形成外科医として、先天異常や外傷後の治療から美容医療まで幅広く手がける、ユートピアートクリニック恵比寿の松宮詩依医師。アイプチ、ボトックス、老いも若きも整形にハマる時代、現代人は何を求めているのだろうか。

■表情が変われば、心も変わる
美容治療の目的は「見た目を変えること」だけではありません。表情や輪郭が変われば、物事の受け止め方、日々の考え方、そして行動まで変わっていく。この心身相関を、私は臨床で日々目の当たりにしています。
たとえば、眉間に力が入りやすく険しい表情の方は、周囲だけでなく自分自身にも否定的な感情を呼び込みやすいと言われています。そういった方にボトックス注射で眉間のしわを緩めると、表情と感情の悪循環を断ち切るきっかけとなります。「気分の落ち込みが和らいだ」と話される方もいます(もちろん、うつ病の治療そのものではなく、医療との併用・見守りが前提ですが)。見た目も若々しくなり、心にも変化が訪れるのです。
一方で、かつて流行した“ぷるぷる注射”をご存知でしょうか。これは、専門的な用語になりますが、PRP(自分の血液から取り出す修復成分)に、本来は外用薬として創傷治療に使われるFGF(細胞増殖を強く促すたんぱく)を混ぜて皮下に注射し、コラーゲン生成を刺激して肌をきれいにするという触れ込みの治療でした。
しかし、予期せぬ有害反応が続出しました。皮下でコラーゲンが過剰増生し、不自然な膨らみが生じる。
「綺麗になりたくて治療したのに、逆に人前に出るのが怖くなった」
「カメラや窓に映る自分を見るのがつらい」
患者さんからはこういった声を何度も聞きました。しかし、しこりを溶解する修正治療を段階的に行うと、患者さんの表情が明るくなり、日常に前向きさが戻っていくのです。
■形成外科医として見てきた、心の変化
美容医療は、形成外科の領域です。形成外科では、先天異常や外傷・熱傷後の瘢痕(はんこん)など、見た目の疾患に向き合っていくわけですが、治療が進むにつれ、攻撃的・抑うつ的だった患者さんが、社交的で柔らかな雰囲気へと変化していく——そんな瞬間を何度も目の当たりにしてきました。
たとえば、生まれつき瞼が重く目が小さく見えるお子さんが、手術で視野を手に入れ、印象がガラリと変わり、部活動や学級委員に挑戦するようになる。あるいは、配偶者を亡くされた方が一念発起し、若返りの治療をして「もう一度、自分の人生を生きる」と前向きな一歩を踏み出す。
看板(見た目)は内面を映し出す鏡であり、看板を整えることで中身にも追い風が吹く。そんな力が確実にあるのです。
■ルッキズムの圧力と、「本当の美しさ」とは
ただし、必要以上に見た目にとらわれる「醜形恐怖」や、若年層に蔓延するルッキズム(容姿至上主義)は、心をすり減らすだけです。「みんなやっているから自分も」という圧力は、ときに本来の自分から遠ざけることにもなりかねません。
代表例が「脱毛」です。海外では脇毛も個性として捉える文化がある一方、日本ではそれがいじめの原因になるという相談をよく受けます。文化・価値観・年齢により「正解」が、もっと踏み込めば「正義」すら異なるのです。
だからこそ、私たちが大切にしなければならないのは、自分らしい美しさの基準を自分の内側に取り戻すことです。
私が大切にしている5つの原則
そのために、私は常に次のことを心がけています。
1. 体に無理な負担をかけず、安全面を守りながら量や場所を丁寧に考えること
2. いきなり大きく変えるのではなく、少しずつ段階を踏んで進めること
3. カウンセリングで、患者さんが本当に大切にしたい思いを言葉にしていくこと
4. 十分に考える時間をとり、同じ日にたくさん重ねすぎないこと
5. 必要なときには、心の専門家と力を合わせて支えていくこと
たとえば、ボツリヌストキシンでは表情筋の過緊張を緩めます。高周波やハイフなどのエネルギーデバイス、注入で足し引きのバランスを整えます。逆に不本意な注入物は溶解もしくは除去します。外科的手術で不要なものを取り除き、筋肉などの皮下組織、皮膚を本来の位置に戻します。
いずれもゴールは「自然で、動いても美しい」ことです。
見た目が整えば、メイクや服装、姿勢、言葉遣いまで不思議と変わります。日々の選択が前向きに連鎖していく。
美容医療は、心を直接いじる治療ではありません。しかし、確実に自己肯定感を育んでいける医療だと、私は信じています。
流行や人の物差しに振り回されず、患者様が心地よいと思える姿になれるように。その選択を一緒に考えていきたい。私はいつもそう考えています。
語り:ユートピアートクリニック恵比寿 松宮詩依