小泉進次郎総裁候補が進める「給付型税額控除」は貧乏人に優しい...の画像はこちら >>



◾️情の人・小泉進次郎



 小泉進次郎氏は意外にも情の人である。他の候補者と異なり知に走って角が立つところがない。

福島で「処理水」が問題になったときには、福島でサーフィンをしてみせて懸念を払拭した。このように彼は常に弱者に対する眼差しがあり、恩着せがましいことを言うことなく、行動でそれを示してみせる。



 小泉進次郎氏のちょっとした会見での齟齬をあげつらって色々という人が多いが、そもそもあらゆる記者会見を見ていても2時間ほどの記者会見を彼は立派にやり遂げる。どのような知性を持った人でも、2時間の記者会見で1回2回精彩を欠くことはあるだろう。それを考えれば、今は堂々と落ち着いて答弁する小泉進次郎氏の知性は総理として問題ないものだと考える。



 仮に百歩譲って知性の面で他の総裁候補よりも多少物足りないものがあるとしても、今の日本で最も求められているのは「情の政治」である。エリートはコモディティ(交換可能)だが、「情がある人」というのは案外今の世の中では少ないように思う。



 それを私が感じたのが吉田はるみ・立憲民主党衆議院議員の発言だ。彼女は「給付より減税」を主張し、自民党・公明党・立憲民主党の三者で協議されている「給付型税額控除」とは異なる方向性を示した。



 しかし、給付は貧困層にも効果があるのに対し、減税は中間層・富裕層にしか効果がない。彼女自身の選挙区が東京の都市部で富裕層が多いこと、一方で小泉進次郎候補の選挙区が疲弊した横須賀であるという点にも注目すべきだが、案外彼の政策方針(「給付付き税額控除についても与野党で議論をする」)は彼自身が貧困層に寄り添う情の政治家であるということを証明している。



 また一方で給付型税額控除の議論に前向きな小泉進次郎氏は自助努力を促す政治家でもある。

生活保護は海外旅行ができない(かつてはエアコンも自動車もだめだった)などあらゆる私生活の制約と引き換えに一定額の給付を得られる制度で、一定額の給付を得られるがゆえに勤労意欲を失わせる政策であった。しかし、給付型税額控除であれば働けば働くほど少しずつ収入が上がるような制度設計もできる。



小泉進次郎総裁候補が進める「給付型税額控除」は貧乏人に優しいか?【密着自民党総裁選2025 #2 林直人】
【自民党総裁選 立候補者討論会】日本記者クラブ主催の討論会。写真左から小林鷹之元経済安保相、茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗前経済安保相、小泉進次郎農水相(2025年9月24日)



■お金に清潔な小泉進次郎氏の周辺



 こうした情に篤く、公助の上に自助努力を求める気風は彼が港町・横須賀の出身であることと無縁ではないだろう。



 横須賀の人たちは日本の一般的な都市とは異なる気風を持っている。



 そうした気風の中でも特徴的なものの一つが「お金にきれい」「公助を求めない」「公に殉ずる」姿勢である。一つ一つ解説していきたい。



 まず、「お金にきれい」という点であるが、これは小泉進次郎氏の周辺を取材していて特に感じることである。小泉進次郎氏の周辺はいわゆる「ごっつぁんです」体質がない。一緒に食事に行っても自分の分は自分で払う。借りを作らない。純一郎さんの時代には事務所に差し入れを持っていったら突っ返されたというエピソードも数多ある。そういう港町ならではの安目を売らない姿勢が、既得権益に媚びない姿勢を生み出し改革を可能にする。





 また、地元の住民もそもそも政治家に利益誘導を求めない気風がある。港町であり、貿易など含めて自分たちの手で稼ぎを手に入れることができるという地理的特徴もあると思うのだが、「小泉さんには国レベルで仕事してもらうことを求めているのであって、地元のことは自分たちでやる」という声を地元では異口同音に聞いた。



 最後に「公に殉ずる」姿勢だが、これは横須賀が自衛隊・米軍の街であることと無縁ではないだろう。公を食い物にしないという姿勢の裏側に、国のためにいつでも自らを犠牲にする覚悟ができているという愛国心がある。



 こうした横須賀の風土が小泉進次郎という政治家を生んだのだろう。





■地元に利益誘導をすることを好まない政治姿勢と疲弊する地方都市



 一方で横須賀を含めた地方都市が疲弊していることも確かだ。



日産の追浜(おっぱま)工場は閉鎖され、数千人規模の労働者が路頭に迷っている。また、それによる地元経済への影響も深刻だ。横須賀の人々はかつては「武士は食わねど高楊枝」を決め込むこともできたが、これからの都市の変遷次第では「ゼロ確の帝王(選挙が終わった20時00分に当選確実が出る)」だった小泉進次郎氏といえど危うくなる展開もありうる。



 実際それを感じさせるエピソードもいくつかある。



 たとえば、かつて自民党で総理総裁を3人も出した群馬県では今参政党の勢いが凄まじい。自民党議員にあと1万票あまりまで迫り決して無視できない規模になりつつある。

そのためか、福田達夫議員は今回総裁選にはかかわらずもっぱら地元行脚を決め込んでいるという話だ。



 神奈川でもこうした自民党への逆風は激しい。幹事長経験者である大物政治家甘利明氏の落選、小泉進次郎氏の地元でも三浦市長は落選し、横須賀市長も危ういところまで追いやられた。しかし、ここで勝ち星を掴んだことが、小泉進次郎氏の総裁選出馬につながった。



 いずれにしても、今自民党はどんな大物議員でも安泰ということがない。非常に危うい立場に立たされている。そうした中でやはり生活が苦しい人々の声を無視できなくなっていることは確かである。



 その時に必要なのは、真に「情の政治家」であることは間違いない。





文:林直人

編集部おすすめ