趣味は人生を豊かにする。人間関係も広がるし、精神的な刺激を受けることにより、若々しさを維持し、充実した生活を送ることができる。
◾️藤子・F・不二雄に学んだこと
昔、『麻雀・カラオケ・ゴルフは、おやめなさい』という経済評論家・長谷川慶太郎の本があった。しかし、麻雀・カラオケ・ゴルフだって、バカにしたものではない。そこで発生したコミュニケーションが、人生を切り開くこともある。趣味はたくさん持っているほうがいい。趣味は心を豊かにさせる。
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ではコミュニケーションが嫌いな、心を豊かにしたくない、厭世的な生活を続けるわれわれはどのような趣味を持てばいいのか。他人と関わらず一人でできることがいい。麻雀ならネット麻雀、カラオケなら一人カラオケ、ゴルフなら練習場に行く。
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私は厭世的な趣味として「あやとり」にヒントがあると思う。あやとりは一人でできるし、なんの生産性もない。「流れ星」や「ほうき」ができたところで、だからどうしたという話。なんの役にも立たないのは大切なことだ。のび太の趣味をあやとりに設定した藤子・F・不二雄は凄いと思う。
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昔、某酒場に木ノ内さんという常連客がいた。彼の趣味は全国の郵便局を訪れ、1円玉を貯金し、その通帳を集めることだった。酒の席なので私は黙っていたが、くだらないにも程がある。その通帳の山を見て木ノ内さんがほっこりするためだけに、郵便局員の仕事を増やし、国民の税金(当時は国営だった)をドブに捨てたわけだ。
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木ノ内さんは死んでしまったが、その通帳の山はどうなったのか。全部降ろすのも手間なので、遺族が捨てた可能性が高い。
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余談だが世の中に存在する膨大な写真(プリントしたものもパソコンに入っているものも含めて)について考えると不思議な気分になる。人は死んでも写真は残る。時間の経過により、誰が何をやっているのかがわからない写真が世の中に堆積していく。
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私は昔、江戸前寿司の系譜を追うことを趣味にしていた。記憶に強く残っているのは厭世的な気分になる寿司屋である。たとえば新橋にあった第三春美鮨。湯呑が使いづらい焼き物。店主の趣味を客に押し付けてくる。新子が出てきたとき、「新子とはなにか?」と書かれた紙切れを一緒に出された。萎える。
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武蔵小山のいずみは、つまみが出るたびに店主の説明(ほとんど自慢話)がはじまる。
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下北沢の福元。「この時期、いい鳥貝が入らなくて」と言いながら、鳥貝を出してきた。だったら出すなよ。
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駒込のS寿司。店主はランニングシャツ姿。私「白身をください」。店主「ないねえ」。私「それなら赤身をください」。店主「ないねえ」。醤油皿を見たら、小さなゴキブリが泳いでいた。
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早稲田のK鮨。店主がいつもカウンターでプレイステーションをしている。アジが腐っていたので文句を言うと、クンクンと臭いを嗅ぎながら「じゃあ、こっちのアジはどうだろう」と出してくる。 私が食べるのを拒否すると、「さっきのお客さんにアジを出したけど、悪いことしちゃったなあ」だって。目の前の私には悪くないのか? 店を出た後に腹が痛くなったので、店に戻って「腹痛くなったからカネ返してよ」と言うと、「痛くなるわけがない」と。 私が「アジ、腐っていただろ」と言うと「あれは腐っていたのではなくて悪くなっていたんだよ!」。 素晴らしい。
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庚申塚に看板が傾いているボロボロの寿司屋があった。中に入ると、ステテコを穿いた爺さんが出てきて、「悪いな。今やってないんだよ」とのこと。
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大塚のSは、魚も寿司も素晴らしいが、一番いいのは愛想がないところ。客から話しかけられても、あまり相手にせず、面倒になると奥の厨房に引っ込んでしまう。だから、愛想を求めてやってくる客がいない。世の中にはいろいろな種類の人間がいる。会話を求める客、寿司種の産地の説明をしてほしい客、蘊蓄を披歴したい客……。私はそういう客がいる寿司屋は嫌なので、なるべく活気のない、厭世的な寿司屋に行くことが多くなった。
◾️ミーハーな鰻屋
Kという鰻屋がある。値段はすごく高い。昔、知人に連れられて、何度か行ったが、そこの店主は江戸っ子ぶりたいのか、「粗雑」と「粋」を混同しているのか、客の私にもタメ口で話してくる。
あるとき、池袋の芸術劇場で立川談春の独演会があり、そのあと10人くらいで談春を囲んで池袋二丁目の小料理屋で酒を飲んだ。その日の朝まで私は博多の祇園で酒を飲んでいて、そこから芸術劇場に直行したので、疲れていて独演会の間は完全に寝てしまった。だから落語の内容の話になったときに、それを悟られないように、個室から外に出た。すると店内のカウンターにKの店主がいて、私を見つけて猫なで声で近づいてきた。「談春さんとお知り合いなんですかあ」みたいな。ミーハーな鰻屋。
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学生の頃、友人とよく麻雀をやっていた。今でもネットで麻雀をすることがある。カネをかけているわけでもないし、生産性はゼロだが、単なる時間潰しではないように感じる。頭の中でなにかが作用している感じもある。判断能力が身に着くとか、数学的にどうこうといった説明はいくらでもできるが、それだけではないものが麻雀にはある。それは原始的で本能に近いものなのかもしれない。カンチャンでツモると、うれしくなる。パチンコでチャッカーにタマが入るとうれしいのと同じ。生物は、隙間や穴に、なにかを入れるのが好きなのである(多分)。
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大学時代に友人と雀荘で麻雀をしていると、急にお腹が痛くなり、トイレに行った。その後も腹痛が続き、何回もトイレに行った。すると、店の婆さんが正露丸を渡してくれた。 私が用法通り3粒飲もうとすると、「3粒で効くわけないでしょう。10粒飲みなさい」と言い出した。私は「とりあえず3粒でいい」と答えたが、婆さんは聞き入れない。「じゃあ、7粒飲みなさい」。 結局5粒飲まされたが、まさに玉虫色の決着といったところか。
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こう見てくると、厭世的な趣味は落語に似ているところがある。人間の闇の部分、業、どうしようもなさに接近するのだから。大人になるとは、人に胸を張って自慢できない趣味の一つや二つを持つことではないか。
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ちなみに最近の私の趣味は苔栽培である。
文:適菜収
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