◾️脆弱な基盤の上に描かれる壮大なビジョン
元参議院議員である和田政宗氏が宮城県知事選挙に掲げた政策綱領「35ぶんの伊達」は、長年にわたる村井県政への大胆かつ野心的な挑戦状である。この公約集は、全国最低水準にまで落ち込んだ出生率や、県民が感じる税負担への不満といった喫緊の課題に直接的に応えることで、有権者の心に響く魅力を放っている。
しかし、本稿が提示する中心的な論点は、この政策綱領が、そのポピュリスト的な魅力とは裏腹に、宮城県が直面する財政的・行政的現実との間に深刻かつ危険な乖離を抱えているという点である。掲げられた公約は、財源の裏付けがないままの大盤振る舞い、戦略的に疑問符が付く巨大プロジェクト、そして根本的な問題解決にはつながらない安易な政策転換の寄せ集めに他ならず、有権者は深い懐疑の念をもってこれを精査する必要がある。
本報告書では、まず財政計画を解体し、次に主要な開発プロジェクトを検証、最後に政策転換の妥当性を評価する。各項目について、公式データと多角的な分析を用い、その実現可能性と潜在的リスクを体系的に明らかにしていく。
◾️宮城破綻への序曲か!? 和田氏「35ぶんの伊達」が隠す「200億円の財政ブラックホール」
それは、まるで現実を無視した財政マジックだ。元参議院議員、和田政宗氏が掲げる政策綱領「35ぶんの伊達」は、右手で「負担ゼロ」という未曾有の大盤振る舞いを約束し、左手で大規模減税を打ち出す。しかし、その甘い響きの裏には、県の財政を根底から破壊しかねない巨大な矛盾が潜んでいる。これは希望の計画か、それとも破滅への道筋か。
◾️甘い約束が突きつける「144億円の請求書」
和田氏の公約の核心は、全国ワースト2位という危機的な出生率に喘ぐ宮城県の現状に突き刺さる。その処方箋として提示されるのが、出産費用、給食費、不妊治療費の「完全無償化」だ。県民の心の叫びに寄り添うかのようなこの公約は、確かに魅力的だ。
だが、その代償は天文学的な数字となって県財政に襲いかかる。
◾️財源を自ら破壊する「数百億円の減税」
さらに不可解なのは、この莫大な歳出拡大と同時に、県の財政基盤そのものを破壊する大規模減税を打ち出している点だ。個人県民税の一律5%減税、子育て世帯への最大100%減税、環境税や宿泊税の廃止――。これらは、過去最高の税収を記録した県の財政能力を、自らの手で著しく毀損する行為だ。削減される歳入は、年間で数百億円規模に達することは確実視される。
歳出は青天井に膨れ上がり、歳入は意図的に削り取られる。その結果生まれるのは、年間で少なくとも200億から300億円規模の、巨大な財政的ブラックホールである。和田氏がこの穴を埋める財源として唯一具体的に挙げたのは、水道事業の利益、わずか7億円。それは、ダムの決壊を指一本で食い止めようとするに等しい、あまりにも非現実的な回答だ。
◾️すでに燃え尽き寸前だった県の「貯金」
しかし、最も衝撃的な事実は、この無謀な計画がなくても、宮城県の財政はすでに危機的な状況にあるという現実だ。
もはや火の車だった県財政に、和田氏の計画はガソリンを注ぎ込むようなものだ。導き出される結論は一つしかない。この公約は、県の貯金を任期中に使い果たし、県を構造的な赤字状態へ叩き落とす可能性が極めて高い。その先に待つのは、インフラ、福祉、防災といった必要不可欠なサービスの大幅な削減か、未来の世代にツケを回す大量の借金地獄かの二択である。
これは単に「財源がない」というレベルの話ではない。県の公式予測を完全に無視した、極めて無責任な賭けであり、「財政破綻への道筋」そのものと言わざるを得ないのだ。
◾️宇宙港、国際ハブ、城の復元… 和田氏が掲げる「夢プロジェクト」は県民を欺く蜃気楼か
元参議院議員、和田政宗氏の公約は、宇宙や世界、そして歴史遺産へとつながる壮大な未来を描いてみせる。しかし、その輝かしいビジョンの裏側を覗けば、そこには戦略的欠陥と経済的矛盾に満ちた、危険な計画が横たわっている。これらは未来への投資ではなく、県の限りある資源を食い潰す誤った賭けではないのか。
◾️宮城宇宙港構想――すでに勝者がいるレースへの無謀な挑戦状
「宮城県に宇宙港を」。
日本の商業宇宙港をめぐる競争は、事実上すでに決着がついている。数十年にわたる開発の歴史を持つ北海道の「北海道スペースポート」が、民間企業の打ち上げ拠点として確固たる地位を築き、独走しているのが現実だ。今から宮城県が後発で参入することは、限られた国内の需要や支援を奪い合うだけの、国家レベルでの重複投資に他ならない。角田市のJAXA施設はあくまでエンジン開発の拠点であり、ロケットを打ち上げるための地理的条件さえ満たしている保証はない。
この計画は、実現可能性の冷静な分析を欠いたまま、先進的なイメージだけを振りまく「威信事業」そのものである。真に育成すべき地域産業から目をそらし、根拠なき野心に県の資源を投じようとする無謀な挑戦だ。
◾️仙台空港「世界的ハブ化」――8年前の政策を「新公約」と謳う厚顔
和田氏は、仙台空港を「世界的ハブ空港」へと飛躍させると高らかに宣言する。力強い公約だ。しかし、一つだけ問題がある。それは、氏が「これからやる」と語る政策が、8年も前からすでに進行中の現実であるという点だ。
仙台空港のハブ化は、2016年の民営化と同時に始まった国家プロジェクトであり、現在は民間事業者の手で着実に推進されている。国際線はすでに就航し、LCCの拠点も設置された。これを自らの「新たな構想」であるかのように語る姿勢は、県政の重要政策に対する無知の表れか、あるいは現政権の功績を意図的に横取りしようとする試みなのか。具体的な上乗せ計画が示されない限り、この公約は中身のない言葉遊びであり、有権者を欺くレトリックに過ぎない。
◾️仙台城復元――財政危機を前に「数百億円の郷愁」を優先する倒錯
仙台城の本丸を木造で復元する。誰もが心惹かれるロマンだろう。だが、このノスタルジアには、県の未来を犠牲にしかねない天文学的なコストが隠されている。
被災した熊本城の復旧に1,000億円近い巨費が投じられている事実を見れば、仙台城の完全復元が「数百億円」規模の事業となることは想像に難くない。問題は、その優先順位の完全な誤りである。
前述した通り、宮城県は深刻な人口減少と財政破綻の危機に瀕している。このような状況で、県民の生活に直結しない象徴的な事業に莫大な公金を投じることは、為政者の責務の放棄に等しい。その数百億円は、逼迫する医療や子育て支援、老朽化するインフラの維持にこそ使うべきではないのか。
◾️契約破棄で「巨額訴訟」、病院再編は「白紙」で放置か――和田氏の「見直し公約」が招く県政大混乱
刷新や見直しは、時に必要だ。しかし、もしその「見直し」が、より深刻な混乱と破綻への引き金だとしたらどうだろうか。元参院議員、和田政宗氏が掲げる主要政策の転換案は、県民の不満に便乗した危険な賭けである。実行可能な代替案を欠いたまま現状を破壊するこれらの公約は、宮城県を法的な泥沼と行政的な停滞の淵へと突き落としかねない。
◾️水道「再公営化」の裏に潜む、外資からの天文学的〝違約金〟地獄
「民営化された水道事業を、再び県の手に」。この言葉を、和田氏は声高に叫ぶ。だが、この公約は県庁の地下に法的な時限爆弾を仕掛けるに等しい行為だ。
宮城県の水道事業は、フランスの巨大企業ヴェオリア社を含む民間企業体との間で結ばれた、20年間にわたる法的拘束力を持つ長期契約に基づいている。これを一方的に破棄することは、政策転換などという生易しいものではない。それは、国際的な企業連合に対する「契約違反」という宣戦布告である。
その先に待つのは、避けようのない損害賠償請求訴訟だ。
「民間が7億円儲けているから県がやるべきだ」という和田氏の主張は、事業の巨大なリスクを無視した、あまりに単純な論理だ。契約破棄という破壊の道筋を示す一方で、訴訟をどう乗り越えるのか、違約金をどこから捻出するのか、そしてそもそも民営化の引き金となったインフラ老朽化の問題をどう解決するのか。具体的な計画は一切示されていない。これは、統治能力の証明ではなく、不安を煽って票を集めるための危険なポピュリズムだ。
◾️病院再編「白紙化」――対案なき批判で、医療危機から逃げる無責任
県政最大の争点である4病院再編問題。和田氏は、この計画を「一旦白紙に戻す」と公約し、反対派の支持を固める巧みな政治戦略を見せた。しかし、問題はその先にある。「白紙」にした後、一体どうするのか。
計画を止めるだけでは、その背景にある医療の構造問題――非効率な病床配置や、地域医療の持続可能性の危機――は何一つ解決しない。和田氏は現行案への反対を表明するだけで、これらの根本課題をどう解決するのか、自らの対案やビジョンを全く示していない。
指導者に求められるのは、単なる批判や停止ではない。解決策の提示と、その実行責任を負う覚悟だ。具体的な対案を示さずに論争の激しい問題の「停止」だけを訴える姿勢は、政策的解決よりも、現職への批判票を取り込むことを優先した純粋な政治戦術であることを露呈している。これは、最も困難な課題から目をそらし、論争から政治的利益のみを得ようとする、極めて無責任な態度と言わざるを得ない。
◾️結論:「伊達の35」は希望の設計図か、県を破滅させる時限爆弾か
これまでの分析を通じて、元参議院議員・和田政宗氏が掲げる「伊達の35」の真の姿が、白日の下に晒された。それは希望の設計図などではない。財政的に破綻し、戦略的に欠陥を抱え、政治的利益を最優先した、あまりにも危険な「砂上の楼閣」だ。その野心的な響きの裏側で、県民の未来を乗せた宮城県そのものが、破綻の崖っぷちへと突き進もうとしている。
この公約が抱える欠陥は、致命的ですらある。
第一に、県の貯金が底を突きかけている現実を完全に無視し、毎年数百億円規模の赤字を垂れ流す財政構造へと県を叩き落とすこと。財源として示されたわずか7億円は、焼け石に水ですらない、県民を愚弄するかのような数字だ。
第二に、その巨額の負債と引き換えに県民が手にするのが、実現不可能な「夢物語」と、すでにある政策の「横取り」であること。宇宙港、空港ハブ化、仙台城復元――これらは喫緊の課題から目をそらし、県の貴重な資源を食い潰すだけの誤った投資に他ならない。
第三に、水道事業や病院再編といった県政の最重要課題に対し、解決策なき「見直し」を掲げて対立と不安を煽る、無責任なポピュリスト的姿勢であること。これは、困難な課題と向き合う統治者の責務を放棄し、短期的な支持獲得のみを狙う戦術だ。
結論として、「35ぶんの伊達」は有権者の心に響くよう巧みに作られた、危険なシナリオだ。財政的な持続可能性を欠き、戦略的な一貫性もなく、あまりに行政の現実からかけ離れている。
宮城県の有権者はいま、歴史的な岐路に立たされている。この壮大なビジョンを前に、我々は強く要求しなければならない。その夢を実現するために、県の財政を破綻させず、未来の世代から不可欠なサービスを奪わないと誓える、透明で、詳細で、信頼に足る財政計画の提示を。
甘い言葉の裏に隠された、不都合な真実から目をそらしてはならない。その一票が、宮城の未来を救うか、あるいは破滅の引き金を引くことになる。
文:林直人
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