年々長くなる残暑。脳梗塞が増える現代では高血圧が気になる。
■薬の飲み過ぎリスクの可能性
前回は、中年にもなれば悪い数値が出やすくなるのに、日本では各臓器を別々に診る臓器別診療であるため、臓器ごとに薬を出せば10種類もの薬を飲む人もいるという話だった。
「一人の患者に10種類も薬を出す国は世界中で日本だけ。いかに特殊な医療をしているか、ということ。これが当たり前だと思っている人もいますが、身体にいいわけがない」
薬の飲み過ぎの弊害に警鐘を鳴らす。
「10種類の半分の5つでも飲んでいる高齢者はよく転ぶというデータもあるんです。よく日本では高齢者の車の大事故が起きると「年のせい」だけになってしまいがちですが、運転が下手になって起こしたにしては、暴走事故もありますから、薬による意識障害の可能性もある。高齢だから事故を起こすというのは、特に統計データもないはずです。そして総務省は運転禁止薬を約2700種類も選んでいるんです」
高齢になれば即座の判断力が低下し、アクセルとブレーキの踏み間違いなどあるだろうが、それがケースにより薬の飲み過ぎの影響があるかどうかは調査してほしい。転倒で骨折し、寝たきりになる高齢者も多いので、高齢な親を持つ人も気になるところだ。
「ですから親に免許の返納を迫るなら、その親が飲んでる薬のチェックもしてみてください」

■薬が減れば、手取りが増える
和田先生は今夏の参院選で「薬を減らして手取りを増やす」をスローガンに幸齢党を結成。(※東京から無所属新人の候補を党の推薦という形で一人出馬し、当選はしなかった)。
「薬を減らして手取りを増やす」という流れを説明してもらった。
「ムダな薬を減らすと、年間の国民医療費50兆円が1~2割減らせるんです。その分の税金・健康保険料が減るから、その分、手取りが増える」
例えば前編にあるように血圧の基準を160にした場合、6000億円以上が浮くという。
「他の薬も科学的な研究に基づいて薬を出すようにして減らせば大体5兆円浮く。これは大櫛陽一先生(東海大学)が医療統計学で試算したデータです。私は2割の10兆円浮かせられると考えています」
10兆円の場合、単純計算で1億人で割ると年間10万円増える。
「この政策は選挙中どこのマスコミもまったく報じてもらえませんでした。製薬会社に忖度しているか知らないけど、特にテレビは薬を減らす政策をやる人たちを絶対に取り上げないんだなと今回の選挙ではっきりわかりました。しかも製薬会社の売上ベストテンのうち7社が外資ですから、外資を儲けさせるために飲む薬が増えているし、マスコミは以前から薬をたくさん飲むことの害も報じない」
しかしマスコミが大スポンサーとの関係を重視するのは当然なのかもしれない。和田先生は薬を減らす医療を訴えるためには「当選するしかない」と言う。
「そしたらテレビもイヤイヤながら私に話を聞かざるを得ない。テレビで私が話せば、国民に伝わると思う。そして前から薬の飲み過ぎに疑問を持っていた人たちがリアクションしてくれると。薬を減らす利点は2つあるんです。医療費を浮かせて保険料を減らせればみなさんの手取りに回せると話しましたが、それに加えて、薬の飲みすぎで害が出ている人が健康になること。これが第一」
それまでは講演会など地道な啓蒙活動を続けるという。
前編で触れた高血圧の薬を含め、自分と親の薬をチェックしたい。
構成:松野大介
和田秀樹(わだ・ひでき)
精神科医、作家、映画監督。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。