、年とともに検査での数値に異常が出やすくなるのに、そのつど薬を出していれば、10種類になってしまう。血圧で言えば年齢と共に血管が老化するのは自然で、少しずつ血圧も高くなる」



 よく聞かれることだが、歳と共に血圧が上がっていった(仮に10年ごとに140、145、150)健康体な人が高血圧だからと薬を出され、めまいのような現象が起きて別の専門医を訪ねたら低血圧になっていて薬を出されたというパターンも。



 キリンは血圧が260あると言われ、その血圧で脳に必要な血液がいく。その人の「今の年齢」での最良の最高血圧は当然個人差があるので、数値変化の経緯を治療に取り入れることは大切なのだろう。



 「一人の患者に10種類も薬を出す日本がいかに特殊な医療をしているかということ。これが当たり前だと思っている人もいるし、国民皆保険のおかげでこんなに薬がもらえて嬉しいと喜んでいる人もいるかもしれませんけど、身体にいいわけがないんです」



 それを変える方法は「臓器別診療を総合診療に変えること」と言う。



 「総合診療は一人の患者の身体全体を診るわけですから、さすがにこんなに飲んでちゃヤバイよね、と医師も忠告できるし、身体に悪い薬は減らせる」



 高血圧の基準を超えたので降圧剤を飲んだら頭がフラつき、別の専門医で血圧を上げるための薬を貰うようなムダが防げそうだ。



 和田先生はその医療改革により「国民の手取りが増える」という政策を立て、先の参院選で政党を立ち上げたのだが・・・。



(後編へ、つづく)





構成:松野大介







和田秀樹(わだ・ひでき)



精神科医、作家、映画監督。

1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって、高齢者医療の現場に携わっている。『70歳が老化の分かれ道』『「人生100年」老年格差』(詩想社)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)はじめベストセラー著書多数。2025年に政治団体「幸齢党」設立。



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