「あの人は美人なのになぜ結婚しないのだろうか」そんな存在があなたの身の回りにもいるのではないだろうか。
生涯未婚率が上昇を続ける今の世の中では、独身のまま生きる人は、珍しくない。
とは言えアラフォーになっても独身でいる女性の声はまだ十分にすくいきれていない。
当事者たちも、世間の反応に居心地の悪さを感じることは多い。
いったい彼女たちは、何を思い、どんな経緯で独身を選んでいるのだろうか。
ミドル独女当事者のライターが、取材を通してその理由に迫っていく。
■苦痛でしかなかった婚活
「婚活は、職場で受けていたパワハラ以上に苦しかったです」
そう語るのは、都内の化粧品メーカーで営業事務の仕事をしている真弓さん(仮名、43歳)だ。
20代のアパレル店長時代、過酷なノルマとプレッシャーから睡眠障害やパニック障害に追い込まれた経験を持つ彼女にとって、それ以上に辛かったのが婚活だった。
ぱっちりした目をしていて、華やかな雰囲気をまとう真弓さんは、芸能人で言えば香里奈に似ている。美容好きなので、友人から“美容番長”と呼ばれることもある。大食い・大酒飲みなのにやせ型。開放的な性格から、初対面の人とも垣根ナシに接することができ、男女問わず、すぐに仲良くなれる。
バーで飲んでいるときに声を掛けられ、やがて深い仲になった“彼氏”は一人や二人ではなかった。完全にモテ女子だった真弓さん。
「ああ、男の人と会わなきゃいけないなって思うと、テンションが本当に上がらなくて。お見合いパーティ・マッチングアプリ・異業種交流会・メディアが主催する婚活イベントなど、さまざま試したけど、毎回疲れていました。行きたくて行くということは、一度もなかったです」
笑顔をつくり、相手に合わせ、会話を盛り上げる。自分とは違うキャラクターを、「選ばれる」ために演じなければいけないことは、真弓さんにとって苦痛以外の何物でもなかった。

■恋愛結婚は考えられなかった
真弓さんが婚活を始めた理由は、「恋愛結婚はナイなぁ」と思ったからだという。
真弓さんの恋愛遍歴や恋愛観を探ってみる。
学生時代から付き合う人は常にいたが、5カ月以上続いたことがなかった。
「高校生のときは、中学から仲が良かった男の子との交流をずっと続けていました。お友達の延長線上にちょっと関係が深くなる男の子っていう立ち位置でしかないから、友達と彼氏の境界線がよくわかってなくて......。ちょっと深い話ができたり、遊びに誘ってくれたり、何かおもてなしをしてくれる人を彼氏だと思っていました」
特定の異性に強く惹かれる感覚は薄かったようだ。その代わりに男女の別なく「知性」に惹かれる傾向があった。
「友達の紹介で出会った話の面白い女の子に、恋に近い感情を持ったことがあります。見た目やステータス、性別なんかの表面的なところではなく、会話の深さ・頭の回転の速さ・ユーモア・洞察力などに魅了される“サピオセクシュアル”って言葉を知ったとき、しっくりきました」
だからトキメキを感じるのは、本で作家の考え方に触れたとき、ウィットに富んだお笑いを聞いたときなど、様々な場面である。セクシュアリティの自認も含めて人とは違う感性を持つ真弓さん、一般的な恋愛→結婚というレールには違和感が強かったはずだ。
■結婚のプレッシャーから解放してくれた母の言葉
その後「婚活しんどい問題」はどのように解決していったのだろうか。
真弓さんを婚活に駆り立てたのは、家族への想いもあった。
「親戚がどんどん結婚していって、お正月の集まりに子どもを連れて来ることが増えたんです。ひ孫を見て喜ぶおばあちゃんの姿を見たとき、子どもがいることで、こんなに喜ばせることができるんだと思いました。それに、孫を見せたら親も喜ぶと思ったので」
しかし振り返れば、親から直接結婚のプレッシャーをかけられたことはなかった。そして、「結婚はしない」と思い切って母に打ち明けたのだった。
すると、母からは「しろなんて一言も言ってないよ。しないならしないでいいんじゃない」という、思ってもみなかった返事が返ってきた。
受験や就活のような感覚で婚活していた真弓さんは、その言葉を聞いた途端、背負っていた重荷がガラガラと崩れ落ちるような気分になった。
父もまた、母と同じ意見でいてくれた。両親はいつも真弓さんの意思を尊重してくれていたのだ。
■20代の半同棲で「一人の価値」を悟った
真弓さんには常に夢中になれるものがあった。20代は音楽漬けの日々を送り、現在はアニメに夢中だ。
「自分が楽しいと思うことをする時間がなくなるぐらいなら、仲が良い男性ができても、お友達のままでもいいと思っています。とにかく、今の生活を変えたくないですね」
そう思い至るまでには、「一人がいい」と実感した経験があった。
「20代の頃、向こうからのアプローチで付き合った男の子がいたんです。その子は私の家の近くで実家暮らしをしていたのですが、毎日、私の部屋に入り浸るようになって半同棲生活をしていました。仲が良かったし一緒にいるのは楽しくて好きだったのに、2週間くらい入り浸られたあたりからだんだん辛くなってきて......。『せめて週末だけにして』と言っても帰ってくれなかったんです」
当時住んでいたのはワンルームの部屋。確かにそれはどんなに好きな相手でも息苦しい。
「そんななか、『誕生日のプレゼント何がいい?』と聞かれたので、ついに我慢の限界が来てしまって。
激ギレした真弓さんの言葉を聞いた相手は凍り付いていたことだろう(笑)。真弓さんは、この経験によって一人の時間の大切さを再確認した。
結婚は安心・安定につながると考える人が多数派だが、真弓さんにとっては、自分が大切にしている世界を脅かされないことが、心の安定と幸せのために何よりも必要だった。
■猫との幸せな時間、両親とのかけがえのない時間
現在、真弓さんは猫とともに1LDKの家で暮らしながら、アニメやお酒、友人との遊びを楽しむ日々に幸せを感じている。
両親が大病を患い、土日のどちらかは実家の手伝いに行っているというが、「結婚していないからこそ動きやすい」と前向きに考えている。
真弓さんの母は、今年の春にステージ4のがんが見つかった。しかし、手術によって転移したがん細胞をすべて取り除くことができ、どうにか一命をとりとめることができた。

父もまた、3年前に難病の診断を受けている。母のことを話しながら涙ぐんでいた真弓さん。両親が大好きな真弓さんにとって、二人と過ごす時間は何にもかえがたいときなのだろう。
結婚のことは、もう考えていないのだろうか。
「俳優の堤真一さんが今の家庭を崩して結婚してくれるならいいなぁって」と真弓さんらしい冗談をかました後、今の考えを聞かせてくれた。
「相当この人と結婚したいっていうぐらい一緒にいたいって思える人がいたら考えるかもしれないけど、探しには行ってないから見つからないと思う。相手がいた方が楽しいと思うときもあるし、人肌恋しくなることもあるけど、好きな物を食べて猫をモフモフしてたら気は紛れます。そういえば、私、孤独で寂しい、どうにかなっちゃいそうっていう風になったこと一回もないかもしれない」
多くの独身者が抱く経済面の不安についてはどう考えているのだろう。
「でも何とかなるんじゃないかなって思ってるんです。今は不安だけど先のことわかんないし、多分それって結婚してもあるだろうから、私だけじゃないという安心感があります」
■今できることを精一杯やるだけよ
さらに続ける。
「旦那さんの年収がたとえ4億あったとしても、話がつまらない人だったら結婚したいと思わないです。この先、もしそういう人と結婚したとしても、つまんないなと思ったら不倫するんじゃないかな。そういう人と一生安定する生活をするよりも、自分のお給料内で楽しい友達に囲まれて刺激のある会話を聞いている方が、生きがいを感じると思うんです」
地元の友人の多くは離婚し始めているという。彼女たちの話を聞くことで、「私は独身のままでいて良かった」と自分を肯定できているのかもしれない。
周囲が、結婚・出産・子育てなどで時計の針を進めていた間、真弓さんも、趣味や仕事、袖すりあった人たちと心地良い団らんを楽しみながら生きてきたのだ。
最後に、10年前の自分に戻れるならどんな生き方がしたいか聞いてみた。
「もし昔の自分に声を掛けられるなら、婚活頑張らなくていいんだよって言いたいなぁー。勝手にあんたが頑張ってるだけなんだよって。独身でも幸せだし、本当に、今が一番幸せだよって言いたいです。どんな生活をしてても絶対不満ってあると思うから、それならそれで与えられた今の環境で精一杯やれることをやって、解消すればいいだけの話です。それって乗り越えられるぐらいのものじゃんみたいな感じで」
と言いながら、真弓さんの部屋に貼ってあるロード・オブ・ザ・リングのガンダルフの言葉を紹介してくれた。
"All we have to decide is what to do with the time that is given to us."
「つらい目に会うと、悩んでしまうが、悩んだところで変えられない。大事なのは、これからの時間で、自分に何ができるかを考えることじゃ」
幸せは、人それぞれカタチが違う。
もし真弓さんが、世間のレールのままに無理にでも結婚していたら、望まない役割を背負わされ息苦しさのなかで自分の“好き”を押し込めて生きていたかもしれない。
果たして、真弓さんを愛する人たちは、そうなることを望んだだろうかーー。
アニメの話をするときの真弓さんは、肩の力が抜けて少女のように純粋な表情をしていた。
共に生きていける相手とは、そんなふうに、「これが私」と生き生きと自己表現できる人なのではないだろうか。
筆者も、周りがそうしているからと婚活をしてみたし、そのなかで付き合った人もいた。しかし、お互いに求めるものが違っていた。
さまざまな仕事を渡り歩いてライターになった私にとって、書く仕事は「生きる意味」であり「生きる場所」になっている。
しかし、元カレはそんな私の生き方を尊重するというより、ただ癒やしをくれる存在であることを望んでいるように感じた。
そして、私は、再び一人になり冒険の旅を続けることにした。
私もまた、ガンダルフの言葉のごとく、過去に学び「今できることを精一杯やるだけ」なのだ。
取材・文:谷口友妃